改訂新版 世界大百科事典 「外国為替資金証券」の意味・わかりやすい解説
外国為替資金証券 (がいこくかわせしきんしょうけん)
外国為替等の買入れに必要な円資金調達のために,外国為替資金特別会計が発行する政府短期証券。略して外為証券という。外国為替資金証券には,同資金に属する円資金を補塡(ほてん)するために発行され1年以内に償還されるものと,外国為替資金の歳入不足を補塡するために発行され年度内に償還されるものとがある。なお,外為証券の発行のほかに,外国為替資金の調達方法として,保有外貨を日本銀行に売却して円資金を調達する方法がある。これは,保有外貨が大量に増加した場合や,外為証券の金利負担の軽減を目的に行われている。外為証券の発行限度額は,特別会計予算総則によって定められている。発行限度額には,外為証券のほかに一時借入金,国庫余裕資金繰替使用額が含まれている。外為証券は1950年8月1日から発行が始まった。第2次大戦以前においては,外国貿易,国際収支に伴う資金の受払いは,原則として民間にゆだねられていたが,終戦後は,連合国総司令部が外貨を,政府が円資金を管理し,総司令部の管理が解かれてからも,政府による実質的な持高集中制がとられている。国際収支が黒字の場合,日本の外貨受取りが支払を上回るため,外為証券で円資金を調達して,政府は外国為替銀行から外貨を買い取り,代りに民間に円貨を支払う。したがって,国際収支が黒字の場合に外貨準備が増加する。
なお,外為証券の発行条件が市中金利よりも低い場合には,その大半が日本銀行と資金運用部によって引き受けられ,実質上市中公募となっていないことから,国際収支が黒字の場合には,財政資金対民間収支(〈国庫収支〉の項目参照)は散超(揚超・散超)となり,金融緩和が促進されることになる。この場合,円ドル為替レートの切上げを回避するために,外国為替資金特別会計が日本銀行を通じて外国為替市場でドル買介入を行うと,財政資金対民間収支の散超幅はさらに拡大することになる。たとえば,ニクソン・ショックによる円切上げ回避のためにドル買介入を行った71年度には外為会計は約4.3兆円,また,日本の経常収支が大幅黒字となり,急速な円高を回避するためにドル買介入を行った78年度には約3.3兆円の散超となり,通貨膨張の大きな要因となった。逆に,石油危機等で国際収支の悪化した場合には,外為証券の発行残高は減少し,外為会計は揚超となる。たとえば,第1次石油危機の1974年度には約2.5兆円,第2次石油危機の79年度には約3.1兆円の揚超となった。
執筆者:富田 俊基
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報