水質汚濁を防止するために必要な規制を行うための法律である。1970年公布。この法律の前身は,1958年12月に公布された,〈公共用水域の水質の保全に関する法律〉(水質保全法)と〈工場排水等の規制に関する法律〉(工場排水規制法)である。これらは水質汚濁防止法に対して,旧水質二法と呼ばれる。水質汚濁防止の法制度化が進められることになった契機は,本州製紙江戸川工場から放出されたパルプ廃液が下流の漁場を汚染し,それに抗議する浦安漁民が1958年6月10日に本州製紙江戸川工場に突入し,待機していた警官隊と衝突した浦安事件であった。これを契機として,旧水質二法が制定されたのである。その後,70年に,いわゆる〈公害国会(第64国会)〉において,旧水質二法が一本化され,新たに水質汚濁防止法が制定されたのである。旧水質二法には,指定水域だけを規制対象にしており,後追い行政と批判されていたこと,規制根拠法が事業場の種類によって異なっており,多種複雑なしくみとなっていたことなどの欠陥があった。
水質汚濁防止法は,旧法にみられた経済調和条項を削除し,それまでの指定水域制を廃止し全国を規制対象としたほか,都道府県知事の権限を強化し,直罰主義をとり入れたことなどにおいて大幅な改善を示した。その後,幾度かの改正を経て,現在に至っている。
水質汚濁防止法の目的は,工場,事業場から公共用水域に排出される水の排出,および地下に浸透する汚水の浸透を規制することと,生活排水対策の実施を推進することなどによって,公共用水域や地下水の水質の汚濁の防止を図り,それによって国民の健康を保護するとともに生活環境を保全することである。さらに,工場,事業場から排出される汚水や廃液で人の健康にかかわる被害が生じたときの事業者の損害賠償の責任について定めることにより,被害者の保護を図ることも目的としている(1条)。また,水質の汚濁には,公共用水域の水が着色したり高温になることも含まれる。
公共用水域とは河川,湖沼,港湾,公共溝渠こうきよ,灌漑用水路,その他公共用水路をいう。ただし,公共用下水道や流域下水道は下水道法の適用を受けるので,除かれる(2条)。
排水基準は,排出水の汚染状態について,総理府令で定められている(3条)。健康項目と生活環境項目のそれぞれについて設定されている。排出水は特定施設を設置する工場または事業場から公共用水域に排出される水をいう。健康項目に係る排水基準は,すべての特定事業場に適用されるが,生活項目については,1日の平均排出量が50m3未満の特定事業場は適用されない,いわゆるスソ切りがされている。排出基準は,全国一律の適用を前提としているが,都道府県は国が定める基準より厳しい許容限度とする基準を定めることができる。これを上乗せ基準という(3条3項)。
汚濁発生源が集中している地域を指定水域として汚濁負荷の総量削減計画を策定し,総量規制基準を定めることができる。政令で,東京湾と伊勢湾が指定水域として指定され,瀬戸内海環境保全特別措置法によって瀬戸内海が指定されている。
生活排水対策として,生活排水による公共用水域の汚濁の防止を図るための国および地方公共団体の責務,国民の責務について明らかにし,重点地域の指定,推進計画の推進などについて定めている(14条の4以下)。
執筆者:北 正美
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工場および事業場から公共用水域への水の排出と地下への水の浸透を規制すること、生活排水対策を推進すること等により、公共用水域と地下水の汚濁防止を図ることを主たる目的とする法律。昭和45年法律第138号。いわゆる水質二法(「公共用水域の水質の保全に関する法律」および「工場排水等の規制に関する法律」)にかえて制定された。その基本は、排出水の汚染状態について環境省令により排水基準を設定し、刑罰によって工場・事業場に守らせるというシステムである。工場・事業場については、都道府県知事への届出制度が置かれているが、それは政令で定める特定施設に限る。知事は排水基準を守らせるため計画変更命令、改善命令などを発する権限をもつ。都道府県は、前記の排水基準をより厳しくする条例を制定できる。また、排水規制のシステムでは、環境浄化の目標を達成できない地域では、都道府県条例でより厳しい排水基準(いわゆる上乗せ基準)を定めることができるほか、汚濁負荷量の総量を削減するための総量削減計画に基づく総量規制基準という制度も用意されている。
地下水については、有害物質を含む水の地下への浸透により、現に人の健康に係る被害が生じ、または生ずるおそれがあると認めるときは、地下水の水質の浄化命令を出す制度もできた。そして、風呂、洗濯、台所などの生活排水については命令という手法がなじまないので、市町村にその対策を推進する計画を策定することを求めている。
さらに、工場・事業場における事業活動に伴う有害物質の排出または地下への浸透により人の生命・身体を害したとき、事業者は無過失賠償責任を負う。
この法律で規制されている工場・事業場は限られているため、地方公共団体が地域の実情に応じて、いわゆる横出し規制として条例で規制することができる。
[阿部泰隆]
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…油のほか廃棄物などを含めた海洋投棄の規制に関しては,72年ロンドンで締結された〈廃棄物その他の物質の投棄による海洋汚染の防止に関する条約〉(通称ロンドン条約)があり,投棄を禁止する物質として,(1)有機ハロゲン化合物,(2)水銀および水銀化合物,(3)カドミウムおよびカドミウム化合物,(4)耐久性プラスチック,その他の耐久性の合成物質(例えば網,綱)であって,漁業,航行その他の適性な海洋の利用を著しく妨げるような状態で,海上または海中に浮遊するもの,(5)投棄の目的で積載された原油,重油,重ディーゼル油,潤滑油および作動油ならびにこれらの中のいずれかを含有する混合物,(6)高レベル放射性廃棄物(高レベルの定義については,国際原子力機関に委託),(7)形態のいかんを問わず,生物戦用および化学戦用に生産される物質を,また,投棄にあたって特別の措置を必要とするものとして,ヒ素,鉛,銅,亜鉛およびこれらの物質の化合物,有機ケイ素化合物,シアン化合物,フッ化物,駆除剤およびその副産物をあげており,低レベル放射性廃棄物の投棄は,国際原子力機関の勧告を十分に考慮するとされている。 日本の国内法としては,船および海洋施設からの油および廃棄物の海洋への排出を規制した〈海洋汚染防止法〉,陸上施設からの排出による水質汚濁防止を目的とした〈水質汚濁防止法〉が制定されている。水汚染【猿橋 勝子】。…
…第2次世界大戦前では足尾鉱毒事件,戦後は,本州製紙江戸川工場事件などが有名である。しかし,1970年以後,〈水質汚濁防止法〉によって工場からの排水が強く規制されるようになるにつれ,都市公害型の汚濁に変わりつつある。
[河川汚濁の影響]
日本では,農業用水の90%,上水道用水の70%,工業用水の60%を河川水に依存しているので,河川汚濁は,周辺環境として不快であることにとどまらず,直接的に水利用を阻害し,さらに健康への被害まで引き起こすこともある。…
…(6)温排水 温排水による熱および殺藻剤などの漁業への悪影響がある。
[産業排水の規制]
1970年制定された水質汚濁防止法により,工場および事業場からの排水の水質は,カドミウムなど健康に関連した有害物質8項目(1973年にPCBが加えられ,9項目に)とBODなど生活環境に関連した12項目について規制されることになった。これによって,工場排水に起因する水質汚濁はかなりの程度解決したが,化学新物質の種類が増え続け,規制が追いつかないなどの問題が指摘されつづけた。…
※「水質汚濁防止法」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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