小令(読み)しょうれい

日本大百科全書(ニッポニカ) 「小令」の意味・わかりやすい解説

小令
しょうれい

中国の韻文の一種で、短章の「うた」の意。詞(し)および散曲の双方に用いられる。詞の場合、細かい字数の制限を設けて、小令、中調、長調と分ける例がないでもないが、普通は50~60字以内の篇幅(へんふく)をもつものをいい、篇幅の長い慢詞(まんし)と区別するが、その間に厳格な字数の制限はない。唐代に詞がつくられ始めてから北宋(ほくそう)中期に至るまではほとんどの作品が小令であったが、以後は慢詞の勢いがしだいに増す。初期の作には絶句の変形のような単調の作もあったが、大部分はその組合せのような前後2段からなる双調体で、その大部分が、たとえば「蝶恋花(ちょうれんか)」の七四五七七/七四五七七のように前後段で対応しあっている。頻用された牌(はい)(楽曲名)には「浣渓沙(かんけいしゃ)」「菩薩蛮(ぼさつばん)」「臨江仙」などがある。

 散曲では套数(とうすう)に対する語として用いられ、1曲だけで独立して一つの主題を詠むものであるが、例外的には同一宮調の特定の2、3曲を組み合わせた北曲の「帯過曲」、たとえば春夏秋冬を、同一の牌を4曲組み合わせて詠むような北曲の「重頭」や南曲の「集曲」も小令とよぶことがある。頻用された牌には北曲では「水仙子」「折桂令(せっけいれい)」などがあり、南曲ではとくに顕著な牌はないが、おおむね単調体である。また、牌によっては小令、套数の双方に用いられるものと、どちらかに専用のものとがある。

[田森 襄]

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改訂新版 世界大百科事典 「小令」の意味・わかりやすい解説

小令 (しょうれい)
xiǎo lìng

中国の歌辞文芸すなわち宋代に流行したおよび元代に流行した散曲において,短編の小曲およびその歌辞をいう。令は酒令(宴席のゲーム)の意とする説が有力で,唐代において酒令として短編の歌辞を競作したのが〈小令〉の源らしい。宋代になって詞は韻文文学としても鑑賞されるようになるが,長編を慢詞,短編(60字くらいまで)を小令と呼んだ。のちに58字までが小令,59字から90字までが中調,91字以上を長調とする説があるが,厳密にくぎれるものではないし,また中調,長調なる語は宋代にはみえない。元代になると詞はすたれて散曲が流行する。当時は一方で雑劇という歌劇が流行していたが,戯曲仕立てでない歌曲が散曲であり,これに套数(とうすう)(散套)と小令の別があった。詞の慢詞に相当するものはなく,短編の独立した小曲を小令と呼び,数曲をセットにした組曲が套数である。宋・元を通じ,小令は重要な抒情詩の形式であった。
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世界大百科事典(旧版)内の小令の言及

【歌謡】より

…初期の〈詞〉の作品は,《楽府詩集》の中の〈近代曲辞〉に集められている。 やがて元になって,歌劇である〈曲〉が流行しはじめると,その〈曲〉のメロディに沿った歌辞の替歌の文芸である小令,中調,長調などが流行した。58字以内のものを小令,それ以上90字以内のものを中調,さらに長編をつらねた場合にはこれを長調といった。…

【詞】より

…ただ常用される詞牌はせいぜい100調くらいなものである。最も短いのは〈竹枝〉の14字,長いのは〈鶯啼序〉の240字,60字くらいまでの短編を小令といい,長編を慢詞という。宋の初めまではほとんどが小令で,慢詞の流行は比較的遅い。…

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