改訂新版 世界大百科事典 「嬢景清八島日記」の意味・わかりやすい解説
嬢景清八島日記 (むすめかげきよやしまにっき)
人形浄瑠璃。時代物。5段。通称《日向島》《盲景清》。若竹笛躬(ふえみ),黒蔵主(こくぞうす),中邑阿契(なかむらあけい)合作。1764年(明和1)10月大坂豊竹座初演。悪七兵衛景清の後日譚物で,日向に流された景清を娘が尋ねる三段目が歌舞伎に移され,とくに有名になった。景清の娘糸滝は,日向にいる盲目の父を都に連れ戻し仕官させたいと,わが身を手越の宿花菱屋に売ろうとする。孝心に感じた花菱屋の主人左次太夫に連れられ,日向まで糸滝は父を尋ねて来るが,盲目の乞食となった景清は,父は飢死したと偽り,帰そうとする。娘を追い返したあと,娘の孝心の金を手渡された景清は慟哭(どうこく)する。1725年(享保10)大坂豊竹座の《大仏殿万代石楚(ばんだいのいしずえ)》を採り入れたもので,そのほかに,《待賢門夜軍(よるのいくさ)》や《義経腰越状》,豊竹越前少掾追善の《追善記念谺(かたみのこだま)》をつけ加えており,作者たちは増補した程度と見られる。現在の人形浄瑠璃でも,この段の景清用として,真っ赤な眼をむく仕掛けの特殊な首(かしら)が残っている。近年では,1959年に8世松本幸四郎(白鸚)が,竹本綱大夫,竹沢弥七と共演したときの赤眼の工夫と迫真の演技が,とくに有名である。能《景清》とは異なる親子の情愛の吐露の場は,《平家女護島》の俊寛などと共通し,景清物の代表作となっている。
執筆者:向井 芳樹
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報