家庭医学館「無月経」の解説
むげっけい【無月経 Amenorrhea】
月経とは、通常1か月の間隔でおこり、限られた日数で自然に止まる子宮内膜(しきゅうないまく)からの周期的出血、と定義されています。これは一見、子宮のはたらきだけでおこっているようにみえますが、実際は、視床下部(ししょうかぶ)、下垂体(かすいたい)、卵巣(らんそう)、子宮が、すべて協調しあって発生する現象です。
この協調がくずれ、月経がみられなくなる状態を、無月経といいます。
無月経は、18歳以後になっても初潮(しょちょう)のみられない原発性無月経(げんぱつせいむげっけい)と、月経がそれまであったにもかかわらず、3か月以上みられなくなる続発性無月経(ぞくはつせいむげっけい)に分類されます。
■原発性無月経
原因には、染色体が正常な女性のものと異なっている場合、たとえばターナー症候群(「ターナー症候群」)のように性染色体異常があって、卵巣(らんそう)はあっても卵胞(らんぽう)成分を含まないため無月経になる場合や、胎児期に性管が正常に分化できず子宮や腟(ちつ)がない場合、腟が閉鎖して月経血が体外に排出されない場合があります。
また、続発性無月経がおこる環境にあるために、初潮がみられない場合もあります。
■続発性無月経
以前には協調しあっていた各臓器(視床下部・下垂体・卵巣・子宮)の一部分が、障害されてしまった状態です。
●視床下部に原因のある無月経
続発性無月経の原因の80~85%を占めます。視床下部は、下垂体を介して卵巣のはたらきをコントロールする反面、卵巣から分泌(ぶんぴつ)される卵胞ホルモンに反応し、ホルモンの放出を促進する物質の分泌を調節しています。
視床下部に原因のある無月経には、強い精神的ストレスによっておこるストレス性無月経、急激な体重減少によっておこる体重減少性無月経、極端な食物の摂取異常、たとえば神経性食欲不振症(しんけいせいしょくよくふしんしょう)や過食症(かしょくしょう)による無月経、過度の運動によっておこる運動性無月経などがあります。
また、前記のような原因が何もないのにおこる特発性視床下部性無月経も少なくありません。
そのほかに、ふだんは視床下部によって抑制されている乳汁(にゅうじゅう)の分泌をうながすプロラクチンというホルモンが、視床下部のはたらきが低下することによって過剰に分泌され、このホルモンが原因で無月経になる機能的高プロラクチン血症もあります。
●下垂体に原因のある無月経
続発性無月経の原因の4~6%を占めます。下垂体は、直接的に卵巣を刺激するホルモンを分泌するほかに、副腎皮質(ふくじんひしつ)や甲状腺(こうじょうせん)を刺激するホルモンと、プロラクチンなどを分泌しています。
下垂体に腫瘍(しゅよう)ができた場合、とくにプロラクチンをつくり出す腫瘍ができた場合を、乳汁漏出性無月経(にゅうじゅうろうしゅつせいむげっけい)といいます。また、分娩(ぶんべん)の際、大量に出血し、下垂体に血液がいかず、下垂体の機能がなくなって無月経になってしまう場合(シーハン症候群(しょうこうぐん)(コラム「シーハン症候群」))もあります。
●卵巣に原因のある無月経
続発性無月経の原因の5~9%を占めます。
卵巣のはたらきは、排卵(はいらん)と、卵巣ホルモン(卵胞ホルモンと黄体(おうたい)ホルモン)の分泌です。
下垂体から分泌される卵巣を刺激するホルモン(卵胞刺激ホルモンと黄体化ホルモン)の作用により、卵(らん)は育って卵胞となり、排卵がおこりますが、この2つのホルモンのバランスがくずれると、排卵ができなくなります。そして、こうしたことをくり返すうちに、卵巣の中にたくさんの嚢胞(のうほう)ができて、下垂体の指令をさらに受けにくくなってしまいます。このような状態を多嚢胞性卵巣(たのうほうせいらんそう)といい、卵巣性無月経の代表的な病気です。
また、卵巣に、男性ホルモンや女性ホルモンをつくり出す腫瘍ができても無月経になります。
●子宮に原因のある無月経
続発性無月経の原因の1~3%を占めます。
月経は、子宮内膜からの出血です。子宮内膜に障害がある場合、たとえば、くり返し行なった妊娠中絶の掻爬(そうは)手術や、帝王切開術(ていおうせっかいじゅつ)の後、子宮内腔(しきゅうないくう)が癒着(ゆちゃく)して無月経になる場合(アッシャーマン症候群)があります。
●その他の原因
全身の健康状態がくずれたとき、たとえば、甲状腺や副腎の機能が亢進(こうしん)している場合や、糖尿病、腎不全(じんふぜん)でも無月経になります。
また、特定の薬によって無月経になる場合もありますので、長期的に内服している薬があるときには、医師に相談してみる必要があります。
[治療]
初潮は、現在では15歳までに95%以上の人でみられます。16歳になっても初潮がみられない場合は、婦人科の診察を受けたほうがよいでしょう。
その結果、原発性無月経と診断され、染色体や性管に異常があることがわかった場合には、残念ながら根本的な治療法はなく、対症的な治療が必要となります。なお、腟閉鎖は切開することによって治ります。
一方、続発性無月経と診断された場合の治療は、原因によっても、年齢によっても異なります。無月経の状態が長期間続くことは、子宮の内膜にとって悪い影響をもたらしますので、専門医に相談し、治療を考える必要があります。
しかし、初潮後しばらくは、卵巣の機能が未熟なので、経過を観察していくことになります。それ以外は、まず原因を明らかにして、原因を取り除くことから始めます。
それでも無月経が続く場合には、子宮に原因があるものを除いて、卵巣から分泌する2種類の性ホルモン(卵胞ホルモンと黄体ホルモン)で、正常の月経周期と比べて足りないものを補うホルモン療法(コラム「無月経治療のためのホルモン補充療法」)を行ないます。
このほか、視床下部に刺激を加えて排卵をうながすクロミフェン療法などがあり、それぞれの症状に応じた選択をしていくことになります。
ただし、不妊症の場合には、これらとは異なった治療を行なう必要があります。
心因性無月経には、精神的なカウンセリングを併用したり、規則正しい生活、適度な運動、食生活の注意をしていくこともたいせつです。
子宮性無月経は、内腔の癒着を剥離(はくり)して、再癒着しないように、ホルモン療法を行ないます。
なお、例外として、治療を必要としない無月経に、生理的無月経(初経以前、閉経後、妊娠中、産褥期(さんじょくき)、授乳期)があります。