学習意欲(読み)がくしゅういよく(英語表記)motivation for learning

最新 心理学事典の解説

がくしゅういよく
学習意欲
motivation for learning

学習意欲とは学習への動機づけと同義と考えてよい。ただし,意欲ということばには自分の行動について幾分なりとも自己決定する意味があり,すべて人から強制され生じる動機づけは該当しない。

【学習意欲と動機づけ理論】 学習意欲の考え方には西洋の動機づけ理論が援用されている。わが国では戦後しばらくは教育心理学の教科書にも学習意欲といえば賞罰が中心に論じられてきた。いわゆるアメとムチによる教育で,これらは外部からの働きかけで学習者の意欲を高めようとするもので外発的動機づけextrinsic motivationとよばれる。この動機づけの考えは基本的に人間が本来怠惰なもの,受動的なものであることを前提に考えられていた。しかし,ハーローHarlow,H.F.は特別な報酬を与えなくてもパズル解きを何度もしようとするサルの様子から,活動すること自体に目的の動機づけがあることを示唆し,この現象を内発的動機づけintrinsic motivationと名づけた。わが国では1970年代に波多野誼余夫・稲垣佳世子が著わした『知的好奇心』がベストセラーになり,学校現場では内発的動機づけこそが学習意欲の中心的なものという考えが浸透していった。内発的動機づけは行動主体,具体的には児童・生徒の内部から生じる動機づけということになるが,厳密には行動主体のもつ認知構造と外界との相互作用により生じるものである。バーラインBerlyne,D.E.が言うように新しい情報が既存の認知構造にうまく取り込めず,概念的葛藤conceptual conflictが生じ注意が喚起されることを考えれば,内発的動機づけは情報処理とその活動に内在する動機づけであるといえる。教室場面で内発的動機づけを高めるということは具体的には教材の提示の仕方や発問の仕方などを工夫して児童・生徒の認知構造を揺さぶることを意味している。

 ところで,当初,外発的動機づけは内発的動機づけを高めるとする考え方もあったが,レッパーLepper,M.R.らはお絵描きの好きな園児に,上手に描けたらご褒美として賞状をあげると予告して,実際にそれを報酬として与えた場合,その後,報酬を約束しない条件下では以前にもっていた自ら絵を描こうとする内発的動機づけが低下することを示した。また,デシDeci,E.はパズル解きの好きな大学生を対象にして,うまくできたら報酬として金銭を与えるとして,先のレッパーらと同じような実験手続きで同じような実験結果を得た。これがアンダーマイニング効果undermining effectである。この効果がなぜ生じるかに関してはさまざまな説があるがデシは認知的評価理論とよばれるもので説明しようとしている。その説に従えばこの効果が生起するのは外的報酬によって,自分はやること自体がおもしろいからでなく,報酬を得るためにやったのだという因果律の所在に変化が生じ,人間本来の有能感や自己決定感が低下するためと考えられる。この説では外的報酬は統制的側面と情報的側面の両面をもち,先の金銭の報酬のような場合は統制的側面が強く働くために上記のような結果になると見る。他方,もし情報的側面が強く働く報酬であれば有能さと自己決定self-determination(自分の欲求の充足を自ら自由に選択すること)の感情にプラスに作用すると考えられる。すなわち,「あなたはクラスで一番だ」というような言語的な報酬であれば,情報的側面が強いために内発的動機づけが高まると推測される。このように言語的報酬により内発的動機づけが高まることを,先のアンダーマイニング効果に対して,エンハンシング効果enhancing effectという。報酬が内発的動機づけを高める場合としてはほかに,本来興味の低い課題に対して達成後報酬を受けるような場合も該当する。カルダーCalder,B.J.とストウStaw,B.M.は金銭報酬が内発的動機づけに及ぼす効果を検討し,金銭報酬は興味ある課題への内発的動機づけを低めるが,興味のない課題への内発的動機づけを高めるという結果を見いだした。さらに報酬の与え方として成果に関係なく一律に与える場合と,成果に応じて与える場合があるが,前者の場合は内発的動機づけを抑制し,後者の場合は内発的動機づけを促進するという見解もある。

【自己決定理論self-determination theory】 これまで内発的動機づけと外発的動機づけを正反対の概念として対比的に述べてきたが,最近では,両者は必ずしも対置されるものでなく,連続帯状にあるものとして位置づけられている。ライアンRyan,R.M.らは外発的動機づけが自己決定の程度により分類できるとする自己決定理論を提唱した。彼らは,まずまったく自己決定ができない段階として外的調整の段階を挙げる。これは外的な力によって当事者の行動が動機づけられるもので学習意欲とはいえない。次には外的圧力でなく,「不安だから」とか「恥をかきたくないから」といった消極的な理由ではあるが自ら行動する場合で,取り入れ的調整の段階である。次には自分の価値として同一化するもので「自分にとって重要だから学習する」という取り入れ的調整の段階よりも自律的な理由で行動するもので,同一化的調整の段階といえる。さらには統合的調整の段階で,選択された行動が選択されなかった行動となんら矛盾することなく個人の日常活動や価値づけられた目標と調和する場合である。このように同じ外発的動機づけとよばれるものにも自己決定のレベルがさまざまなものが含まれているのである。ただし,これらの動機づけはあくまでやること自体が目的的な内発的動機づけではなく手段的なものであるということは共通している。しかし,自己決定のレベルからいえば統合的動機づけも内発的動機づけもそれほど差異はないといえる。その意味では二つの動機づけは自己決定の度合いでは連続帯状にあるともみなせる。

【学習意欲を規定する要因】 学習意欲を規定する過去のとらえ方の要因として原因帰属causal attributionの違いがある。これは学習結果の原因を努力や能力の内的要因,課題の困難度や運などの外的要因に帰属することの違いが期待の変化や感情に反映され,学習意欲を規定するとするものである。たとえば,失敗を能力に帰属すれば動機づけは低下するが,努力に帰属すれば学習意欲は向上する可能性が高い。現在のとらえ方の要因としては自己効力感が挙げられる。これは直面している課題に対して自分ができるという確信の程度のことで過去の自分の実績や周りのモデル,他者からの言語的説得などによって形成されたものである。さらに未来のとらえ方の要因としては,自分の時間的展望をどのようにポジティブに具体的に考えているかということ,また,教師がこの子は伸びるという期待を抱くことが子どもの学習意欲に反映される教師期待効果teacher expectancy effectもある。 →自己調整学習 →達成動機 →動機づけ
〔速水 敏彦〕

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