妊娠中に血糖値が高くなったり、血糖値が高い状態が初めて発見された場合を妊娠糖尿病といいます。
妊娠時には
正常の妊婦さんでは、インスリン抵抗性になる時期には、膵臓からインスリンを多く分泌して血糖値を上げないように調節します。しかし必要なインスリンを分泌することができない体質の妊婦さんでは、血糖値が上昇します。
体重が重い、両親や兄弟姉妹に糖尿病がある、尿糖陽性、先天奇形や巨大児の出産歴がある、流産や早産歴がある、35歳以上、などの場合には血糖値が上昇しやすいといわれています。
また、妊娠中に検査をして、血糖値が高いことが初めてわかることもあります。とくにインスリン抵抗性のない妊娠初期に判明した場合には、妊娠前から血糖値が高かった可能性が高いと考えられます。
妊娠中に血糖値が高い場合には、母体のみでなく、胎児にもさまざまな影響が出てきます。母体では早産、
さらに、妊娠前から血糖値が高かった可能性の高い場合には、流産しやすく、また生まれてきた子どもが先天奇形を合併していることもあります。
妊娠糖尿病のスクリーニング(ふるい分け)は、妊娠初期から開始します。食前、食後を問わず測定した
異常がない場合には、妊娠中期に随時血糖値を再度測定して100㎎/㎗以上の場合、または50gGCT(glucose challenge test)を行い、1時間値が140㎎/㎗以上の場合には、ブドウ糖負荷試験を行います。
妊娠糖尿病は75gブドウ糖負荷試験の結果、負荷前100㎎/㎗以上、負荷後1時間180㎎/㎗以上、負荷後2時間150㎎/㎗以上のうちいずれか2点を満たした時に診断します。
治療は食事療法から開始しますが、血糖値が非常に高い時にはインスリン療法が必要です。出産後には血糖値は改善することが多いのですが、妊娠前から血糖値が高かったと考えられる妊婦さんでは、分娩後も治療を続けます。
妊娠中に血糖値が高くなった女性は、将来糖尿病になりやすいので、出産後も時々血糖値を測定し、高血糖の早期発見、早期治療を心がけます。
また、糖尿病になりやすい体質の女性は、妊娠前に血糖値を測定し、高かった場合には治療を行い、改善してから妊娠することが大切です。
佐中 眞由実
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
妊娠中に初めて発見または発症した、糖尿病に至っていない糖代謝異常。GDMと略称される。妊娠中の明らかな糖尿病は含めない。糖尿病に至らない軽度の糖代謝異常でも、種々の周産期合併症が生じやすくなる。
[和栗雅子 2024年10月17日]
妊婦に対しては、妊娠糖尿病の疑いがあるか否かを確認するためのスクリーニング検査が行われているが、スクリーニング検査で陽性となった者のみ診断試験(75g経口ブドウ糖負荷試験:75g OGTT)を受けた場合、全体の7~9%が妊娠糖尿病と診断されている(全例に75g OGTTを施行した場合は12%くらいと推定される)。危険因子は肥満、過度の体重増加、糖尿病の血縁者がいる、巨大児を出産したことがある、妊娠糖尿病だったことがある、加齢、などがある。
妊娠して、胎盤ができあがる妊娠20週ころから、胎盤から分泌されるインスリンの働きを抑えるホルモンなどの影響でインスリン抵抗性(インスリンの効きが悪くなる状態)となる。代償性にインスリン分泌も増えるが、インスリン抵抗性の影響のほうが強い場合や危険因子がある場合などで血糖が上昇しやすくなり、妊娠糖尿病を発症する、と考えられている。
[和栗雅子 2024年10月17日]
妊娠初期と中期に行うスクリーニングで陽性の場合に75g OGTT(10時間以上絶食した後、75gのブドウ糖を経口摂取し、負荷前と負荷後1時間および2時間の血糖値を測定する)を行い、(1)空腹時血糖値92mg/dL以上、(2)1時間値180mg/dL以上、(3)2時間値153mg/dL以上のうち1点以上を満たした場合、妊娠糖尿病と診断する。血糖をモニタリングするため自己測定を行う。
[和栗雅子 2024年10月17日]
最初に食事療法が行われる。食事療法は、母体や胎児に必要なエネルギー量を確保しつつ、厳格な血糖管理をするために必要である。目標体重から算出した摂取エネルギー量を基本とし、妊娠時期・体型によって付加量を変更する。糖質・タンパク質・脂質をバランスよくとるようにする。極端な糖質制限は勧められない。運動が可能な場合には運動療法も行う。目標血糖値に達しない場合はインスリン療法を開始する。
[和栗雅子 2024年10月17日]
血糖管理が不十分であれば、種々の周産期のリスク(妊娠高血圧症候群、羊水過多症、過剰発育児・巨大児、新生児低血糖症・黄疸(おうだん)・呼吸障害など)がおこりやすい。また、出産後、いったん血糖値が正常化しても、一定期間後に糖尿病を発症するリスクが高い。産後1~3か月後に75g OGTTを行い再評価するとともに、食事療法・運動の継続、体重管理、定期的な検査などのフォローアップがたいせつである。
[和栗雅子 2024年10月17日]
(石川れい子 ライター / 2011年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
出典 母子衛生研究会「赤ちゃん&子育てインフォ」指導/妊娠編:中林正雄(母子愛育会総合母子保健センター所長)、子育て編:渡辺博(帝京大学医学部附属溝口病院小児科科長)妊娠・子育て用語辞典について 情報
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