定常宇宙論(読み)テイジョウウチュウロン

デジタル大辞泉 「定常宇宙論」の意味・読み・例文・類語

ていじょう‐うちゅうろん〔テイジヤウウチウロン〕【定常宇宙論】

宇宙の基本的な構造は時間的に変化しないという説。1948年にヘルマン=ボンディ、トーマス=ゴールド、フレッド=ホイルにより提唱エドウィン=ハッブル銀河後退速度観測から導いた膨張宇宙説を説明するため、宇宙の密度が一定に保たれるよう、常に新たな物質生成が起こると主張した。現在は宇宙背景放射などの観測事実から、宇宙には始まりがあり、爆発的な膨張とともに誕生したというビッグバン宇宙論主流となっている。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「定常宇宙論」の意味・わかりやすい解説

定常宇宙論
ていじょううちゅうろん

宇宙は膨張しているが、宇宙が膨張して薄まった密度を補うように物質が供給され、宇宙全体としては永遠不変である(時間的に宇宙の構造が変わらない)とする理論。1948年にオーストリアのボンディHermann Bondi(1919―2005)、オーストリア出身でアメリカで活躍したゴールドThomas Gold(1920―2004)、イギリスのホイルの三人により提唱された。宇宙全体を理論的に考察できるアインシュタインの一般相対性理論から宇宙全体が膨張または収縮する場合があることがわかった。そこでアインシュタインは宇宙全体の膨張または収縮をとどめる(バランスさせる)ために「宇宙項」を導入して宇宙全体は永遠不変であるように提案した。当時は宇宙が変化することなど考えられなかったのである。しかしハッブルによる膨張宇宙の発見(1929)以後、宇宙全体の膨張を前提ガモフらが宇宙の膨張を時間的にさかのぼれば小さな火の玉になるはずで、宇宙の最初は火の玉(ビッグ・バン)から始まったとする「ビッグ・バン」宇宙論を提案した。ほぼ同じころ、上記のホイルらは「宇宙は変化しない」という考えから、宇宙が膨張して薄まった密度を補うように1年間に1キロメートル立方当り水素原子1個分の物質が供給されれば、広がった空間でそれらの水素が集まり銀河をつくり、結果として宇宙全体は変化しないと主張した。これは質量保存の法則と矛盾する理論であるが、宇宙の始まりや終わりを考える必要がないという利点がある。しかし宇宙の最初が火の玉であり、現在は冷えて5K程度の黒体放射になっているというビッグ・バン宇宙論で予想された宇宙背景放射がCOBE(コービー)(宇宙背景探査機)により確認されたことでビッグ・バン宇宙論が主流になり、現在では定常宇宙論を支持する学者は減っている。なおビッグ・バン宇宙論の名付け親は定常宇宙論のホイルで、ラジオ番組で当時「火の玉」宇宙論として提案されていたガモフの理論に反論する際に「火の玉」を揶揄(やゆ)して「ボカン(ビッグ・バン)」とよんだことが後に定着したことは有名である。

[編集部 2023年2月16日]

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世界大百科事典(旧版)内の定常宇宙論の言及

【宇宙】より

…それらを考慮すると,われわれの宇宙が閉じているか開いているか,あるいは膨張の遠い未来についての結論は今後の観測や研究をまたねばならないが,宇宙の密度が臨界値にかなり近い値をもっていることはわれわれの宇宙の一つの特徴といってよい。
[定常宇宙論]
 標準的な相対論的宇宙論以外の宇宙論の例として,定常宇宙論がある。1940年代後半にはハッブル定数の値は現在の10倍程度大きく,膨張宇宙の年齢(1/H程度)は当時考えられた地球の年齢より短くなった。…

※「定常宇宙論」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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