改訂新版 世界大百科事典 「場市」の意味・わかりやすい解説
場市 (じょうし)
朝鮮における市(いち)の一種で,常設の店舗等の特別の施設を有さず,行商人や近辺の農民たちが定期的に集まって商品交換を行う場所。朝鮮語ではチャンシchangsi。単に場(チヤン)ともいう。高麗時代の史料には郷市という名称が見え,交通の要衝等に設けられたと思われるが,場市が組織化され始めるのは李朝に入ってからであり,李朝後期になって全国化した。李朝時代の場市は,太祖李成桂がソウル内の市場を特定の場所に集中させたことに端を発し,15世紀にはソウル以外の地方にも場市が発生した。地方の場市は,ソウルのそれと区別して,とくに場門とか郷市と呼ばれた。政府は貧民や盗賊の集まる場所として,当初地方場市の抑圧を図ったが,李朝後期になると商品経済の農村浸透に伴い,急速に全国化した。18世紀後半には全国に1000余りの場市が存在し,その大部分は5日ごとに開かれる定期市であった。これは全国どこの住民も,往復1日の行程で市場と接触できるようになったことを意味する。場市はまた農民たちの娯楽や社交の場でもあった。政府は場監という管理役人を置いたが,実際の支配権は場市を渡り歩く褓負商(ほふしよう)に握られ,税も彼らを通じて徴収された。日韓併合後の1914年9月に総督府は市場規則を制定して,その統制を図った。李朝時代から場市は農民反乱などの際に利用されたが,三・一独立運動の際も多く市日が示威運動に利用された。
執筆者:宮嶋 博史
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報