妊娠の成立(読み)にんしんのせいりつ

家庭医学館 「妊娠の成立」の解説

にんしんのせいりつ【妊娠の成立】

 「月経のおこるしくみ」で解説したように、視床下部(ししょうかぶ)・下垂体(かすいたい)・卵巣(らんそう)系が正常にはたらけば、排卵はいらん)があります。また、排卵期には、頸管粘液(けいかんねんえき)の分泌(ぶんぴつ)がみられます。
 この時期に性交渉があれば、腟内(ちつない)に射精された精子(せいし)は、頸管粘液の中を通って子宮腔(しきゅうくう)におよび、卵管膨大部(ぼうだいぶ)に達します。頸管粘液を通りぬけ、精漿(せいしょう)から離れた精子は、運動性が活発化し、受精能(じゅせいのう)を獲得します。
 一方、排卵された卵子は、卵管采(らんかんさい)にとらえられ、卵管内を子宮腔のほうに輸送されてきます。こうして、卵子と精子は、卵管膨大部で受精(じゅせい)します。
 受精卵は、細胞分裂をおこしながら子宮腔に達し、分泌変化して初期胚(しょきはい)の受け入れ準備の整った子宮内膜着床(ちゃくしょう)します。これが、排卵から7日目前後の黄体期(おうたいき)中期で、黄体のはたらきがピークになっている時期であり、着床期とも呼ばれます。
 着床した受精卵は、細胞分裂をくり返し、胎児成分と絨毛(じゅうもう)成分に分化していきます。絨毛細胞は、たんぱく分解酵素(ぶんかいこうそ)を出して、子宮内膜の中へどんどん侵入していくことにより、胎盤(たいばん)を形成していきます。同時に、絨毛細胞は、hCG(ヒト絨毛性コナドトロピン)を分泌し、黄体を維持します。このため、基礎体温は高温相が持続し、無月経となります。
 また、このhCGが尿に排泄(はいせつ)されるため、尿による妊娠反応が陽性となります。
 現在使われている妊娠反応では、予定月経前後で陽性となり、妊娠を知ることができます。これは市販の妊娠検査薬でも同様です(コラム「市販の妊娠検査薬の作用のしくみ」)。
 ただし、子宮外妊娠(しきゅうがいにんしん)(「子宮外妊娠」)や胞状奇胎(ほうじょうきたい)(「胞状奇胎」)などの異常妊娠の可能性もありますので、やはり、早めに産婦人科を受診したほうがよいのはいうまでもありません。

出典 小学館家庭医学館について 情報

六訂版 家庭医学大全科 「妊娠の成立」の解説

妊娠の成立
にんしんのせいりつ
Pregnancy establishment
(女性の病気と妊娠・出産)

 女性の月経周期は25~38日とされ、平均は28日。その真ん中あたりの14日めくらいに排卵があります。卵巣のなかにある原始卵胞(らんぽう)のいくつかが、脳下垂体(のうかすいたい)から分泌される卵胞刺激ホルモンの刺激を受けて成長し、そのうちのひとつが20㎜前後の成熟卵胞になり、やはり脳下垂体から分泌される黄体化ホルモンのはたらきによって卵子が排卵されるのです。

 この卵子は、卵管采(らんかんさい)から卵管内に取り込まれ、卵管膨大部(ぼうだいぶ)で精子と出会い、受精します。一方、排卵したあとの卵胞は黄体になり、卵胞ホルモンと黄体(おうたい)ホルモンを分泌するようになります。これらのホルモンは、受精卵が子宮に着床しやすいように子宮内膜を充血、肥厚化させ、また妊娠した時に妊娠の持続を助けるはたらきをします。

 受精した卵子(受精卵)は、細胞分裂(卵割(らんかつ))しながら、子宮内腔(しきゅうないくう)に運ばれます。子宮内腔に到達した受精卵は、その内側の細胞からは胎児が形成され、外側の細胞からは胎盤を構成する栄養膜細胞が形成されます。栄養膜細胞は、黄体からのホルモンによって着床しやすく変化した子宮内膜に侵入します。

 こうして、受精卵が、受精後約1週間の時点で、子宮内膜に完全に埋没して着床が完了すると、妊娠が成立します(図13)。

藤井 知行


出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

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