学級経営(読み)がっきゅうけいえい(英語表記)class management

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

学級経営
がっきゅうけいえい
class management

学校における児童,生徒の基本的な活動単位である学級を,教育的な目的に即して組織化し,教育活動を充実させていく教師の仕事。法規の適用,諸事務の処理によって学級の教育条件を維持し,運営を遅滞なくする学級管理とは異なり,教師の主体的な意思に支えられた創造的活動であると理解される。学級組織はもともと経済的,能率的観点から導入されたものであり,管理的発想が先行したが,学習における個人差に対する認識が深まったことや,集団生活の場としての学級の意味が理解されてきたことに伴い,学級に存する諸条件に対していかに教育的見地から働きかけていくか,という経営的発想が強調されてきた。学級経営の最近の動向は,さらに,児童,生徒の積極的な意欲を基礎とした集団的活動と,教師の創造的実践を互いにかみあったものとしてとらえようとする。学級集団づくりは個々の児童,生徒の生活意欲,学習意欲の振起を学級の人間関係の変革,学級集団の組織化,集団規律の確立を通じて達成しようとする。一方,学校経営,学年経営との関連において,学級経営が閉鎖的な学級王国に陥ることは厳に戒められなければならない。

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デジタル大辞泉の解説

がっきゅう‐けいえい〔ガクキフ‐〕【学級経営】

学級を教育の目的に沿って効果的に組織し運営すること。学習指導と生活指導を総合し、学級内の人間関係の発展を促すなどのほか、学級の物的環境を整備するなどの教育活動をいう。学級管理。

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大辞林 第三版の解説

がっきゅうけいえい【学級経営】

小学校・中学校で、学級担任が教育の効果を高めるために学級でさまざまな活動を工夫し、実践すること。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

学級経営
がっきゅうけいえい

学校教育上の単位組織である学級を、教育目的に従って効果的、効率的に運営すること。1989年の学習指導要領の改訂以降、「教育」から「学習」へというパラダイム(認識の枠組み)の転換によって、学習主体の行為に沿ったさまざまな集団が組織化されるようになってきたが、それでも学校教育の二つの大きな役割である学習指導(教科指導)と生徒指導は、そのいずれにあっても学級を単位とし、あるいは学級を基礎として展開されることが多い。子供にとっての学級とは学校生活の基地であり、学級担任教師は、担当する学級の責任者として、当該学級の適正な経営にあたる役割を担っている。[吉本二郎・岡東壽隆]

意義・機能

学級経営は基本的には、学校教育の目的を達成するねらいをもって行われる。学級経営は「特別活動」領域の学級活動やホームルーム活動を意味する場合もあるが、児童・生徒が学校での学習や生活を、適正に展開するための重要な機能として働くものと考えてよい。実際には学級担任教師は、学級の学習効果を高めるためのくふうを凝らし、学習のための条件整備を行う、という重要な機能を働かせるが、その過程で学級集団の生活を指導し、調整することによって、社会的訓練という重要な教育的意義をも果たしている。学級経営はこうして、学習条件の整備と、それ自体が教育であること、の両側面を備えている。
 注意すべきことは、経営という語に幻惑されて、学級経営を条件整備を中心とする学校経営の単なる縮小版とみないことである。教育学者の沢正は明治末期に「学校経営の中核は学級経営にある」といったが、学級において、集団の学習目標への達成意欲と集団の秩序ある積極的な学習態度があれば、優れた学校経営と評価される。慣用的に使われる学級経営ということばは、実態としては学級の「教育」が中枢であって、学級の全教育活動のなかで、直接的な授業活動を除くすべての教育活動が学級経営に含まれる。学級経営にあたって、児童・生徒は学習の主体であり、教授の対象として存在している。[吉本二郎・岡東壽隆]

仕事の内容

学級担任は担任する学級に絶えず配意して、学級の成長に努めなければならないが、その主要な仕事の内容は次のようである。
(1)学級教育の組織化 所与の学級はその成員の学力や性向からみてきわめて多様性をもつ集団である。しかも、中学校の場合は、学習面で多数の教師の指導を受け、生徒が自己統一的に自分を形成する困難を伴うことが多い。学級担任は、学級全体の教育・学習状況がどのようになっているのかを正しく把握し、学習への適応(学習意欲や態度の涵養(かんよう))を促進する努力を怠ってはならない。
(2)学級づくり 学級集団には成員と担任教師のあり方などによって、おのずから個性的な雰囲気や特有の行動様式が生まれるが、意識的に集団機能を活用して、生気ある優れた学級をつくる必要がある。学級の教育目標を設定し、集団内の各人の役割分担を明確にし、活動的で明るい人間関係のもとでの級風を醸成するなど、この分野で教師がなすべき仕事は多い。学級づくりは、とくにそれ自身が民主的な社会人育成の重要な教育事項であるので、重視されなければならない。
(3)環境の整備 施設、設備などの巨大な物的条件の整備は学校経営にまつべきであるが、所与の条件のもとで、学級ごとに教育条件を整えることが必要になる。座席の位置、学習に応じた態勢、集団の形成などが伝統的な仕事であるが、今日では電子的なマルチメディア機器の管理なども行わなければならない。
(4)学級事務の処理 出席簿、学級会計、学級備品の整理・活用、また学級の保護者との協力関係などがここに該当する。ただし、保護者との教育連携や、地域社会の有能な人材を指導者に迎えるなど、静的な事務管理よりも対人関係を要する重要な仕事が増加している。
(5)これらの仕事に加えて、1980年代中葉以降は学級の壁を取り払い、学年や学校全体という単位で教育を展開することが増加した。学年担任を同じくするものだけでなく、ティーム・ティーチング(TT)のための加配教師や外部の非常勤講師とともにTTや個別指導を行ったり、体験学習を行うことも多い。また、荒れた学級の多い学校にも特別に教員が加配されることがある。このようなときには、児童・生徒がどのように動くかを予想したり、教師間の連携・協力を密にするなど、事前の準備が必要であり、児童・生徒に対する学習へのレディネス(構え)や動機づけが大きな課題となる。[吉本二郎・岡東壽隆]

留意点

学級経営に際しては、もとより学級担任の責任は重大であるが、そのゆえに、ともすると学級ごとに孤立する、いわゆる「学級王国」に陥りやすいことを警戒する必要がある。学校教育が多面的に構成される現代では、担任は学校生活全体における児童・生徒の情報を得ること、情報処理後に関係教師に正当な情報提供をすることが求められる。このために、開かれた学級経営を目ざし、また学年協力体制をとって、学年・学級経営を一体化することが重要である。さらに個々の教師が学校生活のどのような場面にも参与する姿勢を保つことがたいせつである。たとえば、自分の授業をほかの教師に一切公開しない、といった態度は避けなければならない。
 このような教師の努力をもってしても、学級経営が円滑にいくとは限らない。同僚とよりも、むしろ学習者との人間関係をどのように構築するかが問われている。1990年代後半に頻繁に報道され始めた少年犯罪の凶悪化、「援助交際」などの流行性非行、校内外の暴力行為、個性をはき違えた異様な外見の横行(保護者の許容的態度も問題)、学級崩壊やいじめ、あるいは不登校(登校拒否)などの現象は、学級経営における教師の権威どころか、「学級王国」論さえ吹き飛ばすものである。従来は教授・学習を忌避する児童・生徒が訓育を忌避するという強い連関がみられたが、教授・学習に優れた成績を示す児童・生徒にも訓育を忌避する傾向が顕著となっている。教師側は「子供の人権尊重」によって厳しい懲戒ができないことを主因とするが、指導力の不足等を反省しないばかりか、子供の変化に気づかない教師の増加も影響している。教育・学習における個性化の質を問うと同時に、心の安寧を図る仕事が学級経営に期待されている。[吉本二郎・岡東壽隆]
『下村哲夫著『教育学大全集14 学年・学級経営』(1982・第一法規出版) ▽高階玲治著『開かれた学年・学級経営の展開』(1978・明治図書出版) ▽佐藤学著『教室からの改革――日米の現状から』(1989・国土社) ▽葉養正明・浜田博文編著『教育組織論概説』(1995・紫峰図書)』

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精選版 日本国語大辞典の解説

がっきゅう‐けいえい ガクキフ‥【学級経営】

〘名〙 学級担任教師が中心となり、学校の方針を実現しながら、児童・生徒の学習能率や、学級成員の人間関係の深まりをはかる施策

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最新 心理学事典の解説

がっきゅうけいえい
学級経営
classroom management

学級経営とは,学級における教育活動の目標を,最も有効に展開し実現するため,教師が教育活動全般の計画を立案し,運営していくことである。また学級は,児童・生徒の人間的な成長の場でもあることから,学級経営は授業を中心とした教育活動目標達成のための条件整備だけでなく,学級でのすべての活動を包括したものである。

【集団としての学級】 学級は教師と児童・生徒からなる集団であり,以下のような特徴がある。①制度的に編成された,教師と児童・生徒から構成される集団である。②児童・生徒は自分の意志に基づいて自由に所属することができない。③多くの場合,児童・生徒は同一年齢集団で構成されている。④多くの場合,1年ないしは2年などあらかじめ存続期限が定められており,時間的な拘束の度合いが強い。次に,学級が集団であることには,以下のような意義があると考えられている。①児童・生徒に対して,一定水準で均一の知識を系統的に教授するには,個別指導よりもむしろ集団指導が適している。②学級集団活動は,児童・生徒同士の日常的なかかわりを通して,彼らに直接的かつ間接的な学習の機会を与える場である。③子どもが他者とともに活動を行なうことにより,集団において守るべきルールや規範を学習する場である。④子どもは能力・適性などさまざまな側面において自分と他者の比較を行ない,また互いに討論し批判することを通して,自己を向上し確立させる場である。

【学級風土】 日常の学級内では,教師と児童・生徒,および児童・生徒同士のコミュニケーションによる相互作用が繰り返される。したがって学級も一定期間を経ると,各学級に固有の雰囲気が生じるようになる。この学級の雰囲気を学級風土とよぶ。学級風土の存在を実証的に明らかにしたのが,グループ・ダイナミックス(集団力学)の創始者であるレビンLewin,K.とその弟子のリピットLippitt,R.とホワイトWhite,R.K.(1939)である。レビンらは,教師と子ども集団の教育場面を模擬的に設定し,子どもの知能,家庭環境や交友関係など可能な限りの個人差を統制したうえで,教師の指導行動(民主型,専制型,放任型)の違いが,子どもの取り組む課題遂行量や集団のモラール(士気,志気)にどのような影響を及ぼすのかについて検討した。研究の結果,教師の指導行動の差異により,まったく異なる集団の雰囲気が形成された。レビンらはこのようにして実験的に作り出された雰囲気を社会風土とよび,学級風土の存在を実証的に明らかにした。その後現在に至るまでに,学級風土を定量的に測定する質問紙が数多く開発されてきた。

【教師のリーダーシップ】 効果的な学級経営がなされるには,教師のリーダーシップが重要な役割を果たす。これまで学級における児童・生徒の人間関係を良好なものに保ち,彼らの学習意欲を高めるためには,どのようなリーダーシップが効果的であるかについて検討されてきた。それらの研究成果によれば,一般に教師による学級規範の形成や学級づくりに関するリーダーシップと,児童・生徒の人間関係に配慮したリーダーシップの双方を発揮する教師が最も効果的であることが知られている。それらの中でもたとえば,三隅二不二(1966)によるリーダーシップPM理論PM theory of leadershipを教師のリーダーシップに適用した研究が知られている。リーダーシップPM理論とは,リーダーシップを集団における目標達成機能に関するP(performance)行動と集団を維持しまとめる機能に関するM(maintenance)行動に分類し,さらに両行動を基準にしながら,リーダーを①両方の行動を兼備したPM型リーダー,②目標達成機能に関するP行動が強いP型リーダー,③集団維持機能に関するM行動が強いM型リーダー,④両方の行動がともに低いpm型リーダーの四つのタイプに分類する考えである。これまでの研究成果によれば,児童・生徒からPM型リーダーシップを発揮しているととらえられている教師のもとで学級集団のモラールや児童・生徒の学習意欲が最も高く,pm型教師のもとで最も低いことがわかっている。近年は,教師のリーダーシップ発揮の背景となる影響力に関する研究や児童・生徒に対する個別的なリーダーシップと学級集団全体に対するリーダーシップの比較・検討など,多様な観点から研究が行なわれている。

【学級の発達】 集団の発達という観点から,学級をとらえることもできる。学級経営の初期は,教師主導により,学級におけるルールや規範を中心とした構造づくりと,児童・生徒同士,教師と児童・生徒の人間関係づくりの二つに,多くの時間が費やされる。具体的には,教師は学級における教育目標を掲げ,児童・生徒一人ひとりに役割を付与したり,彼らの仲間関係づくりを促進する。それと同時に,授業設計の基礎的な構造づくりも進められる。このようにして,学級が学習集団と生活集団としての機能を十分に果たすように,教師による意図的な学級づくりが行なわれる。しかし,時間経過とともに,学級には地位と役割に基づいたフォーマルな人間関係だけでなく,好意や親近感などを基にした児童・生徒による自発的な選択によるインフォーマルな人間関係が形成される。このような関係の深まりとともに,児童・生徒は協同や葛藤関係を経験しながらも,学級集団に対する愛着意識をもち始める。やがて一定期間が経過すると,教師主導から児童・生徒自身による積極的な学級活動が展開されるようになり,教師の役割は彼らをサポートする方向へと徐々に移行する。もっとも,すべてを児童・生徒任せにするという意味ではなく,子どもの相談に対応できるように,教師は後ろに控えている必要がある。学級経営における最終的な教育目標は,学級経験を通じて子ども一人ひとりが成長していくことにある。

【学級崩壊】 近年学級がこれまで集団として果たしてきた本来の機能が失われつつあることが報告されている。いわゆる学級崩壊である。一般に学級崩壊とは,教師の指導が子どもに通じないことにより,学級の日常機能(生活機能や学習機能)が不全に陥る事象である(松浦善満,1999)。学級崩壊の具体的な現象としては,①授業中に奇声を上げる,②授業中の立ち歩き,③勝手に飛び出す,④ほかの子どもの邪魔をする,⑤暴力を振るう,⑥係の仕事をしない,⑦私語・反抗,などが取り上げられている。1999年の文部省による学級崩壊に関する報告結果によれば,最も多いのは「教師の学級経営が柔軟性を欠いている事例」であるとしており,学級経営における教師のリーダーシップの重要性が示唆されている。その一方で,「校長のリーダーシップや校内の連携・協力が確立していない」,「学校と家庭などとの対話が不十分で信頼関係が築けず対応が遅れた」,「校内での研究や実践の成果が学校全体で生かされていない」などが指摘されており,学級崩壊に対する学校内外における開かれた連携関係の必要性が指摘されている。 →生徒指導
〔淵上 克義〕

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