小敦盛(読み)こあつもり

改訂新版 世界大百科事典 「小敦盛」の意味・わかりやすい解説

小敦盛 (こあつもり)

室町時代の御伽草子。渋川版の一つ。平敦盛の妻は,夫の死後源氏の執拗な探索を恐れ,生まれたばかりの若君を捨ててしまう。若君は法然上人に拾われて養育されるが,父母恋しさのあまり重い病にかかる。説法のおり,上人が聴聞の人々に向かってこのことを語ると,聴衆のなかから敦盛の妻が涙ながらに名のり出,母子は再会し,若君の病は回復する。父にひと目会いたいと願う若君は,賀茂の明神の夢告により摂津国一ノ谷に赴き,ある小さな御堂で父の亡霊と対面する。父の膝を枕にまどろむが,それは実は父の膝の骨であった。若君はこの骨を首にかけ,都へ上る。敦盛の妻は柴の庵を結んで夫の菩提を弔う。現存する室町末期成立の絵巻《こあつもり》2巻は前半に熊谷・敦盛組討の場面をもち,結びは若君が母とともに出家し,修行を積んで,後に浄土宗西山派の祖善慧房証空となったとするなど,古い本文形態を伝えている。金春禅鳳作の能《生田敦盛》も,同じ題材を扱う。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「小敦盛」の意味・わかりやすい解説

小敦盛
こあつもり

御伽草子(おとぎぞうし)。作者未詳。一ノ谷の戦いで熊谷直実(くまがいなおざね)に討たれた平敦盛の遺児を主人公にした作品。敦盛の死後に都で生まれた若君は法然上人(ほうねんしょうにん)に養われていたが、見ぬ父恋しさに賀茂明神(かものみょうじん)に祈願すると、夢想を被り、古戦場生田(いくた)の森で父の亡霊に会うことができた。その場に残された白骨を抱いて都へ帰った若君は、母とともに出家して菩提(ぼだい)を弔った。『平家物語』で有名な敦盛の哀話の後日談ともいうべき物語である。室町時代に絵巻につくられ、江戸時代にはやや改作した版本が出て世に流布した。

[松本隆信]

『市古貞次校注『日本古典文学大系38 御伽草子』(1958・岩波書店)』『松本隆信校注『新潮日本古典集成 御伽草子集』(1980・新潮社)』

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世界大百科事典(旧版)内の小敦盛の言及

【平敦盛】より

…本来,この話は熊谷直実(法名蓮生)の発心譚であったものが,しだいに敦盛像も理想化されていったらしい。また,敦盛の遺児が敦盛の亡霊と出合い,父の菩提(ぼだい)を弔ったという虚構の後日譚を扱った御伽草子《小敦盛》や能《生田敦盛》がある。【西脇 哲夫】。…

※「小敦盛」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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