実悪(読み)じつあく

精選版 日本国語大辞典 「実悪」の意味・読み・例文・類語

じつ‐あく【実悪】

〘名〙 歌舞伎役柄一つ敵役うち、残忍で意志強く、後悔や変心することなく、終始一貫悪の気持に徹底する役柄。また、それを演じる役者をいう。「伽羅先代萩」の仁木弾正、「絵本太功記」の武智光秀などの類。
評判記・野郎にぎりこぶし(1696)三「今少身のとりまはしにりかうあらば、じつ悪のつめひらき和合してにくらしき風俗

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デジタル大辞泉 「実悪」の意味・読み・例文・類語

じつ‐あく【実悪】

歌舞伎の役柄の一。謀反人・大盗賊など、終始一貫して悪に徹する敵役かたきやく。「伽羅先代萩めいぼくせんだいはぎ」の仁木弾正にっきだんじょうなど。立敵たてがたき

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改訂新版 世界大百科事典 「実悪」の意味・わかりやすい解説

実悪 (じつあく)

歌舞伎の役柄の一つ。敵役の中で〈公家悪〉が皇位をねらう空想的なスケールをもっているのに対して,現実的な悪人の役。敵役の中でも最も重い役で,容貌魁偉,傲岸不遜,冷血かつ残酷で,悪の華ともいうべき美学をもつ役である。《先代萩》の仁木弾正(につきだんじよう),《躄仇討(いざりのあだうち)》の滝口上野(こうずけ),《馬盥(ばだらい)の光秀》の武智光秀は,その代表的な例。口伝に〈いつも何か思案している風に演じよ〉という。いかにも腹黒く見えるからである。実悪のうち,お家物に登場する悪人は〈国崩し〉と称する。
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世界大百科事典(旧版)内の実悪の言及

【敵役】より

…時代が下り役の種類が複雑化するにつれて,いろいろな名称が生まれた。そのおもなものをあげると,〈実悪(じつあく)〉また〈立敵(たてがたき)〉は悪人中の悪人の役で,顔は白塗り,燕手(えんで)という凄みのあるかつらを用い,堂々たる貫禄を見せるものが多い。代表的な役は《伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)》の仁木弾正,《仮名手本忠臣蔵》の師直,《時桔梗出世請状》の光秀など。…

【傾城仏の原】より

…勘当された文蔵が紙衣(かみこ)姿で遊里に現れ,愛人に会う二幕目は,近松の浄瑠璃の一系統〈夕霧伊左衛門物〉以来の局面で,文蔵の役はやつしを得意とした藤十郎の代表的な当り芸といえる。悪に加担した藤川武左衛門の役は〈実悪〉の役柄の最初といわれる。近松歌舞伎の規範的作品。…

【原田甲斐】より

…原田甲斐は伊達兵部と共謀し,主君を淫蕩に陥れ隠居させ,若君を毒殺して家を押領しようと謀る悪人として描出された。浄瑠璃・歌舞伎劇では〈東山〉(室町時代)に置き換え〈伊達騒動物〉の系統を形成,甲斐は貝田勘解由,また仁木弾正左衛門直則などの名に仮託され,奸臣役の典型(実悪(じつあく))として演じられた。《伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)》の〈床下(ゆかした)・評定所対決・刃傷〉における演技は5世松本幸四郎が好演し,後世に大きく影響を与えた。…

※「実悪」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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