日本大百科全書(ニッポニカ) 「塵肺症」の意味・わかりやすい解説
塵肺症
じんぱいしょう
単に塵肺ともいい、塵肺法(1960年公布、78年改正)によれば「粉塵を吸入することによって肺に生じた線維増殖性変化を主体とする疾病」と定義されている。粉塵の種類により、珪肺(けいはい)、石綿肺(せきめんはい)、炭素肺、黒鉛肺、滑石肺、ろう石肺、溶接工肺、鉄肺、アルミニウム肺、線香肺、ベリリウム肺などがある。有機性粉塵の吸入による綿肺、砂糖きび肺、農夫肺などはアレルギー性肉芽腫(にくがしゅ)性間質性肺炎として、普通、塵肺のなかに加えられない。塵肺の発生には、粉塵の化学的性状、粉塵の大きさ、濃度、粉塵暴露の期間、生体の要因(気管支や肺の防衛機構)などが密接に関連している。普通、症状発現までには十数年から数十年も要するが、吸入粉塵がきわめて多い場合には数年以内に発症することもある。
珪肺は、胸部X線写真で、両肺にほぼ同程度に散布する粒状影を認めるのが特徴である。珪肺が進行すると、やがて塊状の大陰影を認めるようになる。石綿肺ではX線検査で異常線状影を示し、喀痰(かくたん)中に石綿小体がみいだされることが多い。珪肺では肺結核を、石綿肺では肺癌(がん)、中皮腫(胸膜や腹膜にできる悪性腫瘍の一種)を合併することがしばしばある。自覚症状は初期にはほとんどないが、やがて労作時に呼吸困難が出現する。粉塵中で作業を行っている職場では、換気を適正にして浮遊粉塵を可及的に少なくすること、湿潤化により粉塵を舞い上がらぬようにすること、防塵マスクやレスピレーター(呼吸器具)を用いて粉塵の吸入を防止することなどの予防措置をとることが必要である。塵肺が発生したら作業環境から離れさせるが、珪肺では粉塵暴露環境から離れても肺病変が徐々に進行することも少なくない。結核、肺癌、呼吸器感染症などの合併症に対する治療、呼吸不全に対する治療なども必要である。
[山口智道]