馬喰,伯楽とも書く。古くは伯楽の字が用いられ,馬のよしあしを見る人,または馬の病を治療するものを指したが,中近世では牛馬の売買あるいはその仲介を業とするものを意味するようになった。史料的には《北条九代記》の中に,1280年(弘安3)11月の鎌倉の火災について〈柳厨子より博労坐に至る〉と記されているのが初見で,当時から座を形成していたことが知られる。京都では《庭訓往来》に〈室町伯楽〉とあるように五条室町の馬市が有名であり,この馬市で活躍する伯楽は,室町座を形成し,石清水八幡宮駒形神人の支配を受けていた。また近江保内にも伯楽座があり,戦国時代になると各地に馬市が開かれ博労が活躍した。織田信長が1577年(天正5)に安土山下町中に出した楽市令の中に〈博労の儀,国中馬売買,ことごとく当所において仕るべき事〉とあるのは有名である。
執筆者:黒川 直則 博労は馬喰の文字をあてるように,もと馬の売買で生活したが,役畜として牛が普及するとこれをも扱うことになった。〈ばくろう〉の名は中国漢代の馬相をみる名人伯楽の名によるとも,馬を守る星の名称にもとづくとも説かれている。長野県,鹿児島県など古くからの馬産地では,馬商人のことを〈ばくろう〉または〈ばくりゅう〉といい,馬の血とり,ひづめの手入れなど牛馬の病の治療や養生法を行う伝統的馬医は〈はくらく〉と呼んで区別した。後者は馬薬師(うまくすし)の系統に属し,馬相鑑定や呪術的治療に従い,尊敬もされた。前者は漂泊的に移動しつつ各地の牛馬市に出入りし,家畜相場に応じて取引しつつ諸国をあるくので,ふつうの定着農民の目からは,警戒すべき人物ともみられた。とくに農民が家族同様の愛情をもっている牛馬を事もなげに商品として取り扱い連れ去る博労は,冷酷な者としてうつったであろう。そのうえ彼らは農民よりもはるかに口がうまく,袖の中で互いに親指を握りあって値段の契約をするならわしがある。よそ目には油断ならぬ心をもつともみえたであろう。そうしたことから岡山県北部などでは,博労は牛をこきつかうので次の世では牛に生まれ変わるのだと言われ,好ましからぬ職業とされた。しかし,一方では彼らは昔話,世間話や新しい情報の運搬者でもあった。世間師(せけんし)の性格もあったので,婚姻の仲人にたのまれたり,すぐれた技量や能力によって村人の尊敬をかち得て,死後に伯楽大明神の名で碑を建ててまつられた者もあった。しかし,中国山地の事例からみれば,実際の活動領域は意外に限られ,その勢力範囲外では勝手に営業することは認められなかったらしい。伯楽はかなり尊敬された職業であって,年間数回各地を巡回し鍼(はり)を打ったり焼金をあてたりしたが,その鍼でとった血や焼ごては種々のまじないに効ありと信じられた。備中の博労衆は牛を追うとき牛追唄をうたって道中したといい,そのいくつかが記憶されているが,文句は即興的で,内容は商品としての牛をほめ縁起を祝う趣旨のものであった。博労独自の職業神や組織は知られていないが,商用の職業語彙(隠語,符丁)があった。
執筆者:千葉 徳爾
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…偶蹄目ウシ科の哺乳類。世界各地で乳用,肉用,役用などに飼われる家畜牛(イエウシ)で,ヨーロッパ系とアジア系(コブウシ系)がある。ウシはまた,バンテン,ガウア,ヤクなどの野生牛を含むウシ属Bosの総称,またはさらにバイソン,スイギュウを含むウシ亜科Bobinaeの総称ともされる。狭義のウシ(イエウシ)は肩高90cm,体重250kg以下の小型のものから肩高165cm,体重1450kgに及ぶ巨大なものまであり,形態は変化に富むが,すべて後述のウシ科ウシ亜科の特徴を備えている。…
…ウシ,ウマ,ブタ,ヒツジ,ヤギなどの家畜の売買や交換・斡旋の事業を営むものをいう。古くは〈ばくろう(馬喰,博労)〉とか〈はくらく(伯楽)〉とも呼ばれ,家畜の良否を見分ける眼を持ち,家畜の流通過程に介在してその取引に関与する。家畜商となるには,家畜商法により個人・法人を問わず都道府県知事の免許を受けなければならない。…
※「博労」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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