小さな放射線源を体内に留置して行う放射線療法の一種。体の内部から放射線を照射する治療法であることから「内部照射」ともよばれ、外部から照射する外部照射と区別される。放射線源として放射性同位元素(ラジオ・アイソトープ、RI)を白金などの小さな金属製カプセルなどの容器に格納した小線源を用いてがんに対して放射線を照射する「密封小線源治療」と、RI薬剤を内服、あるいは血管内などに投与して治療する「非密封小線源治療」とがある。
[石川 仁 2023年2月16日]
密封小線源治療で使用するRIは、かつてはセシウム137やラジウム226などであったが、放射線防護の観点から、近年では、コバルト60(60Co)、イリジウム192(192Ir)、ヨウ素125(125I)、金198(198Au)などが用いられている。密封小線源の形状には針状、管状あるいは板状にしたものなどがある。一定時間あたりの照射線量によって「低線量率照射」と「高線量率照射」があり、低線量率照射の場合、小線源はおもに病巣に永久挿入される。国内ではヨウ素125と金198が使用されている。高線量率照射では小線源を用いて一時的に照射するが、術者の被曝(ひばく)を避けるために、遠隔操作式後充填(じゅうてん)法であるリモートアフターローディング装置を用いる。線源はイリジウム192、コバルト60が使用される。方法には、体腔(たいくう)内に密封小線源を挿入して照射する腔内(くうない)照射(子宮がん、腟(ちつ)がん、食道がん、気管/気管支がんなど)、病巣内に小線源を直接刺入して照射する組織内照射(舌がん、前立腺(せん)がんなど)、病変の表面に対して鋳型(いがた)に配置された小線源を用いて照射するモールド照射(陰茎がん、皮膚がん、血管肉腫(にくしゅ)など)がある。最近では、大きく複雑な形状の腫瘍(子宮頸(けい)がんなど)に対して、腔内照射に組織内照射を追加したハイブリッド照射も行われている。
小線源治療では医療スタッフの放射線被曝が問題とされてきた。高線量率照射では、病巣に対して適切に小線源を配置するためのアプリケータを設置後に、遠隔操作で治療装置内の小線源をアプリケータ内に充填するリモートアフターローディング法で治療することでスタッフの被曝が避けられるようになった。この方法では、充填された線源はコンピュータで停留位置と時間が制御され、照射が終了すると治療装置内に自動的に再度格納される。内部照射であるため、外部照射よりも線量集中性が良好であり、1回あたりの照射線量(分割線量)を高くすることで強い効果を発揮できる。一方、適切な位置にアプリケータを挿入する高度な技術が必要である。
[石川 仁 2023年2月16日]
非密封小線源治療は、RIが体内に投与されると、選択的にがんの病巣部に取り込まれる性質を利用して治療する方法であり、RI内用療法ともよばれる。β(ベータ)線を放出するヨウ素131(131I)が甲状腺に集まることを利用して甲状腺機能亢進(こうしん)症や甲状腺がんに古くから用いられてきた。現在、日本国内で使用されているその他のRIとしてはイットリウム90(90Y)とラジウム223(223Ra)がある。前者は、CD20(細胞表面のタンパク質)を発現する再発・難治性悪性リンパ腫に対して、β線を放出するイットリウム90を抗CD20抗体に標識して治療に用いられる。後者は、α(アルファ)線を放出するラジウム223が骨の成分であるカルシウムと同じように骨に集まりやすい性質を利用して前立腺がんの骨転移に対する治療に用いられている。α線は、強いDNA損傷と高い殺細胞効果を発揮する高LET(線エネルギー付与)放射線であり、かつ飛程(放射線が体内を通過できる距離)は数十マイクロメートルであるため、病巣以外への放射線の影響を低減できることが期待される。
近年の分子標的治療の発展に伴い、RIとがん細胞の抗原抗体反応を利用したさまざまな治療法や薬剤の開発が進んでおり、とくにα線を放出する核種における研究が盛んである。また、最近では分子イメージング技術を応用して、治療として投与されるRIから放出されるγ(ガンマ)線などの放射線を検出することで診断と治療を同時に行うセラノスティクス(theranostics)研究が注目されている。
[石川 仁 2023年2月16日]
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