報・酬(読み)むくいる

精選版 日本国語大辞典 「報・酬」の意味・読み・例文・類語

むく・いる【報・酬】

(「むく(向)」と同語源)
[1] 〘自ア上一(ヤ上一)〙 むく・ゆ 〘自ヤ上二〙 相手の動作に応じる。応酬する。こたえる。また、反論する。
※大慈恩寺三蔵法師伝永久四年点(1116)二「此の支那の僧は(ムクイ)対ふるに易からず」
※苦の世界(1918‐21)〈宇野浩二〉三「例の豪傑笑ひでむくいて」
[2] 〘他ア上一(ヤ上一)〙 むく・ゆ 〘他ヤ上二〙
① 受けた恩義恩恵に感謝して、それにふさわしい行為をその相手に対してする。また、罪やあやまちなどのつぐないをする。むくう。
書紀(720)顕宗元年四月(図書寮本訓)「恩を酬(ムく)ひて厚に答ふ
※来田本拾遺愚草(1216‐33頃)上「いまはまた関の藤浪たえずとも国に報いむためをこそおもへ」
② 他から受けた害に対して仕返しをする。報復する。むくう。
※文明本節用集(室町中)「犯而不挍 ヲカセドモシカモムクイズ〔泰伯篇〕」
※尋常小学読本(1887)〈文部省〉六「若し苦めらるることあれば、之を記憶して、往々其怨みを報ゆることあるものなり」
[語誌](1)現代語の「報いる」の文語形は、中古まではヤ行上二段活用のムクユであるが、中世にヒとイの音の混同が生じたため、未然形・連用形の語尾イがヒと記され、ヤ行とハ行の活用が混同した結果、ハ行四段やハ行上二段活用の例が鎌倉時代以後に現われる。類例としてイバユ→イバフなどがある。
(2)「…をむくゆ」か「…にむくゆ」かについては、古く格助詞「を」をとっていたが、平安後期以降「に」をとるようになった。

むく・う むくふ【報・酬】

[1] 〘他ハ四〙 (上二段動詞「むくゆ(報)」が、中世頃から変化したもの)
① =むくいる(報)(二)①
平家(13C前)七「あやしの鳥けだ物も、恩を報じ徳をむくふ心は候なり」
※滑稽本・浮世風呂(1809‐13)四「人に施しゃ悪うは報(ムクハ)ぬはい」
② =むくいる(報)(二)②
※宇治拾遺(1221頃)三「かかる物も、たちまちにあだをむくふなり」
※太平記(14C後)一八「されば吾命を自刃の上に縮めて、怨を黄泉の下に酬(ムク)はんと思也」
③ 提供してくれた労力に対して報酬を支払う。
方丈記(1212)「車の力をむくふほかには、さらに他の用途(ようとう)いらず」
[2] 〘自ハ四〙 むくいとなって現われる。
※平家(13C前)灌頂「父祖の罪業は子孫にむくふといふ事疑なしとぞ見えたりける」
※続珍太郎日記(1921)〈佐々木邦〉五「是は其(それ)が今覿面(てきめん)に報(ムク)って来たのでなく」
[補注]「中華若木詩抄‐下」の「弁の香をたいて、むくうる者ぞ」、「日葡辞書」の「Mucǔru(ムクウル)」、「折たく柴の記‐上」の「とし比の奉公の労に報ふる所也」のように、上二段活用とみられる例もある。

むくい【報・酬】

〘名〙 (動詞「むくいる(報)」の連用形の名詞化)
① ある行為の結果として身にはね返ってくる事柄善悪いずれについてもいう。
※書紀(720)斉明七年五月(北野本訓)「使人等が怨、上天(あめ)の神に徹(のほ)り〈略〉時の人称(い)ひて曰く、大倭の天の報(ムクヒ)の近きかなと」
古今(905‐914)雑体・一〇四一「われを思ふ人をおもはぬむくひにやわがおもふ人の我をおもはぬ〈よみ人しらず〉」
前世の善悪の行ないがもとで、巡り合わせる現世果報因縁(いんねん)によって受ける苦と楽。応報としての結果。
※宇津保(970‐999頃)あて宮「なにのむくひにかありけむ、拙き身に、おほけなき心つきて」
③ (━する) お礼をすること。謝礼。報酬。
※狐の裁判(1884)〈井上勤訳〉二「御身の親切忘れはせで、必らず報酬(ムクヒ)をなすべきに」
④ (━する) 仕返しをすること。復讐をすること。
※土左(935頃)承平五年一月二一日「かいぞくむくいせんといふなることをおもふうへに」

むく・ゆ【報・酬】

〘自他ヤ上二〙 ⇒むくいる(報)

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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