妊娠糖尿病(読み)ニンシントウニョウビョウ(英語表記)Gestational diabetes mellitus

デジタル大辞泉 「妊娠糖尿病」の意味・読み・例文・類語

にんしん‐とうにょうびょう〔‐タウネウビヤウ〕【妊娠糖尿病】

妊娠中に、一時的に糖を代謝する機能が低下し、血糖値が高くなる病気。妊娠後に初めて発症し、出産後に回復することが多い。GDM(gestational diabetes mellitus)。

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六訂版 家庭医学大全科 「妊娠糖尿病」の解説

妊娠糖尿病
にんしんとうにょうびょう
Gestational diabetes mellitus
(代謝異常で起こる病気)

どんな病気か

 妊娠中に血糖値が高くなったり、血糖値が高い状態が初めて発見された場合を妊娠糖尿病といいます。

原因は何か

 妊娠時には胎盤(たいばん)で血糖値を上げやすいホルモンインスリン拮抗ホルモン)などが産生されるため、妊娠中期以後にインスリンが効きにくい状態になり(インスリン抵抗性)、血糖値が上昇しやすくなります。

 正常の妊婦さんでは、インスリン抵抗性になる時期には、膵臓からインスリンを多く分泌して血糖値を上げないように調節します。しかし必要なインスリンを分泌することができない体質の妊婦さんでは、血糖値が上昇します。

 体重が重い、両親兄弟姉妹糖尿病がある、尿糖陽性、先天奇形や巨大児の出産歴がある、流産や早産歴がある、35歳以上、などの場合には血糖値が上昇しやすいといわれています。

 また、妊娠中に検査をして、血糖値が高いことが初めてわかることもあります。とくにインスリン抵抗性のない妊娠初期に判明した場合には、妊娠前から血糖値が高かった可能性が高いと考えられます。

症状の現れ方

 妊娠中に血糖値が高い場合には、母体のみでなく、胎児にもさまざまな影響が出てきます。母体では早産、妊娠高血圧症候群(にんしんこうけつあつしょうこうぐん)羊水過多症(ようすいかたしょう)、尿路感染症が、胎児には巨大児新生児低血糖が起きやすく、子宮内で胎児が死亡することもあります。

 さらに、妊娠前から血糖値が高かった可能性の高い場合には、流産しやすく、また生まれてきた子どもが先天奇形を合併していることもあります。

検査と診断

 妊娠糖尿病のスクリーニングふるい分け)は、妊娠初期から開始します。食前食後を問わず測定した随時(ずいじ)血糖値が100㎎/㎗以上、または妊娠中に血糖値が上昇しやすい体質がある場合には、75gブドウ糖負荷試験を行い、結果が異常であった時には治療を開始します。

 異常がない場合には、妊娠中期に随時血糖値を再度測定して100㎎/㎗以上の場合、または50gGCT(glucose challenge test)を行い、1時間値が140㎎/㎗以上の場合には、ブドウ糖負荷試験を行います。

 妊娠糖尿病は75gブドウ糖負荷試験の結果、負荷前100㎎/㎗以上、負荷後1時間180㎎/㎗以上、負荷後2時間150㎎/㎗以上のうちいずれか2点を満たした時に診断します。

治療の方法

 治療は食事療法から開始しますが、血糖値が非常に高い時にはインスリン療法が必要です。出産後には血糖値は改善することが多いのですが、妊娠前から血糖値が高かったと考えられる妊婦さんでは、分娩後も治療を続けます。

 妊娠中に血糖値が高くなった女性は、将来糖尿病になりやすいので、出産後も時々血糖値を測定し、高血糖早期発見、早期治療を心がけます。

 また、糖尿病になりやすい体質の女性は、妊娠前に血糖値を測定し、高かった場合には治療を行い、改善してから妊娠することが大切です。

佐中 眞由実

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「妊娠糖尿病」の意味・わかりやすい解説

妊娠糖尿病
にんしんとうにょうびょう
gestational diabetes mellitus

妊娠中に初めて発見または発症した、糖尿病に至っていない糖代謝異常。GDMと略称される。妊娠中の明らかな糖尿病は含めない。糖尿病に至らない軽度の糖代謝異常でも、種々の周産期合併症が生じやすくなる。

[和栗雅子 2024年10月17日]

疫学・病因(危険因子)

妊婦に対しては、妊娠糖尿病の疑いがあるか否かを確認するためのスクリーニング検査が行われているが、スクリーニング検査で陽性となった者のみ診断試験(75g経口ブドウ糖負荷試験:75g OGTT)を受けた場合、全体の7~9%が妊娠糖尿病と診断されている(全例に75g OGTTを施行した場合は12%くらいと推定される)。危険因子は肥満、過度の体重増加、糖尿病の血縁者がいる、巨大児を出産したことがある、妊娠糖尿病だったことがある、加齢、などがある。

 妊娠して、胎盤ができあがる妊娠20週ころから、胎盤から分泌されるインスリンの働きを抑えるホルモンなどの影響でインスリン抵抗性(インスリンの効きが悪くなる状態)となる。代償性にインスリン分泌も増えるが、インスリン抵抗性の影響のほうが強い場合や危険因子がある場合などで血糖が上昇しやすくなり、妊娠糖尿病を発症する、と考えられている。

[和栗雅子 2024年10月17日]

検査・診断

妊娠初期と中期に行うスクリーニングで陽性の場合に75g OGTT(10時間以上絶食した後、75gのブドウ糖を経口摂取し、負荷前と負荷後1時間および2時間の血糖値を測定する)を行い、(1)空腹時血糖値92mg/dL以上、(2)1時間値180mg/dL以上、(3)2時間値153mg/dL以上のうち1点以上を満たした場合、妊娠糖尿病と診断する。血糖をモニタリングするため自己測定を行う。

[和栗雅子 2024年10月17日]

治療

最初に食事療法が行われる。食事療法は、母体や胎児に必要なエネルギー量を確保しつつ、厳格な血糖管理をするために必要である。目標体重から算出した摂取エネルギー量を基本とし、妊娠時期・体型によって付加量を変更する。糖質・タンパク質・脂質をバランスよくとるようにする。極端な糖質制限は勧められない。運動が可能な場合には運動療法も行う。目標血糖値に達しない場合はインスリン療法を開始する。

[和栗雅子 2024年10月17日]

経過・予後

血糖管理が不十分であれば、種々の周産期のリスク(妊娠高血圧症候群、羊水過多症、過剰発育児・巨大児、新生児低血糖症・黄疸(おうだん)・呼吸障害など)がおこりやすい。また、出産後、いったん血糖値が正常化しても、一定期間後に糖尿病を発症するリスクが高い。産後1~3か月後に75g OGTTを行い再評価するとともに、食事療法・運動の継続、体重管理、定期的な検査などのフォローアップがたいせつである。

[和栗雅子 2024年10月17日]

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知恵蔵 「妊娠糖尿病」の解説

妊娠糖尿病

妊娠中に初めて発見されたか、または発症した耐糖能異常(たいとうのういじょう)のこと。明らかな糖尿病は含まず、糖尿病を持つ女性の妊娠(糖尿病合併妊娠)とは区別する。
耐糖能とは、グルコース(糖の一種)の処理能力のことで、「耐糖能異常」は糖尿病の前駆的な病態を指す。糖尿病の一般的な検査方法である75グラム経口ブドウ糖負荷試験を行い、(1)空腹時1デシリットル当たり92ミリグラム(mg/dL)以上、(2)1時間値180mg/dL以上、(3)2時間値153mg/dL以上、のうちどれか1つを満たした場合に耐糖能異常である「妊娠糖尿病」と診断される。ただし、(3)の2時間値が200mg/dL以上の場合には、明らかな糖尿病の診断項目についても検査を行い、鑑別する必要がある。この診断基準は、2010年に日本糖尿病学会が国際的な基準に従って糖尿病の分類と診断基準を見直した際に、日本糖尿病・妊娠学会の見解を受けて改定したものである。日本糖尿病・妊娠学会によれば、新基準で全妊婦に検査を実施した場合の妊娠糖尿病の頻度は、12.08%である。
妊娠中は、胎盤から分泌されるエストロゲン、プロゲステロン、ヒト胎盤ラクトゲンにより、血糖を下げるインスリンの働きが弱められてしまう。また、胎盤からインスリンを分解する酵素が分泌されたり、母体のブドウ糖不足を補うために脂質代謝が高進したりすることもある。これらが、血糖値が上昇する原因となる。
妊娠中は軽い糖代謝異常でも、例えば胎児が過剰に発育するなど、母体と胎児に大きな影響を及ぼしやすい。胎児が大きくなりすぎて自然分娩が困難になった場合には、帝王切開が選択されることもある。また、早産や流産のリスク、妊娠高血圧症候群(従来「妊娠中毒症」と呼ばれていた病態のこと)のリスクも高まる。
糖尿病になりやすい素因のある人は、妊娠糖尿病になりやすい傾向があり、リスク因子として、肥満、妊娠後の過度の体重増加、血縁の家族に糖尿病の既往歴、巨大児の出産歴、高齢妊娠などがある。
治療方法は、食事、運動と、インスリン療法によって血糖値をコントロールすること。産後は、血糖値が正常に戻ることが多いものの、妊娠中に耐糖能異常を示した女性は将来的に糖尿病を発症するリスクが高いことから、継続的に検査を受けるなどして注意する必要がある。

(石川れい子  ライター / 2011年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

妊娠・子育て用語辞典 「妊娠糖尿病」の解説

にんしんとうにょうびょう【妊娠糖尿病】

"糖尿病は、血液中の糖(血糖)を下げるインスリンというホルモンが不足し、慢性的に血液が高血糖状態になる病気です。小児期に発症するもの、生活習慣病として発症するものがありますが、「妊娠糖尿病」とは妊娠中に発症したか、あるいは妊娠中に初めて発見または発症した糖尿病に至っていない糖代謝の異常をいいます。つまり、妊娠中に発見された明らかな糖尿病は含まれません。*以上は2010年7月から採用された定義です。
 妊娠中の糖代謝の異常は、巨大児や出産時の帝王切開などにつながる心配も大きいため、医師などから食事や生活の指導を受け、自己管理に努めることが大切です。"

出典 母子衛生研究会「赤ちゃん&子育てインフォ」指導/妊娠編:中林正雄(母子愛育会総合母子保健センター所長)、子育て編:渡辺博(帝京大学医学部附属溝口病院小児科科長)妊娠・子育て用語辞典について 情報

栄養・生化学辞典 「妊娠糖尿病」の解説

妊娠糖尿病

 妊娠性糖尿病ともいう.遺伝的に糖尿病の素因のある人が妊娠によって糖尿病の症状を示すこと.腎臓の再吸収能を超えて糖がろ過されるためとされる.妊娠糖尿病がみられると周産期の胎児の死亡率が高い.糖尿病患者が妊娠した場合とは区別する.

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

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