大村(市)(読み)おおむら

日本大百科全書(ニッポニカ) 「大村(市)」の意味・わかりやすい解説

大村(市)
おおむら

長崎県の本土中央部、大村湾東岸にある都市。1942年(昭和17)大村町と三浦、鈴田、萱瀬(かやぜ)、福重(ふくしげ)、松原の5村が合併して市制施行。JR西九州新幹線、大村線が通じ、国道34号、444号および長崎自動車道が走る。994年(正暦5)藤原直澄(なおずみ)(大村直澄)が久原(くはら)城に入部して以来、約1000年の歴史を有する大村藩2万8000石の城下町で、その間居城は久原城から1564年(永禄7)三城(みき)へ、さらに1598年(慶長3)玖島城(くしまじょう)に移ったものの1000年近くも領主の変わらない城下町はきわめてまれな存在であろう。その間、戦国時代末期にはキリシタン大名大村純忠(すみただ)が出て、ポルトガルとの交易を行い繁栄した。城下は大村扇状地上にあり、背後に多良岳(たらだけ)を控え、前面は大村湾に臨む。また、明治以後陸軍の連隊や海軍航空隊が置かれ軍都としても知られた。1975年(昭和50)大村湾内の箕島(みしま)に世界初の海上空港である長崎空港が開港された。3000メートルの滑走路を有し、上海(シャンハイ)、香港(ホンコン)、東京、大阪、神戸、名古屋(中部国際)、五島福江)、壱岐(いき)、対馬(つしま)、那覇(なは)にも定期空路が開かれ、城下町は一躍して近代的交通の要衝に転化している。市街地は空港に近い北方へと歓楽街を伴いつつ拡大し、その北端部に陸上自衛隊や、海上自衛隊の施設や市民病院がある。南部は旧城下町で住宅、文教区を形成、玖島城跡を公園とする緑地帯の大村公園があり、ここにあるオオムラザクラは国指定天然記念物。付近にボートレースの競艇場がある。近郊の農村部では、畑作が主で、黒田五寸ニンジンの特産があり、鈴田、三浦、萱瀬のミカンのほか、松原、鈴田、萱瀬のイチゴ、福重のナシ、ブドウなどの栽培が盛んである。

 市を貫流する郡川(こおりがわ)の上流には、萱瀬ダム(貯水量681万トン)があり、1日2.7万トンを取水する。大村扇状地の伏流水は豊富で、かつてこれを利用したでんぷん工場が栄えていたが現在はまったく消滅。工業では、扇状地の末端部に雄ヶ原(ますらがはら)(多良岳山腹)の白土を原料とするシャモット耐火れんが)工場などがあげられ、大村ハイテクパーク、オフィスパーク大村も造成されている。観光地には、野岳(のだけ)湖と湖畔のキャンプ場、玖島崎キャンプ場、松原海水浴場があり、多良岳一帯は多良岳県立公園に指定される。黒丸町の黒丸踊は国選択無形民俗文化財。面積126.73平方キロメートル、人口9万5397(2020)。

[石井泰義]

『高見末一著『大村物語』(1952・大村市郷土史研究会)』『『大村市史』上下(1961、1962・大村市)』


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