翻訳|sales tax
取引高すなわち売上額を課税標準として課税される税をいう。製造、卸売、小売のすべての取引段階に課される多段階売上税と、いずれか一段階のみに課される単段階売上税とに大別される。多段階で全取引に対して課税される売上税は取引高税ともよばれ、その特徴は、課税標準の取引高が前段階から仕入れた原料や中間財の価値を差し引いた付加価値ではないので、二重計算となるからGNP(国民総生産)の数倍にもあたるくらい大きく、したがってきわめて低い税率でも同額の税収をあげることができる点にある。他方、前段階までの取引において課された税が取引価格の一部を構成し、二重、三重に税が累積していくという欠点がある。また、製品価格に占める税負担は、取引の回数により異なるので、適正な国境税調整(輸出品に対して免税し、輸入品に対して課税する税制措置)が困難である。単段階売上税は、課税される段階によって製造者売上税、卸売売上税、小売売上税とよばれ、多段階売上税に比べると対象企業数が少なくなるので行政的には容易であるが、単段階課税のため、同額の税収を徴収するためには税率を比較的高くしなければならないのが欠点である。また、売上高の範囲が消費財のみか否か、また消費財のみでも一般消費か選択的消費かによっても分類される。たとえば小売段階での単段階売上税は小売税であるが、一般消費に対する小売税、一部消費に対する小売税、消費財と資本財両財に対する小売税に分類される。
小売、卸売、製造といった全取引に課税される取引高税は、間接税中心の税体系をもつヨーロッパ大陸の諸国においては古くから採用され、重要な税目を構成していたが、EC(ヨーロッパ共同体)が域内貿易を拡大するために1957年に加盟各国の売上税の整理を決め、1967年にはこれにかわって付加価値税の採用を決定したので、しだいに付加価値税へと移行した。日本でも第二次世界大戦後の1948年(昭和23)9月から取引高税という名称で実施されたが、シャウプ勧告で不公平税として指摘され、1949年12月には廃止された。
取引高税の場合には、税の累積を回避するために、企業に垂直的統合を促進する誘因が生ずる。完全に垂直統合されたパン製造会社においては、最終製品である小売されるパンの売上高に取引高税を掛け合わせた額の税額を一度払うだけだが、各生産段階が異なる企業である場合には、それぞれの売上高に税率を掛け合わせて支払った税額が、次の生産段階の仕入れ額に含まれ、その税に対して税がかかるという累積効果が生ずるから、同じ率の取引高税でも税額は垂直統合された企業のほうが少なくてすむ。また、製品価格に占める税負担は、取引の回数により異なり、取引高税の金額が不明確なので、適正な国境税調整(輸出品に対して免税し、輸入品に対して課税する税制措置)が困難である。
取引高ではなく付加価値を課税標準とする場合にもGNP(国民総生産)型、NNP(国民純生産)型、消費型とに分類できる。GNP型は生産費の一部である減価償却費も、付加価値税の課税標準に含まれ、生産基盤を損なわないために生産費用に課税してはならないという租税の原則に反するので選択されない。NNP型の付加価値税は、消費財とともに資本財(減価償却を差し引いた純投資)にも課税される。しかし、純投資であっても、投資は経済の最終目的ではなく、消費財をより効率的に生産するための迂回(うかい)生産にすぎないから、課税標準からは除かれる。すなわち、消費型の付加価値税が一般的であり、EUの付加価値税も日本の消費税もこの消費型の付加価値税である。
[林 正寿]
『林正寿著『財政論――税制構築と改革の視点』(2008・有斐閣)』
狭義には取引高あるいは売上高を課税標準とし,通常は比例税率で課される税金を指す。一般売上税,一般取引税ともいう。この取引高という課税標準は,各生産段階で付加された価値だけでなく前段階から仕入れた中間財の価値も含んでいるから,国民総生産(GNP)の数倍にもなるほどに大きいので,低い税率でも巨額の税収を上げることができるという長所がある。他方,各段階での課税標準には前段階で支払われた税額が含まれているから,課税は何重にもなされることになる。また,納税者の企業は垂直的統合により税を節約できるから,経済に対して中立的とはいえない。
広義には,経済の生産から流通,さらに最終消費までの各段階において売手の側に課される税を一般に指す。課税標準の範囲からみれば,いちばん大きなものとしては取引高があり,中間財の価値は控除したネットの概念である付加価値をとっても,国民総生産,国民純生産,国民所得,消費などの選択の余地がある。また,租税を課する段階についてもいろいろの選択の余地が存在し,ただ一つの段階だけで課税する方法と多くの段階で課する方法とに,大きく分けられる。ヨーロッパ連合(EU)で域内共通税として採用されている付加価値税や,日本で1989年4月より実施された消費税は,多段階売上税(多段階取引税)の例である。
執筆者:林 正寿
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…売上税の一種であり,課税標準として付加価値を採用し,生産の各段階ごとに賦課徴収する税。売上税にはその賦課徴収する段階が単段階か多段階かにより,単段階売上税と多段階売上税との区別がある。…
※「売上税」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
マイナンバーカードを利用して、自治体が発行する各種証明書をコンビニやスーパー、郵便局などで取得できるサービス。申請から受け取りまでの手続きがマルチコピー端末で完結する。2023年12月からはマイナカ...
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加
9/20 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新