生活習慣病(読み)せいかつしゅうかんびょう

  • せいかつしゅうかんびょう セイクヮツシフクヮンビャウ
  • せいかつしゅうかんびょう〔セイクワツシフクワンビヤウ〕
  • 生活習慣病(生活・社会・環境要因)

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

従来「成人病」と呼ばれていたもので,その発症に食生活や運動などの生活習慣が大きく関係する病気総称。 1996年公衆衛生審議会の答申を受け,97年に厚生省が成人病の改称として提唱した。その範囲は,一般に加齢に伴ってふえる脳卒中心臓病糖尿病などから肝疾患高血圧症歯周病骨粗鬆症などまで幅広い。厚生省は長らくこれら疾患の早期発見・治療に重点をおいてきたが,それらの発症・予防には飲酒喫煙,食生活,運動など生活習慣のあり方が大きくかかわっており,さらに発症時期が低年齢化していることが明らかになってきた。そこで新しい名称を導入するとともに,生活習慣の重要性を訴え,その見直しによって発症を予防するねらいがある。

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知恵蔵の解説

かつて成人病といわれていた病気。1996年12月、厚生省公衆衛生審議会(当時)でこの言葉が提唱された。「成人病」は、40歳頃より増えるがん、心臓病、脳卒中などの病気を表す概念だった。厚生労働省はこれらの病気に対して、早期発見・早期治療(2次予防)の政策をとっていたが、発症を防ぐ(1次予防)方向へ政策転換した。1次予防のためには生活習慣(ライフスタイル)を見直す必要があるため、このような言葉が作り出された。

(今西二郎 京都府立医科大学大学院教授 / 2007年)

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生活習慣病用語辞典の解説

毎日のよくない生活習慣 (過食、運動不足、喫煙、過剰飲酒など) の積み重ねによって引き起こされる病気の総称です。主な生活習慣病には、肥満 (内蔵脂肪型肥満)、高血圧、高脂血症、糖尿病などがあります。生活習慣を改善することで、これらの病気を予防し、あるいは改善することができます。

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大辞林 第三版の解説

食習慣・喫煙・飲酒などの生活習慣がその発症・進行に関与する疾患の総称。肥満・高血圧・循環器病など。加齢に着目した疾患群を指す成人病とは概念的に異なるが、含まれる疾患の多くが重複する。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

食生活や喫煙、飲酒、運動不足など生活習慣との関係が大きい病気のことで、従来は「成人病」とよばれていた。「成人病は本当は習慣病」と1970年代末から指摘していた一人が聖路加(せいろか)国際病院理事長の日野原重明(ひのはらしげあき)(1911―2017)であった。こうした意見を踏まえた公衆衛生審議会(現、厚生科学審議会)の提言を受け、厚生省(現、厚生労働省)は1997年(平成9)、「成人病」を「生活習慣病」と改称した。生活習慣病には、日本人の三大死因である癌(がん)(悪性新生物)、心臓病(心疾患)、脳卒中(脳血管疾患)をはじめ、糖尿病、高血圧、高脂血症(脂質異常症)、腎臓(じんぞう)病、慢性閉塞(へいそく)性肺疾患、痛風、肥満、歯周病、さらには骨粗鬆(そしょう)症、認知症なども含まれる。成人病は年をとっていくと自然に起きる病気、というイメージがあるが、生活習慣病というと乱れた生活が原因であり、個々人の責任、という感じが強くなる。しかし、なかには原因が詳しく分かっておらず、かならずしも個人の責任とはいい切れない病気も含まれている。
 明治以降、第二次世界大戦までは、肺炎、結核、胃腸炎などの感染性疾患が死亡原因の上位を占めていたが、公衆衛生の向上に伴い、感染性疾患は急激に減少した。たとえば、1935年(昭和10)の総死亡に占める感染性疾患と生活習慣病は43%対25%だったが、1955年には20%対47%と完全に逆転している。1958年から、脳卒中、癌、心臓病が死因の1~3位を独占するようになり、翌1959年から政府は「成人病予防週間」を制定し、生活習慣病対策を重点目標にした。しかし、効果をあげているとはいいがたい。生活習慣病は40歳前後から増え始め、働き盛りの成人に蔓延(まんえん)、さらに人口の高齢化で患者数が激増し、今後もますます増えると予想される。
 生活習慣病は毎日の食事や、酒、たばこなどの嗜好(しこう)品、生活環境など日常生活の積み重ねで始まり、加齢によって進行する。発病しないようにする第一次予防は生活習慣の改善で、要件としては、たとえば禁煙、節酒、バランスのよい食事、動物脂肪の摂取制限、適度な運動などがあげられる。続く第二次予防は、検診で早期発見し、発病しても適切な治療で重症化を予防する。これらの考えは、まず癌対策に取り入れられ、1982年施行の老人保健法(現、高齢者医療確保法)下で、自治体による胃、肺、大腸、子宮、乳癌の検診が広がった。ただし、個々の癌検診の受診率は全国的にはかならずしも高くはない。
 癌に続く生活習慣病の心臓病、脳卒中については、厚生労働省は2008年度(平成20)から、市町村や健康保健組合に、生活習慣病予防のための特定健診を義務づけた。肥満症に高血圧、糖尿病、高脂血症の三つが重なる場合は「死の四重奏The Deadly Quartet」(1989年にアメリカの医師によって提唱された概念)とよばれていた。メタボリック症候群(内臓脂肪症候群)は「死の四重奏」までは行かない、肥満症プラス前記の二つがやや高めの状態のことで、心臓病や脳卒中につながるとして年々注目されてきている。特定健診では、もっとも重要な肥満症の基準をへそ回りの腹囲が、男性は85センチメートル以上、女性は90センチメートル以上としている。脂肪が内臓器官の周囲に多くつく方が動脈硬化の可能性が高まるとの認識に基づき、コンピュータ断層撮影装置で撮影した内臓脂肪の断面積が100平方センチメートルを超す腹囲が85センチメートル、90センチメートルという意味である。基準は日本肥満学会が中心になり、関係学会が同意して決まったが、その後、さまざまな批判意見が出ている。世界各国で似た基準はあるが、男性が女性より細い国はなく、基準が女性に甘すぎる問題点がある。また、滋賀医大教授の上島弘嗣(うえしまひろつぐ)らが約7200人を10年間追跡した調査では、やせていて高血圧、高血糖の人は、肥満の人より心筋梗塞(こうそく)や脳卒中で亡くなる危険が高かった。厚生労働省は特定健診で死亡や医療費が減ることを期待しているが、かならずしも思惑通りに運ぶとは限らないようである。[田辺 功]
『藤沢良知、花村満豊著『生活習慣病を考える』(1998・第一出版) ▽小坂樹徳著『生活習慣病の理解』(2000・文光堂) ▽関原久彦編『生活習慣病――専門医にきく最新の臨床』(2004・中外医学社) ▽主婦と生活社編・刊『生活習慣病 治す防ぐ大事典――自分でできる!家庭でとりくむ!』(2004) ▽大野良之・柳川洋著『生活習慣病予防マニュアル』改訂4版(2005・南山堂) ▽奈良昌治監修、山門實編『ここまでわかってきた最新の生活習慣病健診と対策のすべて――診断からフォローアップまで』(2006・ライフ・サイエンス・センター) ▽小林篤・岡本茂雄著『生活習慣病対策のための疾病予防支援サービス――健康診査と保健指導事業のアウトソーシング』(2006・日本経済新聞社) ▽福井次矢監修『図解 生活習慣病がわかる本――健診結果と自覚症状からチャートでわかる治し方・防ぎ方』(2006・法研) ▽日本生活習慣病予防協会・日本健康スポーツ連盟・辻学園監修『生活習慣病基本事典――どう防ぐ?どう食べる?がよくわかる』(2006・コナミデジタルエンタテインメント) ▽佐藤隆一郎・今川正良著『生活習慣病の分子生物学』(2007・三共出版) ▽北村諭著『やさしい生活習慣病の自己管理』改訂版(2008・医薬ジャーナル社) ▽生活習慣病予防研究会編『生活習慣病のしおり』各年版(社会保険出版社) ▽田上幹樹著『生活習慣病』(ちくま新書) ▽香川靖雄著『生活習慣病を防ぐ』(岩波新書) ▽帝京大学医学部附属病院編、寺本民生監修『生活習慣病クリニック』(中公新書ラクレ)』

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精選版 日本国語大辞典の解説

〘名〙 不適切な食事、喫煙、飲酒などの生活習慣が原因と考えられる病気。従来成人病と呼ばれてきた脳卒中、心臓病、がん、糖尿病などに、高脂血症、歯周病などを加えたもの。平成八年(一九九六)、厚生省がこの呼称を導入した。

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内科学 第10版の解説

(1)定義・概念
 食事,運動,飲酒,喫煙,睡眠などの「生活習慣」に関連して,発症,進展・増悪する疾患を総称して生活習慣病とよぶ.糖尿病,脂質異常症,高血圧,脳梗塞・脳出血,虚血性心疾患などが含まれる.さらに,喫煙習慣や食生活・肥満と関連する一部の癌(肺癌,大腸癌,子宮体癌など)も含まれるという考え方が一般的である(表16-1-1).
(2)「成人病」から「生活習慣病」へ:二次予防のみならず一次予防も
 1957年の成人病予防対策連絡会において「成人病」という用語が示された.この時代では,40歳頃から悪性腫瘍,脳卒中,心臓病による死亡率が高くなることを憂慮し,これらを「成人病」と名づけ,広く国民にその存在を啓蒙した.さらに,「成人病」は早期発見・早期治療が重要であることを示し,健康診断・人間ドックなどを普及させた.これは,疾患の重症化の予防,すなわち二次予防が主体であった.
 その後,「成人病」は発病前の生活習慣と深く関係すること,生活習慣の改善により発症を予防できることが理解されるようになり,1996年厚生省公衆衛生審議会で「成人病」に代わって「生活習慣病」という用語が用いられるようになった.
 その背景には,「生活習慣病」が生活習慣に関連して発症,進展・増悪することのみならず,生活習慣の改善により発症予防(一次予防),重症化予防(二次予防)の両者が可能であることを広く国民に啓蒙しようとする意図があった.
(3)社会のニーズの変化:死亡率のみならず生活の質も
 現在でも癌・心臓病・脳卒中がわが国の3大死因である状況に変わりはない【⇨図1-1-1】.過去15年間の死亡率の年次推移をみると,脳卒中は減少傾向にあるが,癌・心臓病は増加傾向にある.しかし,年齢調整死亡率(図16-1-1)をみると,脳卒中は著減し,癌・心臓病も減少傾向にあるので,高齢者が増加したために死亡者の実数は増えているものの,いずれも減少というよい方向に向かっていると推察される.もちろん,これには生活習慣の改善のみならず,医学・医療の進歩の貢献も大きいと考えられる.
 そして,以前よりも「長生き」できるようになったことにより,新たな問題が顕在化してきた.「長期臥床(寝たきり)」「介護」「失明」「人工血液透析」といったキーワードで示される問題である. 脳梗塞で死亡することは少なくなっても,後遺症で麻痺が残れば,長期臥床状態になり,就労どころか日常生活にも支障をきたし,他者からの介護が必要となる.また,糖尿病網膜症や腎症で,失明状態や維持透析が必要な腎不全状態に至れば,生きてはいても生活が制限されてしまう. このように,生きてはいても,若くて元気なときはひとりでできていたようなことが,何らかの理由でできなくなることによる損失が,本人だけでなく家族などの周囲の人々にも大きな影響を与えることが問題となった. このような状況の中で,生活の質(quality of life:QOL)という言葉が生活習慣病領域でも用いられるようになった.麻痺による長期臥床,失明,維持透析が必要な状態はいずれもQOLを著しく低下させる重大な問題であり,このような状態に至るのを予防することは大きな意義があると認識されている.
(4)生活習慣病に含まれる疾患の広がり
 このような社会のニーズの変化の中で,生死に直接かかわらなくてもQOLを低下させる疾患・状態は予防すべきものとして認識されるようになり,その予防に生活習慣の改善が有効であるものはすべて生活習慣病としてとらえられるようになった.
 その結果,食事,運動,飲酒,喫煙,睡眠などの「生活習慣」に関連して,発症,進展・増悪する疾患を総称して生活習慣病とよぶことになった.表16-1-1に,現在,生活習慣病としてコンセンサスが得られているものを列挙したが,今後新たな知見が加われば,疾患・病態は増えてくると予想される.
(5)生活習慣病の各論
a. 2型糖尿病
 2型糖尿病は,生活習慣病の代表である.過食,肥満,運動不足などの生活習慣が,発症,増悪・進展と深くかかわっていることは多くの基礎・臨床研究で明らかとなっている.
 血糖コントロール不良の状態が長期間続くと,動脈硬化性疾患(虚血性心疾患,脳梗塞,閉塞性動脈硬化症など),細小血管合併症(網膜症,腎症,神経障害)などのさまざまな合併症を引き起こす.また,免疫力の低下などにより肺炎などの感染症を合併しやすい.さらに,Alzheimer型認知症の合併率が高いことが報告されている.
 治療の基本は,食事・運動療法である.食事療法は栄養バランスのとれたエネルギー制限食が基本であり,通常,「糖尿病食事療法のための食品交換表(日本糖尿病学会編)」を用いて指導する.主たる栄養素によって食品を分類(表16-1-2)し,1単位を80 kcalとして同じ分類の中では食品を交換可能とし,エネルギー制限をしながら,栄養バランスを崩さない工夫をする.
 血糖指数(glycemic index:GI)の考慮も必要である.これは,炭水化物を含む食品を経口摂取した場合に食後2時間の血糖値(血中グルコース濃度)の上昇の程度を示す指標である.GIが高い食品は,2型糖尿病患者に食後の高血糖を引き起こしやすい.代表的な食品のGIは,グルコース(100),ベークドポテト(95),精白パン(95),ジャガイモ(ゆで)(70),米飯(精白米)(70),バナナ(62),ショ糖(59),パスタ(精白)(55),玄米(50),サツマイモ(48),パスタ(全粒)(40),リンゴ(39)などである.ただし,GIは含まれる炭水化物量が同じである場合の話であり,GIが低くても摂取量が多ければ食後の血糖値は上昇するし,最終的にはすべて消化されて体に吸収されるので,「摂取炭水化物量を決めた上でGIを考慮して,食品を選ぶ」というのが正しい方法である.
 また,同様の考え方で,食物繊維を多く含む野菜や海藻類を摂取すると,同時に摂取した食品の消化吸収が緩徐となり,食後の血糖値を低下させる効果がある.食後よりも食事の始めにこれらを摂取することが望ましいとされる.
b.脂質異常症
 虚血性心疾患などの動脈硬化性疾患を合併する.
 治療としては,高トリグリセリド(triglyceride:TG)血症や低HDLコレステロール血症の場合は,過食・肥満・インスリン抵抗性が関与していることが多く,2型糖尿病と同様に,栄養バランスのとれたエネルギー制限食による食事療法と運動療法が基本である.
 高LDLコレステロール(LDL-C)血症では,摂取する脂肪の種類にも注意が必要である.飽和脂肪酸(おもに獣肉類の脂肪)は血中LDL-Cを上昇させるが,不飽和脂肪酸(おもに植物性脂肪や魚の脂)は逆に低下させる作用がある.前者を1,後者を1.5~2の割合で摂取するとよいとされる.特に,イワシ・サンマなどの青魚(背の青い魚)に含まれるn3系の多価不飽和脂肪酸は,血中TGを低下させる作用も期待できる.ただし,過量の摂取はエネルギー過剰となり禁物である.
 また,LDL-C血症患者では摂取コレステロール量は300 mg/日以下が推奨されている.ただし,コレステロールは体内で合成されるため,摂取量を控えて血中LDL-C濃度を低下させるというよりは過量摂取を避けるといった意味合いである.卵・レバー・イカ・タコ・エビなどがコレステロールを多く含む食品である.
c.メタボリック症候群(metabolic syndrome)
 内臓脂肪の蓄積と本態として,糖・脂質代謝異常,血圧上昇のそれぞれは軽度であっても,虚血性心疾患などの動脈硬化性疾患を合併する. 治療は,運動療法とエネルギー制限食による食事療法である.急性心筋梗塞を合併するだけでなく,2型糖尿病にもなりやすいため,これらに至る前にメタボリック症候群の状態で早期発見・早期治療をすることが重要である.
(6)生活習慣病における運動療法の役割
 生活習慣病には,メタボリック症候群,2型糖尿病,脂肪肝,脂質異常症など内臓脂肪の蓄積と関連したものが多い.現在,これらの治療として有効な,内臓脂肪を減少させる薬剤はない.
 エネルギー制限食により,摂取エネルギー量を消費エネルギー量より少なくして,体脂肪を減少させられるが,同時に筋肉などの体内の蛋白質成分も減少させてしまう危険がある.筋肉量が減少してしまうと,基礎エネルギー代謝量が減少して消費エネルギー量が減少し,摂取エネルギー量との差が小さくなるため,エネルギー制限の効果が出にくくなるだけでなく,日常生活でも疲れやすくなってしまう.この状態で,食事療法に耐えられず,摂取エネルギー量が増えてしまうと,以前よりも消費エネルギーが減少しているため,エネルギー過剰状態になりやすく,体脂肪を蓄積して太りやすく,いわゆる「リバウンド」になる. このような状態に陥らないためには,運動療法が必須である.運動によるエネルギーの消費も大切だが,継続的な運動で筋肉を増強し基礎エネルギー代謝量を増加させることが,さらに重要である.生活の中で運動を習慣化することが成功の秘訣である.週3~4日以上,スポーツができればベストであるが,それができなくても通勤・通学・買物などの日常生活で,早歩き,ジョギング,階段昇降,ステップ(または足踏み)運動,自転車走行などを取り入れることは十分に有効である. 運動療法に対するモチベーションを維持し,運動を習慣化するためには,効果や成果を数値で示すことが大切である.歩数計で運動量を,活動量計で消費カロリーを,体組成計で体脂肪量や筋肉量を測定したりするとよい.運動の継続や,数値の改善(体脂肪量が500 g減った,など)を賞賛する姿勢が医療者側に必要である.ある程度運動を継続すると,体重・腹囲が著しく減少したり,検査数値を改善したり,体調のよさや疲れにくさを実感できるようになって,患者のモチベーションを維持しやすいが,そこまで到達するには時間がかかる.
(7)わが国における最近のトピックス
 21世紀における国民健康づくり運動(通称「健康日本21」)が2000(平成12)年に厚生省(当時)により始められた.生活習慣病の予防(特に,一次予防)を目的として,その原因である生活習慣を改善する運動である.食生活・栄養,身体活動・運動,休養・心の健康づくり,タバコ,アルコール,歯の健康,糖尿病,循環器病(心臓病・脳卒中),癌の9分野にわたり,2010(平成22)年に達成する具体的目標を設定し,目的達成のために,自己管理能力の向上,専門家などによる支援と定期的管理,保健所などによる情報管理と普及啓発の推進が行われた.
 わが国における肥満者(BMI 25以上)の割合(図16-1-2)は,男性(20~60歳代)では増加傾向にあるものの,「健康日本21」開始前と比較すると鈍化しており,女性(40~60歳代)では明らかに減少傾向にある.一方,運動習慣のある者の割合(図16-1-3)をみると,平成15年から21年にかけてやや増加傾向にあるがほぼ横ばいである.
 さらに,2008年4月から特定健診制度(糖尿病などの生活習慣病に関する健康診査)が始まり,40歳から74歳までの健康保険加入者を対象に健康保険者が特定健診(いわゆる「メタボ健診」)を実施し,メタボリック症候群やその予備群と判定されたものに対して特定保健指導(食事や運動などの生活習慣指導)を行うことが義務化された.2012年2月の厚生労働省の調査(「保険者による健診・保健指導等に関する検討会(第7回)」で報告)によれば,2008年度に特定保健指導を終了した23万3125人の2008,2009年度の特定健診結果を比較すると,「メタボ該当者」の割合は29.0%から21.3%に,「メタボ予備群」の割合は48.9%から31.3%に,いずれも減少していた.
 現在,生活習慣病に対する対策は,成果を評価し,より効率的・効果的な方法にバージョンアップされる段階に入っている.
(8)生活習慣病診療における医師の役割
a.医学的評価者としての役割
 生活習慣病の診療に携わる医師は,生活習慣の改善が個々の患者(あるいは介入対象者)にもたらすであろう,あるいは,もたらした効果について,医学的・科学的に推測・評価する必要がある.たとえば,肥満者やメタボリック症候群の人が,Cushing症候群や甲状腺機能低下症などでないか鑑別する必要がある.また,糖尿病でもインスリン分泌が著明に低下している(1型,膵性,一部の2型糖尿病)やせ型の患者の場合,まずインスリン補充(薬物治療)が優先される.
 生活習慣病は「生活習慣の改善により予防・治療が可能」であるが,患者個人の病態・病状はさまざまで,「遺伝的要因や臓器・組織の機能障害(たとえば糖尿病における膵β細胞機能障害)の影響が強い場合は,生活習慣改善によりもたらされる効果は限定的である」ことを知っておくべきである.2型糖尿病患者のHbA1cが改善しない場合,生活習慣の改善ばかりを指導し続けるのは好ましくない.病態に応じた薬物治療(インスリンや経口血糖降下薬)の検討を怠ってはならない. また,生活習慣に対して介入していて,ある程度,改善がなされていると見なされるにもかかわらず,生活習慣病が改善しない場合は,生活習慣以外の病態悪化要因(内分泌疾患,肝・膵・筋疾患,炎症性疾患,悪性疾患)を再検討する方がよい.
b.チーム医療リーダー(統括者)としての役割
 生活習慣病診療には,管理栄養士,運動療法士,看護師,保健師,糖尿病では糖尿病療養指導士,などのさまざまなコメディカルスタッフの協力が不可欠であり,医師を含め複数の専門家が1人の患者・介入対象者にかかわっていく.その中で,各スタッフが責任をもって,主体的に生活習慣に介入・指導していくことは重要であるが,a.で述べたように,生活習慣の改善だけでは病状の改善の見込みが少ない生活習慣病患者への不適切な生活習慣指導や,スタッフの知識・意識・情報の共有不足による一貫性・統一性のない指導を避けるためには,医師がリーダー(統括者)として果たす役割は大きい.[矢藤 繁・島野 仁]
■文献
厚生労働省:平成21年国民健康・栄養調査結果の概要.厚生労働省,2010.
日本糖尿病学会編:糖尿病食事療法のための食品交換表(第6版).文光堂,東京,2002.

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