パラダイム(読み)ぱらだいむ(英語表記)paradigm

翻訳|paradigm

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「パラダイム」の意味・わかりやすい解説

パラダイム
paradigm

特定の学問分野を担う科学者の集団において,歴史上の一定期間その成員に共有される研究の範例。元来は,語形変化表の意の文法用語,あるいは範例,模範などの意の普通名詞であったが,アメリカ合衆国の科学史家トマス・S.クーンが『科学革命構造』The Structure of Scientific Revolutions(1962)のなかでこの語を用いてのち,学術的概念として普及した。クーンのパラダイム論によれば,自然科学の歴史は連続的な進歩,拡大の歴史ではなく,いくつかの科学革命(パラダイムの転換)によって画される断続史である。パラダイムを共有する科学者集団が,一定期間パラダイムに基づいて科学を発展させ,その通常科学が行きづまると科学革命が起こり,新たなパラダイムが取って代わるという。古代ギリシアの天文学者クラウディオス・プトレマイオスの宇宙観(→天動説)に対して提唱された 15~16世紀のニコラウス・コペルニクス地動説や,近代イギリスのアイザック・ニュートンが打ち立てたニュートン力学再考を迫った 20世紀前半の量子力学一般相対性理論の確立などが科学革命の典型例である。学問の基本的路線問題にする概念として,自然科学だけでなく社会科学,人文科学にも多大な影響を及ぼした。日本では中山茂翻訳により紹介され一般にも広まった。(→科学史科学哲学

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「パラダイム」の意味・わかりやすい解説

パラダイム
ぱらだいむ
paradigm

アメリカの科学史家クーンが著書『科学革命の構造』The Structure of Scientific Revolutions(1962)で特殊な用い方をした単語およびその概念。ことばとしては、辞書によれば範例とか模範という訳があり、また文法の語形変化の例として用いられるが、クーン以来、学界・思想界で彼の用い方が広く使われて今日に至っており、日本では訳語をあてず、パラダイムのまま通用している。

 クーンによれば「パラダイム」とは「広く人人に受け入れられている業績で、一定の期間、科学者に、自然に対する問い方と答え方のモデルを与えるもの」とされる。例としてはプトレマイオスの『アルマゲスト』、コペルニクスの『天球の回転について』、ニュートンの『プリンキピア』などがあげられる。あるパラダイムをモデルとして普通の科学者が行っている仕事が通常科学normal scienceであり、通常科学の発展が行き詰まると変則性が現れて危機が生じ、科学者は他のパラダイムに乗り換えて科学革命が起こる。ニュートン力学からアインシュタイン相対論へのパラダイム変換はそのような科学革命の例である。科学研究の成果は累積的に一定方向に進歩するという伝統的な科学観を崩し、科学の進歩は、あるパラダイムに基づいて一定期間行われる活動によって、科学革命がおこり路線が変わるものであることを示した。そこから一般にパラダイムは思考枠組みというように拡大して用いられ、既成慣行のものにとってかわる新しいオルターナティブalternativeを求める際によく使われる。

[中山 茂]

『クーン著、中山茂訳『科学革命の構造』(1971・みすず書房)』『中山茂編『パラダイム再考』(1984・ミネルヴァ書房)』

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