改訂新版 世界大百科事典 「女の園」の意味・わかりやすい解説
女の園 (おんなのその)
木下恵介脚本・監督による映画,1954年作品。戦後日本の社会のゆがみから必然的に生まれた伝統的家族制度の崩壊を非情に描いた《日本の悲劇》(1953)と,戦争と軍国主義に貫かれた貧しく不幸な20年間の昭和史を詩情豊かに描いた《二十四の瞳》(1954)の間に作られ,それらとともに〈木下恵介監督の作家活動の一つの頂点をなすもの〉(佐藤忠男)と評価されている。〈逆コース〉と呼ばれた社会風潮の中で,〈民主化〉を巡る学園紛争が学生側の視点から描かれる。原作は阿部知二の小説《人工庭園》(1954)。良妻賢母の育成を方針にかかげ青春を抑圧する,封建的で厳格な全寮制女子大学を舞台に,その中で〈民主化運動〉と並行してさまざまな女子大生たち(久我美子,岸恵子,高峰秀子ら)の青春,恋愛が,木下恵介ならではの情感豊かなタッチで群像ドラマとして展開される。あるアメリカの映画評論家は,封建的なプロシア的教育を弾劾したレオンティーネ・ザガン監督,ヘルタ・ティーレ主演のドイツ映画《制服の処女》(1931)を連想させると評した。それまでの日本の〈女性映画〉の域を脱して,戦後の学生の問題を真剣にとり上げて描いた最初の映画である。
執筆者:柏倉 昌美
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報