土地として利用するために水面に盛土し,満潮面より高い陸地を造ること。堤防などで水面をくぎり,内部の水を排水して単に陸地化する干拓と区別されるが,英語ではどちらもreclamationである。平地に乏しい日本では,古くから湿地帯,河川,湖沼で埋立てが行われ,陸地として利用されてきた。海面への埋立ては,当初,船瀬(港)を造るときの一つの方法として用いられ,例えば家原寺に残る行基の大輪田泊築港の図を見ると,護岸を築き埋立てを行っているようすがうかがえる。平清盛によって着工された兵庫の経ヶ島の築港も埋立てをして築島し,島陰を小型船舶の錨泊(びようはく),荷役の場とし,島域を上屋,倉庫その他交易の場として利用したものと推定される。しかし,一般に中世,近世では,河口デルタにおける新田開発のための干拓に重点が置かれ,埋立てが本格的に行われるようになったのは明治以降のことである。
埋立てにはその場所の条件によって種々の方法が用いられるが,もっとも一般的にはポンプ船による浚渫(しゆんせつ)を利用する。これはポンプ船によって水といっしょに吸い上げた水底の土砂を排送管で埋立地まで送り込み,水は予定埋立地のまわりに造られた仮護岸から排水するようにして土砂を沈殿させて埋立地を造成するもので,土地の造成とともに航路,泊地などの水深の確保も同時に行える。東京湾,伊勢湾をはじめ日本の港湾や臨海工業地帯などの多くはこの方法で造成されている。このほか,最近では山土や地下鉄工事,ビル工事に伴う残土など都市廃棄物で埋立てを行うことも多くなっている。この工法は,埋立材料をダンプカーやベルトコンベヤで水ぎわ線まで運び,海上では土運船を使用するもので,土運船は埋立予定地で船底を開いて土砂を海中に投下する。一定の水深まで埋立てが進むと埋立地に設置した陸揚機械で土運船から土を汲み上げ,さらに埋立てが進めばベルトコンベヤ,ダンプカーで埋立予定地に土を直接運び込むことも行われる。神戸のポートアイランドはこの工法で造成された。
埋立ては干拓と異なり,満潮時の水面より高い土地が得られるから,高潮などの被害は少なくてすむ。しかし,地盤の圧密が十分でないから沈下現象がよく見られ,また地震に対しても弱い地盤であるから,多くの場合,構造物を造るときは基礎工事を慎重に行う必要がある。埋立地は,港湾のほか,臨海産業,観光レクリエーション,住宅,下水処理場,公園,廃棄物処理場などの都市用地として強い需要があり,また,空港用地,エネルギー基地としても要請される。土地の狭い日本では今後とも埋立事業は必要不可欠ではあるが,埋め立てられる水面は,とくに沿岸域の場合,水生植物,動物の生産の場であり,また,沿岸部における人間の生活とも密接な関連もあるので,十分環境影響調査を行った後に事業を行う必要がある。
執筆者:長尾 義三
個人の水面であっても,自然環境保全法や自然公園法,鳥獣保護法などに基づいて,埋立てが規制されている地域があるが,河川,海,湖など公共の水面については,公有水面埋立法(1921公布)に基づいて都道府県知事の埋立免許を取得して,水面を陸地化した者がその所有権を取得することになっている。第2次世界大戦後だけで約13万haの海(国土の0.3%)に埋立免許が与えられた。埋立てが活用されるのは国土が狭く人口が稠密(ちゆうみつ)な日本では安価にかつ抵抗なしに広い土地を他に求めることができないからであるが,反面,日本の自然海岸は残り少なくなり,また,埋立地が公害発生地となることも多い。最近は埋立凍結を求めて入浜権運動などが盛んになっている。
なお,廃棄物の埋立処分については〈廃棄物の処理及び清掃に関する法律〉(1970公布。略称,廃棄物処理法)に基づいた規制がなされている。
執筆者:阿部 泰隆
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
海域、湖沼、潟を土砂で埋め立て、港湾施設、工場、住宅、流通団地や下水処理施設、あるいは農耕用地などをつくることをいい、近年では埋立てによって海上空港をつくるまでになっている。日本の四大工業地帯である東京・横浜、名古屋、大阪・神戸、北九州はいずれも臨海部に立地し、大半は埋立地の上に工業地帯を造成してできたものである。
埋立てが本格的に行われ始めたのは1921年(大正10)に公有水面埋立法が制定されてからで、これは、重化学工業化が進められるにしたがい、原材料や製品の大量輸送を安価な海上輸送に依存することが有利となったからである。第二次世界大戦後においても四大工業地帯をはじめとして、1962年(昭和37)以降の新産業都市や工業整備特別地域の約半数も、それぞれの地域の港湾を中核として埋立てにより工業用地を造成し、工業化を促進してきている。近年の傾向としては、都市への人口集中の激化に伴い、都市の再開発用地、住宅用地を提供するため、埋立てが行われるようになってきている。日本の埋立てによる造成面積は1954年以降で約5万ヘクタールに達した。第二次世界大戦後の埋立てで著名なものは、工業用地では東京、千葉、川崎、横浜、堺(さかい)、泉北、名古屋など、住宅・再開発用地では大阪南港のポートタウン、神戸のポートアイランドなどである。これらによって確立された技術は、韓国、台湾、東南アジアに輸出されている。
しかし一方において、臨海部への重化学工業の集中は沿岸域の環境汚染を激化させ、1970年ころには深刻な状況となった。このため、同年には海洋汚染防止法、水質汚濁防止法などが制定されて規制措置が強化されるとともに、1974年には公有水面埋立法の改正が行われて、埋立地の計画、造成やその利用に関して、厳しい条件が課せられることになった。これらの措置によって沿岸域の環境は徐々に好転しつつある。
[堀口孝男]
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
…海や湖沼の水面や低湿地などを堤防で締め切って内部を排水し,新たに農地などの陸地を造ること。干拓という用語は1914年の耕地整理法によって定義され,それ以前は埋築,埋立てと混用されていた。造成された土地を干拓地といい,一般に外水面よりも低い。…
…したがって,公共の用に供されている水面であっても,水面下の土地の所有権が私人に属する場合のように,国の所有に属しないものや,国の所有に属する水面であっても,公共の用に供されていないものは,ここでいう公有水面にはあたらない。他の法令や慣習により,公有水面に関して,その占用権や漁業権などが成立するが,公有水面の埋立て(干拓を含む)については,原則として,公有水面埋立法が規律している。同法によれば,公有水面の埋立てをしようとする者は,都道府県知事の免許を受けなければならず,埋立工事の竣工後,都道府県知事の竣工認可を受け,この認可の告示の日に,その埋立地の所有権を取得する。…
…しかし,自然の地形のままでは使いにくいので,高いところを掘削,切土し,その土砂を運搬し,低いところに盛土し,整地して人間が使いやすい平らな用地として整備することが必要となる。このようにして用地を得ることを土地造成といい,このうち水底の土砂の掘削を浚渫(しゆんせつ),水面・湿地帯の盛土を埋立て,また,湿地や干満差のある遠浅の海を堤防で締め切り水位を下げて土地とすることを干拓という。 土地造成は,その用途を明確にして安い費用で使いやすいように仕上げることが必要である。…
※「埋立て」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
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