酸化窒素(読み)さんかちっそ(英語表記)nitrogen oxide

日本大百科全書(ニッポニカ) 「酸化窒素」の意味・わかりやすい解説

酸化窒素
さんかちっそ
nitrogen oxide

窒素酸化物総称で、酸化数ⅠからⅤまでの化合物が知られているが、一般には一酸化窒素NOをさすことが多い。また環境用語で窒素酸化物というときは一酸化窒素と二酸化窒素の混合物であるいわゆるノックスNOxをさすことが多い。

 一酸化窒素nitrogen monoxideは、亜硝酸塩とヨウ化水素酸の反応で得られる。工業的には、触媒の存在下でアンモニアの酸素酸化で得られる。また空気中で高温燃焼があると生成するので、工場の煙突からの排ガス、あるいは自動車その他の内燃機関の燃焼排ガス中に含まれる。その他大気中の放電によっても生成される。無色の常磁性気体。空気中で酸化されて赤褐色の二酸化窒素NO2になる。水には溶けにくい。窒素と酸素から高温で直接生成するので、二酸化窒素とともに大気汚染源となる。多くの物質と反応しやすく、酸化されやすい。金属塩の溶液に吸収されやすく、たとえば、硫酸鉄(Ⅱ)とは不安定な褐色のニトロシル化合物をつくるので、検出に用いられる。硝酸製造原料である。多くの遷移金属と金属ニトロシルをつくる。空気中ではNO2とN2O4の混合物となり、毒性が強い。

 三酸化二窒素無水亜硝酸と俗称することもある。酸化ヒ素(Ⅲ)に硝酸を作用させて得られる褐色の気体でON-NO2分子からなる。一酸化窒素と二酸化窒素を低温で反応させても得られる。液体固体青色。不安定で水に溶けて亜硝酸を生じるが、さらに硝酸と一酸化窒素になる。

 三酸化窒素NO3は、窒素の酸化物とオゾンの反応によって生じる不安定な濃青色の気体。また、六酸化二窒素N2O6は、二酸化窒素と液体酸素との反応によって生成するきわめて不安定な緑色固体である。

 ほかに、一酸化二窒素亜酸化窒素)N2O、二酸化窒素、四酸化二窒素N2O4五酸化二窒素N2O5がある()。

[守永健一・中原勝儼]


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「酸化窒素」の意味・読み・例文・類語

さんか‐ちっそ サンクヮ‥【酸化窒素】

〘名〙 窒素の酸化物。
① 酸化二窒素。化学式 N2O 常温常圧で無色透明の気体。液体・固体とも無色透明。吸入すると顔の筋肉をけいれんさせ笑うような表情となるので笑気ともいう。吸入麻酔薬に用いられる。亜酸化窒素。
② 一酸化窒素。化学式 NO 無色気体。反応性にすぐれ、多くの金属とニトロシル化合物をつくる。
③ 三酸化二窒素。化学式 N2O3 常温で赤褐色の気体。液体は青色、固体は青色の正方晶系結晶。三二酸化窒素。無水亜硝酸。
④ 二酸化窒素。化学式 NO2 常温で赤褐色の気体。液体は黄色、固体は無色。反応性にすぐれる。過酸化窒素。
⑤ 五酸化二窒素。化学式 N2O5 無色透明のプリズム状固体。吸湿性で水に溶けると硝酸になる。五二酸化窒素。無水硝酸。
⑥ 三酸化窒素。化学式 NO3 窒素または窒素の酸化物とオゾンまたは酸素との反応によって生ずる気体。
⑦ 六酸化二窒素。化学式 N2O6 緑色の固体。酸化窒素と液体空気または液体酸素との反応によって生ずる。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

化学辞典 第2版 「酸化窒素」の解説

酸化窒素
サンカチッソ
nitrogen oxide

窒素の酸化物として,Nの酸化数1から5までの,次の6種類が一般に知られている.一酸化二窒素N2O(44.01),一酸化窒素NO(30.01),三酸化二窒素N2O3(76.01),二酸化窒素NO2(46.01),四酸化二窒素N2O4(92.01),五酸化二窒素N2O5(108.01).これ以外に不安定なものとして三酸化窒素NO3(62.00)とその二量体にあたる六酸化二窒素N2O6(124.01)がある.大気汚染成分の一つに窒素酸化物NOxがあるが,このものは高温での燃料の空気酸化および空気中の窒素と酸素の化合により生じるNOとNO2の両者をまとめていう.[CAS 0-01-1]

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

百科事典マイペディア 「酸化窒素」の意味・わかりやすい解説

酸化窒素【さんかちっそ】

通常,一二酸化窒素(亜酸化窒素)N2O,一酸化窒素NO,三二酸化窒素N2O3二酸化窒素NO2など6種類のものが知られるが,NOをさすことが多い。その他2量体もある。大気汚染物質NO(/x)は,これらのうち燃焼等で生じるNO,NO2等も総称。なお一酸化窒素NOは,細胞内でのシグナル伝達物質として重要な働きをする。
→関連項目化石燃料クリーンエネルギー

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「酸化窒素」の意味・わかりやすい解説

酸化窒素
さんかちっそ
nitrogen oxide

窒素と酸素の化合物。酸化窒素としては一酸化二窒素 N2O ,一酸化窒素 NO ,三酸化二窒素 N2O3 ,二酸化窒素 NO2 ,四酸化二窒素 N2O4 ,五酸化二窒素 N2O5 ,三酸化窒素 NO3 ,六酸化二窒素 N2O6 が知られている。通常,酸化窒素といえば一酸化窒素をさす場合が多い。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

デジタル大辞泉 「酸化窒素」の意味・読み・例文・類語

さんか‐ちっそ〔サンクワ‐〕【酸化窒素】

窒素の酸化物の総称。ふつう一酸化窒素をさし、空気に触れると二酸化窒素になる。ほかに一酸化二窒素(亜酸化窒素)・三酸化二窒素・五酸化二窒素などがある。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

世界大百科事典 第2版 「酸化窒素」の意味・わかりやすい解説

さんかちっそ【酸化窒素 nitrogen oxide】

窒素の酸化物の総称で,次の6種が知られている。単に酸化窒素というときは一酸化窒素NOをさす場合が多い。
[一酸化二窒素dinitrogen monooxide]
 化学式N2O。酸化二窒素,亜酸化窒素(俗称)とも呼ばれる。硝酸アンモニウムを熱分解するとたやすく生成する。 NH4NO3―→N2O+2H2O常温・常圧で無色の気体。軽い芳香がある。融点-90.8℃,沸点-88.5℃。水に対する溶解度130.52ml/100ml(0℃)。

出典 株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について 情報

栄養・生化学辞典 「酸化窒素」の解説

酸化窒素

 →一酸化窒素

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

今日のキーワード

線状降水帯

線状に延びる降水帯。積乱雲が次々と発生し、強雨をもたらす。規模は、幅20~50キロメートル、長さ50~300キロメートルに及ぶ。台風に伴って発達した積乱雲が螺旋らせん状に分布する、アウターバンドが線状...

線状降水帯の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android