アメリカの下町っ子がイギリス貴族の跡取となる一種の世継ぎ出世物語。バーネット夫人Frances Hodgson Burnett(1849-1924)作(1886)。ニューヨークで靴磨きの少年や雑貨屋の主人を友だちとして育ったセドリック少年は,突然訪れた使者とともに,侯爵家を継ぐフォントルロイとなるべく海を渡ってドリンコート城に赴く。人の愛を解せず,息子の結婚相手も認めないアメリカ嫌いの頑固な侯爵も,純真で,幼いながら公平な視点をもつこの孫と接するうちに,人間らしい感情を取り戻していく。アメリカの民主主義とイギリスの貴族主義の対立と和解という興味あるテーマ,ドラマティックな筋立て,真の気高さは人間性にあるとする作者の主張が多くの読者を獲得し,ビロードの服にレースの襟は当時の良家の子どもの流行のスタイルも作った。出版後まもなく日本でも《女学雑誌》に若松賤子(しづこ)の翻訳が連載された(1890-92)。原作の味わいを生かした洗練された口語訳である。バーネット夫人はイギリス生れで16歳のときアメリカへ移住。ほかに《小公女》《秘密の花園》がある。
執筆者:滝田 佳子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
アメリカの作家バーネットが、次男ビビアンをモデルにして1885年に書いた子供のための物語。翌年刊行。主人公のセドリックは、アメリカ人と結婚したために勘当された父と早く死別し、ニューヨークの裏街で母と2人で暮らしていたが、頑固なイギリス貴族の祖父ドリンコート侯爵に跡継ぎとして引き取られる。しかし生来の天真爛漫(らんまん)さと優しさで母に対する祖父の誤解を解き、母を呼び寄せることができる。セドリックは思いやりある、かわいらしい理想的な子供として描かれている。アメリカでは出版されると同時にたいへんな評判となった。日本でも原作初版の4年後(1890)に、若松賤子(しずこ)が『女学雑誌』に翻訳の掲載を始め、その正確で巧みな翻訳により多数の読者を得、今日に至るまで、その人気のほどは変わっていない。
[掛川恭子]
『吉田甲子太郎訳『小公子』(岩波少年文庫)』
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…89年明治女学校の巌本善治と結婚して母校の教師をやめたが,病気がちの暇をぬすんで《女学雑誌》に創作や翻訳,またキリスト教精神による教育的随筆を数多く発表。翻案小説《忘れ形見》(1890),テニソンの物語詩の翻訳《イナック・アーデン物語》(1890),90年から92年には《小公子》(バーネット原作)の翻訳など,いずれも子供の姿態を清新な口語体でとらえ,彼女の仕事の頂点を示している。94年から《日本の伝道新報》婦人欄を担当し,英文での日本紹介に努めた。…
※「小公子」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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