一般的には組織・団体を運営するに際し,複数の指導者の合議によって意思を決定することを指す。より特殊には宗教運動やとくに共産主義,社会主義の運動・体制において,単独の支配者・指導者による排他的な独裁=個人崇拝を否定するという含意を有する。有能なカリスマ的な指導者が不在となった場合に,複数のサブリーダーが組織の集団指導を継承するような例は,宗教や思想運動上みられるが,この指導原理は共産党による支配体制,とくにソ連の歴史過程で確立された。レーニン死後のスターリン,ジノビエフ,カーメネフらによるトロイカ体制もその一例であるが,とくにスターリンの個人崇拝を経験したのち,個人による恣意的支配を防止し,統治の制度的安定をはかる目的で集団指導を強調した。マレンコフ,フルシチョフらによる集団指導体制や,フルシチョフ失脚後行われたブレジネフ,コスイギンらによる党と政府の分掌はその例である。しかしソ連をはじめとする社会主義国では,1970年代のブレジネフ期のように安定した官僚支配が表面上,個人崇拝の形態をとる例もみられた。
執筆者:下斗米 伸夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
共産主義政党において指導の集団的あり方を示した政治用語。個人崇拝と対置して、集団指導と個人責任制の結合、などとして用いられた。一般に共産主義政党は、民主集中制とよばれる組織原則をとり、その中央集権制の強調は、「上級の決定の下級における無条件的実行」「鉄の規律」「一枚岩的団結」などとして指導部への権力集中を招きやすく、スターリン時代に典型的にみられるように、最高指導者の絶対的権限掌握、個人崇拝に結び付く傾向を内在していた。集団指導は、このような組織原則のもとで、一個人ないしグループへの指導の集中を抑制し、指導部全体の集団的英知と経験の結集、批判と自己批判の積み重ねにより政治的誤りを最小限にとどめようとしたものである。レーニンがこれを強調したとされるが、スターリン時代に有名無実のものとなり、スターリン批判後ふたたびフルシチョフ政権下の合議制として復権した。
[加藤哲郎]
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