日本大百科全書(ニッポニカ) 「安銀鉱」の意味・わかりやすい解説
安銀鉱
あんぎんこう
dyscrasite
銀(Ag)のアンチモン(Sb)化物。アラージェンタムallargentum(化学式Ag0.84Sb0.16)‐安銀鉱群に属する。これらはいずれも六方自然銀とほぼ同構造で、その原子配列は自然銀では銀原子は立方最密充填(じゅうてん)構造、六方自然銀では六方最密充填構造をなす。この群の構成物、とくにアラージェンタムは六方自然銀と同構造なので、これを合金鉱物とみなし、金属元素鉱物に入れる見解もある。安銀鉱自体はAg0.75Sb0.25に相当するが、斜方(直方)晶系でアラージェンタムとの間に不連続部分が存在するため、元素鉱物扱いはされていない。自形は低い六方錐台(すいだい)。六方柱や六角板状となることもある。
深~浅熱水性金・銀鉱脈中に産する。日本では、北海道札幌(さっぽろ)市小別沢(こべつざわ)鉱山(閉山)および同市豊羽(とよは)鉱山(閉山)などから顕微鏡的に微細なものが発見されている。共存鉱物は自然銀、針銀鉱、輝銀銅鉱、方鉛鉱、方解石、石英、重晶石など。同定は新鮮な面では自然銀もどきの銀白色の外観とほとんど同色の条痕(じょうこん)。著しく大きい比重。可切性はあるが粉末にはならない。自然銀同様錆(さ)びて鉛灰色から帯黄暗灰色を経て暗灰色に変わるが、自然銀のようなもろさは生じない。英名は「破壊しがたい」を意味するギリシア語に由来し、和名はその化学成分による。
[加藤 昭 2015年12月14日]