家族世襲財産(読み)かぞくせしゅうざいさん(英語表記)Familienfideikommisse[ドイツ]

改訂新版 世界大百科事典 「家族世襲財産」の意味・わかりやすい解説

家族世襲財産 (かぞくせしゅうざいさん)
Familienfideikommisse[ドイツ]

法律行為によって永久に処分を制限され,通常,一定の相続順位によって一定の者が相続すべきことを定められた財産をいう。その起源スペインにあり,16世紀にイタリアおよびオーストリアにはいり,三十年戦争(1618-48)後ドイツに行われるにいたり,スカンジナビアおよびバルカン方面にも広まった。ドイツでは古くから共同相続が行われ,相続財産は相続人の間に分割される危険を蔵していたから,貴族たちはその政治的・社会的勢力の基礎である土地その他の財産の維持に苦心し,高級貴族は14世紀以来家憲によってその財産の処分を禁止し,これを単独相続とすることによって,財産維持の目的を達した。家憲制定権をもたなかった下級貴族は,不完全な方法によって家産を維持しうるにとどまったが,家族世襲財産制度がドイツにはいってからは,家族世襲財産の設定によって完全にその目的を達することができるようになり,高級貴族もまた,この制度を利用するようになった。オーストリアでは三十年戦争中,皇帝カトリックに改宗しない地主の土地を没収してカトリックの有力者に与え,これを家族世襲財産とすることを歓迎した。家族世襲財産の設定にあたっては,家族世襲財産設定証書に世襲財産の相続人がカトリック教会から去れば世襲財産の相続権を失う旨の条項が記載されるのが通常であり,三十年戦争後もそうであった。フランスでは封建法によって,財産の長子相続制と非譲渡性が確立していたから,家族世襲財産を認める必要はそれほどなかったが,封(ここでは封建時代領主への忠誠義務に対し,領主より貸与された財産を意味する)でない財産については数代にわたる家族世襲財産が認められた。イギリスにもインテール(限嗣封土権)というこれと似た制度がある。

 家族世襲財産を設定しうる者,設定の目的物および設定の方法は,国により,また時代によって異なっていたが,家族世襲財産は概して貴族に利用された制度であり,設定の目的物は概して土地および金銭であった。設定の方法は,財産の所有者が一定の財産を家族世襲財産とする旨の証書を作成し,皇帝の許可とか裁判官の認証を受けるのが普通であった。フランス革命の結果,フランスおよびその支配下の土地では家族世襲財産が廃止され(のち一時復活),さらに1848年の二月革命の影響によってドイツでも一時廃止の傾向が見られたが,その後家族世襲財産は増大の一途をたどった。しかし19世紀から20世紀にかけて,大陸諸国では家族世襲財産は廃止されてしまった。ドイツでは1918年の革命により家族世襲財産は廃止されることになり,ワイマール憲法も廃止の方針を定めた。具体的には各州の立法がその廃止の方法を規定したが,これによると,廃止は必ずしも即時になされるとは限らなかった。そこで,38年7月6日の法律により,39年1月1日をもって全ドイツの家族世襲財産は廃止されることと定められた。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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