景清(読み)カゲキヨ

デジタル大辞泉 「景清」の意味・読み・例文・類語

かげきよ【景清】

平景清たいらのかげきよ
能・浄瑠璃歌舞伎などの景清物主人公源頼朝打倒を目ざして果たさなかった平景清の哀話は、浄瑠璃「出世景清」「壇浦兜軍記だんのうらかぶとぐんき」などに描かれている。
謡曲。四番目物平家物語などに取材。日向ひゅうがへ流された悪七兵衛景清が娘と再会するが、屋島の戦いを回顧し、回向えこうを頼んで娘を帰す。
歌舞伎十八番の一。藤本斗文作。元文4年(1739)江戸市村座で「菊重栄景清きくがさねさかえのかげきよ」として初演。

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精選版 日本国語大辞典 「景清」の意味・読み・例文・類語

かげきよ【景清】

  1. [ 1 ]
    1. [ 一 ] 平景清(たいらのかげきよ)
    2. [ 二 ] 謡曲。四番目物。各流。作者不詳。平家滅亡後、日向国宮崎に流されて盲目の乞食同様になった平景清を尋ねて、娘の人丸(ひとまる)鎌倉から訪れる。
    3. [ 三 ] 幸若曲名悪七兵衛景清は源頼朝を討とうとして果たさず、牢につながれるが破って出、舅(しゅうと)の難を恐れて再び戻る。そして六条河原で切られることになるが、報復の念を絶ち、両眼をえぐって西国に行くことになり、清水に参ると、両眼が元通りになる。やがて、日向宮崎荘に移って、長命を保った。のちの浄瑠璃、歌舞伎に大きく影響した。
    4. [ 四 ] 歌舞伎十八番の一つ。「菊重栄景清」として、元文四年(一七三九)二世市川団十郎が初演。荒事の一つ。
    5. [ 五 ] 歌舞伎所作事。長唄常磐津。通称「五条坂の景清」。三世桜田治助作詞。十世杵屋六左衛門・岸沢式佐作曲。天保一〇年(一八三九)江戸中村座初演。四世中村歌右衛門と岩井粂三郎の八景の所作事「花翫暦色所八景(はなごよみいろのしょわけ)」の一つ。景清が五条坂の阿古屋のところへ通うさまを舞踊化する。
    6. [ 六 ] 歌舞伎所作事。常磐津。俗称「へちまの景清」。二世桜田治助作詞。岸沢古式部作曲。文化一〇年(一八一三)江戸森田座初演。七世市川団十郎の八景の所作事「閏茲姿八景(またここにすがたはっけい)」の一つ。羽織姿の景清が、八島の軍話を廓話になぞらえて物語る。
  2. [ 2 ] 〘 名詞 〙
    1. ( [ 一 ][ 一 ]が「悪七兵衛」といわれるところから ) 通人をよそおって悪事をはたらく人。また、悪事、悪だくみ。江戸時代、安永・天明(一七七二‐八九)頃の語。
      1. [初出の実例]「若(もし)大通向へ廻って狂言を書、景清(カケキヨ)を働くに及ては則大騒動也」(出典:洒落本・後編風俗通(1775)金錦先生進学解)
    2. 魚「あかまつかさ(赤松笠)」の異名。
    3. 魚「いっとうだい(一等鯛)」の異名。
    4. 魚「ぐそくだい(具足鯛)」の異名。
    5. 魚「きんときだい(金時鯛)」の異名。
    6. 魚「ちかめきんとき(近眼金時)」の異名。

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改訂新版 世界大百科事典 「景清」の意味・わかりやすい解説

景清 (かげきよ)

(1)幸若舞曲の曲名。作者,成立年次不詳。上演記録の初出は1554年(天文23)(《証如上人日記》)。上下に分かれる。上だけを《景清》,下を《籠破(ろうやぶり)》として独立した本もある。悪七兵衛景清(平景清)は東大寺再建の供養のおり,頼朝を暗殺しようとして何度もねらうが,畠山重忠に妨害されて果たさず,都に上って清水の遊女阿古王のもとに身を寄せる。阿古王が訴人し,追手に囲まれた景清は2人の間の子どもを殺害し,包囲を突破して姿を消す(上巻)。その後,景清は舅の熱田大宮司を頼って尾張に下るが,大宮司が捕らえられると,自首して牢につながれる。景清は,清水観音の助けで厳重な牢を破る,斬首されると観音が身代りに立つ,などの奇跡を現し,頼朝も感じてこれを許し,領地として日向宮崎荘を与える。景清は報復の念を絶つため,みずから両眼をえぐり,宮崎荘に下って長寿を保ち,大往生を遂げる(下巻)。テキストによっては,開眼説話を伴うものがある。景清の名は《平家物語》諸本に見えるが,延慶本,長門本には降人となった景清が大仏供養の日に湯水を絶って干死したとある。本曲と内容が類似する謡曲に《景清》《大仏供養》《籠景清》などがあって,これらの景清説話は日向の盲僧集団などによって育てられたものと推定されている。なお,江戸期には近松の《出世景清》,文耕堂の《壇浦兜軍記(だんのうらかぶとぐんき)》,歌舞伎十八番の《景清》などがあってその影響は大きい。
執筆者:(2)能の曲名。四番目物。作者不明。シテは悪七兵衛景清。景清は,源平の戦乱後日向の宮崎荘に下り,盲目の琵琶法師となって乞食の生活を送っている。うわさを聞いた娘の人丸(ツレ)が鎌倉からたずねてくるが,景清はわざと他人のように応対する。しかし人丸が里人(ワキ)に伴われてまた訪れるので,かたくなな心を和わらげて対面し,しみじみと言葉を交わす。景清は娘の頼みに応じて,屋島の合戦で敵方の三保谷四郎(みおのやのしろう)と力競べの錣引(しころびき)をした武勇談をして聞かせ(〈中ノリ地〉),涙ながらに別れを告げて鎌倉へ帰す。中ノリ地が中心だが,その前後の親子の情愛の描写もこまやかである。なお景清の初めの述懐は,〈松門(しようもん)の謡〉と称して特殊な節付けである。人形浄瑠璃嬢(むすめ)景清八島日記》などの原拠。
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「景清」の意味・わかりやすい解説

景清(能)
かげきよ

能の曲目。四番目物。五流現行曲、ただし金春(こんぱる)流は明治の復曲。作者不明。心理劇の傑作。かつての武将悪七兵衛(あくしちびょうえ)景清(シテ)は、日向(ひゅうが)国(宮崎県)に流人となり、盲目の乞食(こじき)として生きている。鎌倉の遊女との間に生まれた娘人丸(ひとまる)(ツレまたは子方)は、従者を伴ってまだ見ぬ父を訪ねて九州へ下ってくる。身を恥じて名のろうとせぬ父。里人(ワキ)の引き合せで娘に頭(こうべ)を垂れた景清は、かつての武勇を物語り、死後の回向(えこう)を頼み、去っていく娘を見送ってひとり立ち尽くす。景清の能面にも髭(ひげ)の有無両様があり、敗残の姿に焦点をあてるか、消えぬ反骨を主軸とするか、さまざまの解釈、演出がある。三保谷(みおのや)の四郎との錣引(しころびき)の武勇談の部分は、狂言の小舞(こまい)としても演じられる。このくだりは『平家物語』を原典とするが、流人、盲目、親子再会の話は『平家物語』にはなく、別系統の景清伝説に拠(よ)ったものだろう。頼朝(よりとも)暗殺をねらう景清を描いた能に『大仏供養(くよう)』(奈良詣(ならもうで))がある。ともに後世の浄瑠璃(じょうるり)、歌舞伎(かぶき)から常磐津(ときわず)、長唄(ながうた)まで大きな影響を与え、多くの景清物を生んだ。

[増田正造]

景清物

浄瑠璃、歌舞伎の一系統。平家の遺臣悪七兵衛景清(平景清)の事跡に取材したもの。幸若(こうわか)舞や謡曲にも扱われたが、江戸期になると、最後まで源氏への報復を心がけた景清の執念に民衆が共鳴したため、古浄瑠璃以来、多くの作が生まれた。浄瑠璃では近松門左衛門の『出世景清』(1685)を基本に、『壇浦兜軍記(だんのうらかぶとぐんき)』(1732)、『嬢景清八島日記(むすめかげきよやしまにっき)』(1764)など。歌舞伎では「歌舞伎十八番」の『景清』『解脱(げだつ)』『関羽(かんう)』などのほか、『錣引(しころびき)』『琵琶(びわ)の景清』『岩戸の景清』や長唄の舞踊『五条坂の景清』などがある。

[松井俊諭]


景清(落語)
かげきよ

落語。原話は初代米沢(よねざわ)彦八著『軽口大矢数(かるくちおおやかず)』所収の「祇園(ぎおん)景清」で、その系統の上方(かみがた)落語『景清の眼(め)』を3代目三遊亭円馬が東京へ移したため、現在は東西で口演されている。東京落語の『景清』では、定次郎が急に目が見えなくなり、赤坂の日朝(にっちょう)様へ願掛けをする。21日目の朝、すこし見えたので「南無妙法蓮華経(なむみょうほうれんげきょう)」を唱えていると、同じような境遇の女がお題目を唱える声が聞こえ、その女に邪念をもったためにまた見えなくなる。それから石田の旦那(だんな)の勧めで上野の清水観音(きよみずかんのん)に願掛けをする。ここは昔、悪七兵衛(あくしちびょうえ)景清が目をくりぬいて納めたという京都の清水観音の出店だが、百日通っても御利益(ごりやく)がなく、定次郎は観音様に当たり散らす。旦那に諭されて帰る途中に雷雨にあって気絶するが、やがて気がつくと目があいていた。浄瑠璃(じょうるり)の『壺坂霊験記(つぼさかれいげんき)』と相通じ、背景に強い観音信仰がある。8代目桂文楽(かつらぶんらく)がこの作品を磨き上げて絶品とした。

[関山和夫]

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百科事典マイペディア 「景清」の意味・わかりやすい解説

景清【かげきよ】

能の曲目。四番目物。人情物。五流現行。敗残の老武将の悲哀を描く能。源平合戦の栄光の日々を,訪れた娘を前に盲目の乞食(こじき)となった平景清が語る。演劇的にも心理的にも成功した能。近松門左衛門の《出世景清》以下の後世の演劇に影響を与え,〈景清物〉と総称される一連の作品群を生み出した。歌舞伎でも行われる人形浄瑠璃《壇浦兜軍記》《嬢景清八島日記》ほか,歌舞伎十八番の《景清》,歌舞伎舞踊《景清》(通称《へちまの景清》常磐津節)などが有名。
→関連項目現在能平景清

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「景清」の意味・わかりやすい解説

景清
かげきよ

(1) 能の曲名 四番目物。作者未詳。鎌倉に住む人丸 (ツレ) は,日向に流された父悪七兵衛景清 (シテ) を求めたずねて下る。乞食となってわら屋に住まう盲目の景清は,ようやく父を捜しあてた娘にわが身を恥じて名のろうとしない。里人 (ワキ) のとりなしで親子は名のり合い,景清は屋島の合戦,錣引 (しころびき) の物語 (語り) を聞かせて娘を返す。 (2) 幸若舞 景清が東大寺大仏供養の場で源頼朝の命をねらいながら果せずに捕えられ,牢破りから日向へ下るまでを描く。 (3) 歌舞伎 同じ景清を題材として,元文4 (1739) 年江戸市村座初演『初もとゆい通曾我 (はつもとゆいかよいそが) 』の『菊重栄景清 (きくがさねさかえかげきよ) 』をもとにして天保 13 (1842) 年に7世市川団十郎が『歌舞伎十八番の内景清』とした。 (4) 歌舞伎舞踊 文化 10 (13) 年に八変化舞踊『閏茲姿八景 (またここにすがたのはっけい) 』で常磐津の『へちまの景清』,天保 10 (39) 年同じく八変化『花翫暦色所八景 (はなごよみいろのしょわけ) 』に長唄・常磐津掛合の『五条坂の景清』として上演された。

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歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典 「景清」の解説

景清
〔長唄〕
かげきよ

歌舞伎・浄瑠璃の外題。
作者
桜田治助(3代)
演者
杵屋六左衛門(10代)
初演
天保10.3(江戸・中村座)

景清
(通称)
かげきよ

歌舞伎・浄瑠璃の外題。
元の外題
泰平出世景清 など
初演
宝永3.11(江戸・山村座)

景清
かげきよ

歌舞伎・浄瑠璃の外題。
作者
岡本綺堂
初演
大正4.11(東京・新富座)

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デジタル大辞泉プラス 「景清」の解説

景清

古典落語の演目のひとつ。上方種。三代目三遊亭圓馬によって東京に移された。「入れ眼の景清」「めくら景清」とも。八代目桂文楽が得意とした。主な登場人物は、盲人。

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世界大百科事典(旧版)内の景清の言及

【人形浄瑠璃】より

…それは語り物とはいえ,ドラマの本質を備えた戯曲を得てはじめて真の達成をみるべきものである。 85年近松門左衛門が義太夫の門出を祝って執筆した《出世景清》は,孤独の勇者景清と彼を愛するゆえに裏切りを犯す阿古屋との深刻な葛藤を扱い,義太夫節の出発点にふさわしい,近世悲劇(広末保《近松序説》参照)の本質を備えた作品であった。1703年(元禄16)近松・義太夫コンビによる最初の世話浄瑠璃《曾根崎心中》が上演され,人形浄瑠璃の現代劇化はいっそう推し進められた。…

【能面】より

…瘦男(やせおとこ)や蛙(かわず)は死相を表し,三日月や阿波男,怪士(あやかし)などは神性の表現に特徴がある。平太(へいた)と中将は特に武将の霊に用い,頼政や景清,俊寛など特定の人物への専用面も現れた。喝食(かつしき),童子など美貌若年の面のなかにも,蟬丸や弱法師(よろぼし),猩々(しようじよう)といった特定面ができてくる。…

【出世景清】より

…5段曲。大筋は能《大仏供養》,幸若舞曲《景清》,古浄瑠璃《かげきよ》に拠るが,この年東大寺大仏修復の大勧進が開始された事件の当込みがある。また源平合戦の武将たちの五百年忌にも当たり,〈八島〉や〈景清〉の世界が選ばれた。…

【平景清】より

…上総介藤原忠清の子。悪七兵衛景清と称された平家の侍大将。1180年(治承4)の源頼政との戦いをはじめ,源平争乱のなかで源義仲・行家との合戦,一ノ谷,備前児島の合戦など各地を転戦。…

【壇浦兜軍記】より

文耕堂,長谷川千四合作。近松門左衛門の《出世景清》を素材として,平家滅亡後,鎌倉の源氏方に追われる平家の侍大将悪七兵衛景清と,その愛人五条坂の遊女阿古屋の物語を描いたもの。全5段。…

※「景清」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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