付加価値を課税標準として採用し、生産の多段階において賦課徴収する税。英語の頭文字をとりVATともよばれる。売上税sales taxの一種であり、一般的には比例税率が適用されるが、租税政策上、特定品目に対してはゼロ税率や軽減税率を適用したり、特定段階における免税措置を与えることもある。
経済協力開発機構(OECD)の租税分類では、付加価値税はまず財・サービスに対する税(分類項目5000)に分類される。その下位項目として生産、販売、移転、財の貸与と配達、サービスの供与に対する税(同5100)がある。さらにその下に一般税(同5110)、特定財・サービスに対する税(同5120)、5110と5120に分類不可能な税(同5130)がある。付加価値税は一般税の下位分類項目として5111に分類されるが、売上税(同5112)、財・サービスに対する他の一般税(同5113)も付加価値税と並列的に分類される一般税である。
売上税には、その賦課徴収する段階が単段階か多段階かにより、単段階売上税と多段階売上税との区別があるが、付加価値税は多段階売上税であり、生産の各段階ごとに課税される。付加価値の計算方法には控除法と加算法とがあり、前者は売上高から原料として用いられる中間生産物の価値を差し引いて算出され、後者は企業の支払った賃金、地代・家賃、利子および利潤を加算して算出するものであるが、各段階における付加価値額の課税標準に税率を掛けて課税される。
また、売上税は課税標準の範囲によりいろいろな形態をとりうるが、いちばん広い課税標準としては売上高があり、この課税標準を採用する多段階売上税は取引高税turnover taxとよばれる。他方の極には、個別の財・サービスを課税対象とする選択的消費税selective consumption taxがある。付加価値税は、付加価値を課税標準とするが、これは経済的には国民所得と一致する。広義の国民所得には、国民総生産(GNP)、国民純生産(NNP)などがあるが、減価償却にあたる部分を控除しない粗投資も課税標準に含めるか、あるいは減価償却は控除して純投資のみを課税標準にするかによって、GNP型とNNP型に分類できる。さらに、経済の最終目的は消費にあり、投資は単なる消費財を効率的に生産するための迂回(うかい)生産にすぎないから課税対象とするのは不適当であると考えるならば、減価償却を含まない純投資さえも課税標準から除き、消費のみを課税標準とする消費型の付加価値税のほうが望ましい。一般消費税というのは、基本的には消費一般を課税標準とする多段階売上税をさすが、これは消費型の付加価値税の課税標準と一致する。
取引高税の欠陥として、全段階で、仕入れた中間財の価値を含めた売上高に課税するから、中間財は二重、三重に課税されてしまう。さらに、前段階までの税額も含めた各生産段階の売上高に課税されるから、税に税が二重、三重に課されて累積し、企業は租税負担を軽減するために垂直的統合を実施するという欠陥があった。しかし付加価値税では、前段階において支払われた税額は税額控除されるから、この種の二重課税問題は解消する。また、多くの国々は輸出品には課税せず、輸入品には国産品と同じ競争条件を与えるために国内税を課税するが、取引高税の場合にはきわめて困難であったこの国境調整が、付加価値税の場合には容易である。
日本では、付加価値税は府県のための地方税としてシャウプ勧告において提案され、1950年(昭和25)に地方税法に取り入れられたが、納税者の反対が強かったため実施延期を重ね、1954年についに廃止となった。フランスでは1954年に導入され、1967年のヨーロッパ経済共同体(EEC)理事会指令によってヨーロッパ共同体(EC、1993年ヨーロッパ連合(EU)に発展)の共通税として導入されたEC型付加価値税のモデルとなった。
EC型付加価値税は、前段階税額控除方式あるいはインボイス方式として知られるが、これは、各段階における付加価値税の納税義務額を、売上げに対して計算される税額から、仕入れに対してすでに支払われた税額を控除する形で算定する方式である。この仕入れに対する税額控除が、納品書ないし仕送り状に記載された税額に基づいてなされるから、インボイス方式とよばれる。この制度のもとでは、納税者間に相互チェックが働き、脱税防止に役だつ。
その後、世界的に付加価値税の比重がかなり高くなってきており、1975年、1995年、2005年の国税総額に占める付加価値税の割合は、OECD平均値でそれぞれ23.9%、25.0%、31.7%と推移している。かつては所得や利潤に対する税が高い比率を占めていたイギリスはそれぞれ13.4%、20.6%、24.1%、スウェーデンは23.4%、25.8%、32.6%と、付加価値税を主とする一般消費税の比率が顕著に上昇した。
なお、日本で一般消費税あるいは売上税という名称で導入が検討され、消費税という名称で最終的に導入された税は、いずれも基本的にはこの消費型の付加価値税である。その税率が地方税も入れて5%という、EU諸国の付加価値税率よりずっと低い水準にとどまっていることもあるが、日本の消費税額の国税総額に占める比率は、2005年度(平成17)当初予算においては20.2%にとどまっている。
しかし、大幅な公債依存と財政需要の増大が予想されることから、将来は消費税の税率が引き上げられて、より重要な税となることが考えられる。付加価値税は売上高に一定税率を掛けて算出した税額から仕入額に同じ一定税率を掛けて算出した額を税額控除するという、きわめて単純な仕組みであったが、税率の上昇とともにその逆進的性格を緩和するために、必需品に対するゼロ税率や軽減税率の適用、免税措置の導入によってかなり複雑となる可能性があり、納税者と税務当局との間の紛争が生ずる余地はある。
[林 正寿]
『佐藤進著『付加価値税論』(1973・税務経理協会)』▽『知念裕著『付加価値税の理論と実際』(1995・税務経理協会)』
売上税の一種であり,課税標準として付加価値を採用し,生産の各段階ごとに賦課徴収する税。売上税にはその賦課徴収する段階が単段階か多段階かにより,単段階売上税と多段階売上税との区別がある。付加価値税は多段階売上税である。
つぎに,売上税は課税標準の範囲によりいろいろな形態をとりうるが,いちばん広い課税標準は売上高であり,この課税標準を採用する多段階売上税は取引高税turnover taxである。他方の極には,個別の財・サービスを課税対象とする選択的消費税selective consumption tax,あるいは個別消費税,物品税などと呼ばれる税がある。
付加価値税は付加価値を課税標準とするが,これは原理的には国民所得と一致する。広義の国民所得には国民総生産(GNP),国民純生産(NNP)などのいろいろな概念があるが,減価償却にあたる部分を控除しない粗投資も課税標準に含めるか,あるいは減価償却は控除して純投資のみを課税標準にするかによって,GNP型付加価値税とNNP型付加価値税に分類できる。また,付加価値税を課するさいに,たんなる迂回生産にしかすぎない投資を課税標準に含めるべきかどうかが問題であり,消費のみを課税標準にとるならば消費型の付加価値税となる。一般消費税というのは,基本的には消費一般を課税標準とする多段階売上税をさすものである。
日本では,付加価値税は府県のための地方税としてシャウプ勧告において提案され,1950年に地方税法にとり入れられたが,納税者の反対が強かったため実施延期を重ね,ついに54年に廃止となった。フランスでは54年に導入され,67年のEEC理事会指令によってEC(欧州共同体,現EU)の共通税として導入されたEU型付加価値税のモデルとなった。
EU型の付加価値税は前段階税額控除方式あるいはインボイス(仕送状)方式を採用しているが,これは付加価値税の納税義務額を,売上げに対する税から仕入れに対する税を控除する形で算定する方式である。この仕入れに対する税額控除が,納品書ないし仕送状に記載された税額に基づいてなされるから,インボイス方式と呼ばれる。
執筆者:林 正寿
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…また,租税を課する段階についてもいろいろの選択の余地が存在し,ただ一つの段階だけで課税する方法と多くの段階で課する方法とに,大きく分けられる。ヨーロッパ連合(EU)で域内共通税として採用されている付加価値税や,日本で1989年4月より実施された消費税は,多段階売上税(多段階取引税)の例である。【林 正寿】。…
…これはいくつかの例外を除いて,消費全体が課税対象となる点では総合消費税と同じであるが,総合消費税が所得税のように人税であるのに対して,一般消費税は物税であり,直接的に消費者に課税されるのではなく,流通段階最後の小売段階で課されるか,あるいは生産から流通をとおり最終的に消費者にいたるまでの各段階で課税される。日本ではシャウプ税制勧告のなかで付加価値税としてその導入が提案されたが,反対が強く結局は導入されなかった。ヨーロッパ共同体(EC)加盟諸国では共通域内税として定着をみており(EC型付加価値税),日本で一般消費税を考える際にいろいろな参考点を提供していた。…
…この形態の税の多くは手数料から発展した。 流通税の例としては,印紙税(印紙),登録免許税,有価証券取引税,取引高税,付加価値税,とん税,特別とん税などがある。印紙税は,財産権の取得や喪失,契約の締結などに関連して発行される特定の証書や帳簿などに課される税であり,手形,有価証券,商品券などの文書に課税され,印紙,証紙の形で徴収される。…
※「付加価値税」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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