重化学工業(読み)ジュウカガクコウギョウ

デジタル大辞泉 「重化学工業」の意味・読み・例文・類語

じゅうかがく‐こうぎょう〔ヂユウクワガクコウゲフ〕【重化学工業】

鉄鋼・機械工業などの重工業と、合成樹脂・肥料・合成繊維などの化学工業との総称。

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精選版 日本国語大辞典 「重化学工業」の意味・読み・例文・類語

じゅう‐かがくこうぎょうヂュウクヮガクコウゲフ【重化学工業】

  1. 〘 名詞 〙 鉄鋼・船舶・車両・動力機械などの重工業と石油・ガラス・肥料などの化学工業の総称。また、特に化学製品の原料になる化学製品を大量に製造する硫酸工業、ソーダ工業石油化学工業などの化学工業をいうことがある。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「重化学工業」の意味・わかりやすい解説

重化学工業
じゅうかがくこうぎょう

重工業ともいう。一般に、労働集約型の工業(食料品・繊維・木材製品・家具・皮革など)を軽工業とよぶのに対し、資本集約型(鉄鋼・非鉄・化学など)、技術集約型(一般機械・電気機械・輸送機械・精密機械など)の工業を重工業ないし重化学工業とよぶ。

[殿村晋一]

展開過程

資本主義的生産の発展は軽工業に始まり、生産財・資本財が独立の工業として重工業ないし重化学工業を発展させる。イギリスに始まった工業化は、繊維工業を中心とする軽工業が主導し、繊維機械や蒸気機関、鉄道・船舶への需要の伸びが鉄鋼業や石炭業など重工業を急激に発展させた。イギリスで発明されたベッセマー転炉(19世紀中葉)と、ドイツで発明された副産物回収式コークス炉(1881)は、鋼の大量生産と化学工業の発展を促し、石炭・鉄鋼・化学(無機化学)を軸に産業構造重化学工業化が進んだほか、ドイツ、アメリカを中心に生産過程の有機的なつながりをもつ巨大独占体(コンツェルン)を誕生させた。20世紀に入ると、電気・電機工業、自動車・航空機など輸送機械工業、さらに石油化学工業(有機化学)が、とくに軍需工業や耐久消費財工業との関連で急成長し、オートメーションコンピュータ制御の結合による大量生産体制を実現し、欧米先進国の産業構造を著しく高度化させた。

[殿村晋一]

日本における重化学工業の発展

日本の重化学工業成立の画期は、官営八幡(やはた)製鉄所の操業開始(1901)であるが、鉄鋼・造船・機械・化学などの産業分野での自給率が高まるのは第一次世界大戦後のことである。1931年(昭和6)の満州事変以後、軍事費の増大に支えられて、重化学工業は急激な発展をみせ、36年までの5年間に、金属(4.6倍)、機械(5.7倍)、化学(2.6倍)と生産額を伸ばし、重化学工業化率も欧米並みの57%に達し、新興財閥も台頭したが、太平洋戦争期の軍需への物資の総動員は国民経済の疲弊を招き、工業生産全体の壊滅とともに敗戦を迎えた。

 戦後日本の重化学工業の再出発は、石炭と鉄鋼の生産増強に重点を置く「傾斜生産方式」と、食糧危機打開のための化学肥料工業の振興であった。とくに「朝鮮特需」は経済復興に大きな役割を演じ、石炭・鉄鋼・化学工業の立ち直りと、食品・衣料などの消費財生産部門の回復を基調に、ミシン、自転車、カメラ、時計など一連の量産機械工業が成長し、日本経済は1955年(昭和30)には戦前水準に復活した。

 1956年以降の「高度成長」政策は、まさに日本経済の本格的な重化学工業化政策であり、積極的な技術導入、公共投資・税制・金融・外貨割当てなどによる巨大企業の育成、原料資源確保のために加工貿易立国を目ざした点などが最大の特徴である。汎用(はんよう)性の高い量産型耐久消費財(各種の家電製品、自動車など)や新製品(合成樹脂・合成繊維とその製品)の登場、生産技術の転換(たとえば、鉄鋼圧延部門へのストリップ・ミル、製鋼部門へのLD転炉=純酸素吹転炉の導入)、原料転換(石油化学の急展開=炭鉱の切捨て)、生産設備の大型化(鉄鋼・石油化学における装置の大型化、乗用車専用工場の創設)など、いずれも技術革新を伴うものだけに、新規の大型設備投資が急展開した。「投資が投資をよぶ」なかで、民間設備投資は、当初、鉄鋼・化学など素材型工業部門を中心としていたが、しだいに組立て加工型の機械工業にその比重が移った。機械工業の中心は自動車工業であり、エレクトロニクスを中核とした家電産業がこれに加わり、各種部品工業としての下請中小企業にも波及してゆくことになる。1960年代の「貿易自由化」から「資本自由化」という国際環境が、「合理化投資」によって、大幅なコストダウンと品質改善を達成させ、需給ギャップが表面化した1965年不況を輸出の拡大によって乗り切った日本経済は、その後、輸出主導型経済に転換し、さらに大型の設備投資を展開した。50年代に輸出の過半を占めていた繊維・雑貨などの輸出比率が60年代後半から急激に低下し、重化学工業製品の輸出がアメリカや工業化の始まった発展途上国向けに急上昇し、とりわけ70年代後半には技術集約型の高付加価値商品を中心とする機械類の輸出が急増し、対米貿易摩擦も繊維から鉄鋼・家電へと局面をかえた。

[殿村晋一]

現段階の特徴

1973年「石油危機」はエネルギー多消費型の素材産業(石油化学、鉄鋼、非鉄金属)に深刻な打撃を与え、石油化学工業は大幅な設備処理を含む構造改善を余儀なくされた。鉄鋼業界は、世界一の省エネ製鋼技術の開発によって、鉄鋼不況を乗り切ってきたが、内外市場で安価な韓国製品などの追い上げを受けている。化学・鉄鋼など素材型産業は、半導体工業、ニューセラミックス、バイオテクノロジーなどと関連するハイテク化学工業への脱皮とか、鉄・アルミなどから磁性材料・炭素繊維のような「軽薄短小」型素材生産への移行が課題となっている。一方、機械工業は、造船以外は全般に好調で、コンピュータ、産業用ロボット、OA用事務機、NC・MC工作機械のほか、各種の機器やシステムの開発・供給が加速化しており、輸出面でもかつての輸出御三家(自動車、鉄鋼、造船)の一角を造船にかわって占めるようになっている。

 1980年代、円高不況に直面した重化学工業は、石油危機時代に次いで二度目の構造調整(要員の合理化・過剰設備の削減)を余儀なくされた。88年以降のバブル経済期、民間設備投資、個人消費、住宅投資が内需を主導し、重化学工業は一時的に活況を取り戻したかにみえたが、90年代、バブル崩壊後はまたもや低迷を余儀なくされている。こうしたなかで、合理化・リストラの継続、海外市場、とりわけアジア市場全体を視野に入れた経営戦略が重視され、各業界各社とも海外現地生産体制の確立を積極的に推進している。経済協力も技術援助やエンジニアリング事業等による技術移転を伴う形で行われている。

 しかし、重化学工業は、これまでと同じく、日本経済の牽引(けんいん)役であり、経済の「ソフト化」を支え、その基盤を強化する役割を担っていることは明確である。「空洞化」はありえない。鉄鋼、機械、重電機器、さらに造船においても、先端技術の活用はどの分野でも進んでいる。問題は、自主技術の開発とそれを生かした新製品・新事業の展開であり、環境・リサイクル事業等を含めていかに世界をリードし、貢献できるか、という点である。

[殿村晋一]

『竹内宏・榎本善昭著『転換する日本産業』(1980・東洋経済新報社)』『渡辺徳二・佐伯康治著『転機に立つ石油化学工業』(岩波新書)』

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改訂新版 世界大百科事典 「重化学工業」の意味・わかりやすい解説

重化学工業 (じゅうかがくこうぎょう)

製造工業のうち生産物の重量の比較的重いもの,たとえば鉄鋼業,非鉄製品製造業,金属製品製造業,機械工業の重工業と,化学工業,石油製品・石炭製品製造業の化学工業とを一般的には総称する。軽工業と対比される。ただし,機械工業のなかの精密機械や電子部品の製造業は含めないのが普通である。重化学工業は資本集約的な性格からして,生産額の割に事業所数,従業員数が少ないという特徴がある。また日本の場合,製品の輸出比率が高い。

 一国の工業の発展は,まず軽工業から始まり,その後重化学工業が興り,そのウェイトを増していくというのが普通である。その過程を重化学工業化という。日本では,明治に入り繊維工業を中心とした軽工業がまず発展した。重化学工業化は1901年の官営八幡製鉄所の完成をきっかけとして進展した。その後,第1次大戦中の成長を経て,政府の軍需物資生産中心の方針もあり30年代には全工業生産額の50%を重化学工業製品が占めるにいたった。

 第2次大戦により日本の重化学工業は壊滅的な打撃を受けたが,60年代の高度成長を通じて鉄鋼業における大型高炉の導入,化学工業における石油化学工業の発展などを背景に,重化学工業化は再び進展した。
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百科事典マイペディア 「重化学工業」の意味・わかりやすい解説

重化学工業【じゅうかがくこうぎょう】

鉄鋼業その他の金属工業機械工業など,生産物の容積に対する重量の大きい業種を重工業といい,これに化学工業などを加えて重化学工業と呼ぶ。精密機械工業などは含まない。軽工業と対比される。これらは主として生産財工業で,工業,ひいては国民経済の根幹をなし,その発展と産業構造の高度化に対応して拡大発展する。→工業

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「重化学工業」の意味・わかりやすい解説

重化学工業
じゅうかがくこうぎょう
heavy and chemical industry

金属,機械工業を重工業と解した場合,これに化学工業を加えて重化学工業と総称する。しかし,外国では普通,重工業といえば金属,機械,化学工業すなわち日本でいう重化学工業をさす。日本の産業構造は重化学工業の比重が低かったが,第2次世界大戦後,特に 1960年代の高度成長を通じて重化学工業の比重が高まり,産業構造の高度化を実現した。一方,輸出商品のなかに占める重化学工業品の比率も上昇した。これは重化学工業品の所得弾力性が軽工業品のそれに比べて高いことに基づいている。

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世界大百科事典(旧版)内の重化学工業の言及

【軽工業】より

…生産物の重量が比較的軽いもの,繊維,食料品,皮革製品,木製品などを生産する工業を指す。重工業,重化学工業と対比される。軽工業は概して,生産設備に要する資本が少なく,また人間が直接に消費するものを生産する分野が多い。…

【産業分類】より


[分析目的に合わせた産業分類]
 最近は,産業の分析目的が多様化しており,それに合わせた産業分類を行うケースが多い。(1)商品の用途面から分類して,生産手段を生産する投資財産業,原材料を生産する生産財産業(以上をまとめて基礎産業),消費にあてられる財を生産する消費財産業(耐久消費財に限定する場合もある),(2)資本装備率が高く,高度な技術と設備を必要とする重化学工業(生産財,投資財関連の産業が多い)とそれらの点で反対の軽工業(消費財関連の産業が多い)という分類,(3)生産過程における加工度の違いによる区分で,生産のための資源や材料を生産する素材産業(素材産業・加工組立産業),材料を加工して単品や部品を生産する加工産業,部品や材料を用いて完成品を生産する組立産業,(4)生産要素の結合具合の違いにより資本装備率の高い資本集約型産業(資本集約型産業・労働集約型産業),それが低く,労働との結合度が高い労働集約型産業,などがある。 また,製造業の内分類として,自動車や電機などの産業を加工組立産業,技術進歩の影響度が高い産業を技術集約型産業,ハードウェアよりもソフトウェアが重要なコンピューター産業などを知識集約型産業などという場合もある。…

※「重化学工業」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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