文部科学省は、病気や経済的理由を除き、1年間で30日以上欠席することを不登校と定義している。2016年成立の教育機会確保法は、全ての児童生徒が安心して教育が受けられるようにし、不登校の児童生徒も一人一人に合った支援が必要と定める。文科省はカリキュラムが柔軟な「学びの多様化学校(不登校特例校)」などの整備を進めている。
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児童生徒の心身の状態や彼らをとりまく家庭、学校、地域社会の状況など、さまざまな原因によって児童生徒が登校しない、あるいは、登校したくてもできない事態をさす。
このような事態には、当初「学校恐怖症」school-phobiaや「登校拒否」refuse to go to schoolということばが使われていた。
これらは児童生徒の問題行動のうちでも、その性格上、非行や暴力など他者へ害を及ぼすような反社会的行動と区別され、引きこもりや緘黙(かんもく)などのように、本人自身の現在あるいは将来にとって支障になると思われるような非社会的行動の一つととらえられ、登校する意思を秘めながら登校時になると原因不明の頭痛や腹痛、強い心配や不安などの神経症状に襲われて登校を拒む状態が生じるようになる場合が多い。
日本では、1960年代に多く出現し、単なる怠学やずる休みとは異なる状態であるという認識がなされ始め、1970年ごろからは「登校拒否」とよばれるようになった。しかし、今日では登校しないという事態は、かならずしも本人の心身の状態にのみ起因するのでなく、その背後に家庭、学校、地域社会を含むさまざまな要因が考えられ、また、登校しないという事実そのものへの認識が強調され、「登校拒否」にかわって「不登校」という呼称が多く用いられるようになった。
不登校は、客観的に妥当な理由が明確にみいだされないまま、年間30日以上欠席した児童生徒のうち、病気や経済的理由を除き、「何らかの心理的、情緒的、身体的、あるいは社会的要因・背景により、児童生徒が登校しないあるいはしたくともできない状況にあること」(学校不適応対策調査研究協力者会議による定義)であるとされ、発達過程での一次的な現象から精神障害の症状まで含めてとらえられており、より幅広い概念として理解されている。
文部省(現、文部科学省)でも、学校嫌いを理由に年間30日以上欠席した児童生徒を「登校拒否」とよんでいたが、1999年度(平成11)からこれを「不登校」と改称している。
[増田 實]
「不登校」の正確な数をみいだすことは困難であるが、2011年度(平成23)、心理的要因などで登校しない、またはできない長期欠席者は、小学校で2万2622人、中学校で9万4836人とされている(文部科学省調査)。
その原因は一様ではないが、学校の方針や指導などに対する本人の納得の度合いが少ない、という点では共通する部分が多い。また、家庭が子供たちの成長の土台として不十分であることもおもな要因の一つにあげられる。しかし、どの子供にも、どの家庭にも、不登校を生じさせる可能性は存在すると考えられる。
「不登校」の様態には、(1)学校生活に起因する型、(2)遊び・非行型、(3)無気力型、(4)不安などの情緒的混乱型、(5)意図的な拒否型、(6)複合型((1)~(5)が複合していて特定不能)、(7)その他(以上のいずれにも該当しない)があるといわれている。小学校における「不登校」では(4)の型、すなわち、登校の意思はあるが心身の不安・不調が強いなどの場合が多く、また、中学校では(3)の型、すなわち、学習への意欲に欠けている、何となく気力が出ない、などに起因する場合が多い。
[増田 實]
同じ「不登校」であっても、その状態は個人によってさまざまであるので、それに応じたきめ細やかな援助・支援の方策を講じる必要がある。
予防的側面として、(1)どの子供にも起こり得るという認識をもつこと、(2)不登校の前兆行動などの知識を得ておくこと、(3)子供との日常的な接触を密にすること、などが考えられる。また、治療的側面として、(1)カウンセリング的態度をもとに、その事態にふさわしい技法や援助法を選択すること、(2)家庭と学校の連携・協力態勢(ネットワーク)を確立し、対応中心者を明確に定めておくこと、(3)専門的諸機関(相談所、病院など)との連携を図ること、などがあげられる。
「不登校」対策には、とくに専門的な第三者のかかわりが効果的である、と考えられる。この点で「スクールカウンセラー」(1995年度より文部省の活用調査研究委託事業として開始、2001年度からは恒常的制度に移行)は、不登校児童生徒への援助者・支援者となることが期待されている。また、単に学校に復帰することを考えるのではなく、不登校児童生徒が自らの力で問題状況を克服して自立に向かう、という視点も重視されるよう求められる。そのため、地域社会や学校外の諸施設との連携をよりいっそう深め、フリー・スクールなどの民間施設がこの対策の一つになる、と考えられている。文部科学省は、一定の要件を満たす場合、これらの民間施設で相談・指導などを受けた日数を指導要録上の出席扱いにし、小・中学校の卒業認定に幅をもたせる方策を講じている。
「不登校」経験者のその後に関して、文部科学省ではその追跡調査を行っており、2013年(平成25)7月の報告によると、2006年度に中学校3年で不登校だった全国の1604人(2013年時点では22歳前後)に対して中学校卒業後の進路などをたずねているが、その直後に進学した者は81%、就職した者が6%、進学も就職もしなかった者が8%であり、その後に進学した者を含めた高等学校への進学率は87%であった。このうち61%が望みどおりの高校があった、と答えている。2011年度時点での彼らの通学状況は、大学19%、短期大学4%、専修学校・各種学校15%、通信制高等学校6%となっている。1993年度(平成5)に中学校を卒業した不登校生徒を対象とした調査よりも進学率は上昇しており、とくに高等学校への進学率は65%から20%以上も増加している(文部科学省「平成五年度不登校生徒追跡調査報告書」)。
これらをみると、不登校は、発達上の一時的現象であり、その時点での判断を超えて時間的に長いスパンでとらえる見方が求められる、といえよう。
[増田 實]
『詫摩武俊・稲村博編『登校拒否』(1980・有斐閣)』▽『内山喜久雄編『登校拒否』(1983・金剛出版)』▽『坂野雄二編『登校拒否・不登校』(1990・同朋舎出版)』▽『高垣忠一郎著『登校拒否・不登校をめぐって――発達の危機、その「治療」と「教育」』(1991・青木書店)』▽『吉田脩二・生徒の心を考える教師の会編著『不登校――その心理と学校の病理』(1993・高文研)』▽『稲村博著『不登校の研究』(1994・新曜社)』▽『高垣忠一郎・藤本文朗・横湯園子編『登校拒否・不登校1 小学生』』▽『高垣忠一郎・藤本文朗・横湯園子編『登校拒否・不登校2 中学生』』▽『高垣忠一郎・藤本文朗・横湯園子編『登校拒否・不登校3 高校生』(ともに1995・労働旬報社)』▽『畑島喜久生著『「いじめ」「不登校」という教育のひずみ』(1997・高文堂出版社)』▽『佐伯胖・黒崎勲他編『岩波講座 現代の教育4 いじめと不登校』(1998・岩波書店)』▽『河合隼雄編『不登校』(1999・金剛出版)』▽『総務庁行政監察局編『いじめ・不登校問題などの現状と課題』(1999・大蔵省印刷局)』▽『牟田武生著『ひきこもり/不登校の処方箋――心のカギを開くヒント』(2001・オクムラ書店)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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