松本平,安曇(あずみ)平ともいう。長野県中央部にある盆地で,南北50kmにわたり長野県下では最も広い盆地である。西縁を走る糸魚川-静岡構造線に沿って,3000m級の飛驒山脈の山並みがそびえ,梓川,高瀬川,奈良井川など数多くの河川が流出して盆地に複合扇状地を形成している。盆地の東部には,2500m級の美ヶ原,高ボッチなどの火山と,第三紀層の筑摩山地が連なる。盆地南部の桔梗ヶ原(ききようがはら)は,古い扇状地面が隆起してできた開析扇状地である。扇状地の扇頂から扇央にかけては,水の便に恵まれないこともあって平地林が多かったが,第2次大戦後かなりの部分が開拓された。梓川をはじめとする諸河川は,盆地で最も低い東部の安曇野市の旧明科(あかしな)町付近で合流して犀(さい)川となり,筑摩山地を貫流している。盆地の気候は典型的な内陸性気候で,標高は500~800mであるが,夏季はかなり高温になる。一方,冬季は冷涼で空っ風が強い反面,積雪は多くない。年間降水量は1200mm程度で一般的に少ない。
土地利用では,拾ヶ堰,中信平用水をはじめ用水路網が発達し,水田が広く開かれて,長野県の穀倉地帯になっている。盆地の南部ではブドウ,リンゴなどの果樹農業が,盆地中央部の安曇野市の旧穂高町や旧豊科町では扇状地末端の豊富な湧泉を利用したワサビの栽培が盛んである。工業はかつて製糸が中心であったが,現在は電気機械工業がこれに代わり,松本市をはじめ盆地全域に発展している。また塩尻・大町両市には,安価な自家発電に基礎を置いた研磨材,アルミニウムなどの製造工業が立地している。中心都市は松本市で,塩尻市,安曇野市などは,松本市の衛星都市としての色彩が濃い。1964年松本・諏訪新産業都市に指定されて以来,盆地南部の旧松本市から旧塩尻市にかけた地区に工場の進出が著しく,内陸工業地域として発展している。
執筆者:市川 健夫
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長野県の中西部にある盆地。標高560~730メートルで、北アルプスから南流する高瀬川、上高地(かみこうち)から流下する梓川(あずさがわ)、木曽(きそ)谷から北流する奈良井川(ならいがわ)などの河川が形成する複合扇状地。南北60キロメートル、東西10キロメートルの狭長な盆地で、西縁は北アルプスの山麓(さんろく)で急斜面であるが、東縁の筑摩(ちくま)山地の山麓線は明らかではない。梓川の北側は安曇野(あずみの)とよばれ、水田地帯をなし長野県内屈指の米作地。男女寄り添う双体の道祖神(どうそじん)が多く、最近は一つの観光地になっている。南側は畑地が多く、桔梗ヶ原(ききょうがはら)は夏野菜や県下一のブドウ産地である。
盆地の中心は松本市で、北に大町市、南に塩尻(しおじり)市がある。盆地内をJR篠ノ井(しののい)線と大糸線、国道19号と147号がほぼ南北に走り、国道158号が東西方向に通じる。国道に沿って電気機械をはじめ各種工場が進出し、盆地全域が新産業都市地域に指定されている。周辺に北アルプスなどの山岳観光地を控え、松本、大町市や安曇野(あづみの)市などはその基地になっている。
[小林寛義]
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