朝日日本歴史人物事典 「安倍季尚」の解説
安倍季尚
生年:元和8.6.7(1622.7.15)
江戸時代前期の雅楽奏者で,『楽家録』の著者。宮廷勤仕の地下楽家のひとつである安倍家の祖,季政(1099~1164)より数えて17代目に当たる。家業は篳篥。ほかに琵琶を西園寺実満より習う。父の季為は,横笛,笙もたしなみ,母は箏,妹は琵琶という音楽一家であった。元禄3(1690)年に『楽家録』50巻を完成。これは御神楽や社寺の儀式の次第,舞楽作法,演奏記録,楽器奏法,楽理,面装束,楽人の系譜など雅楽の広範におよぶ総合的楽書で,江戸前期の雅楽界の大要を把握することができる。たとえば地下楽人担当外の楽箏の調弦や奏法の記述は,院政期の楽箏との比較研究や,当時勃興した俗箏との対照研究には欠かせない。季尚をとりまく家族環境や社会環境あって成立可能な大著であった。なお引用書に,鎌倉時代の著名な楽書『教訓抄』(1233)を挙げていないのは不思議である。正保5(1648)年正六位下に,長じて元禄12(1699)年正四位上に叙され,翌年伊勢守に任ぜられた。<参考文献>正宗敦夫編・校訂『地下家伝―楽人伝―』
(蒲生美津子)
出典 朝日日本歴史人物事典:(株)朝日新聞出版朝日日本歴史人物事典について 情報