改訂新版 世界大百科事典 「奈川渡ダム」の意味・わかりやすい解説
奈川渡ダム (ながわどダム)
信濃川水系犀川の支流梓川と奈川との合流点,長野県松本市の旧安曇村と旧奈川村にまたがって建設された発電,灌漑用の多目的アーチダム。梓川では大正末期から10万kWの発電が行われていたが,火力・原子力発電と組み合わせたピーク発電として,奈川渡ダムを主体とした揚水発電による梓川電源再開発が計画され,ダムは東京電力によって1969年に完成された。高さ155m,堤頂長355.5m,堤体積66万m3,貯水池の湛水(たんすい)面積2.7km2,総貯水量1.2億m3,有効貯水量9400万m3。ダム直下の安曇発電所では下流の水殿(みどの)ダム(アーチダム,高さ95.5m)を下池として最大出力62.3万kWの揚水発電を行っており,水殿ダムの水殿発電所,その下流の稲核(いねこき)ダム(アーチダム,高さ60m)の竜島発電所とあわせた最大出力は90万kWに達する。奈川渡ダムの建設にあたっては,基礎岩盤の掘削に火薬を使うと周囲の岩盤を緩めるおそれがあるので,100kgf/cm2の高圧水の噴射で断層を取り除いてコンクリートで置き換えるなど特殊な工法が用いられた。上高地,乗鞍岳への入口に位置しており,訪れる観光客が多い。
執筆者:柴田 功
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報