日本大百科全書(ニッポニカ) 「イリジウム」の意味・わかりやすい解説
イリジウム
いりじうむ
iridium
周期表第9族に属し、白金族元素の一つ。1804年イギリスのS・テナントによって発見された。
その塩類の水溶液が多様な色を呈することから、ギリシア神話の虹(にじ)の女神イリスIrisにちなんで命名された。白金鉱の中に天然合金(イリドスミン)または遊離の形で存在するが、硫化銅や硫化ニッケル鉱石中にも微量含まれる。白金鉱あるいは銅・ニッケル電解精錬時の陽極泥を王水処理したあと、その不溶性残渣(ざんさ)からハロゲノ錯塩として分離される。これを水素気流中で熱すると、次のような反応によって純粋な金属イリジウムが得られる。
[鳥居泰男]
性質
銀白色の金属。硬くてもろく、加工性に乏しい。硬いことと融点が高いことでは白金族中オスミウムに次ぐ。またその比重は実存する物質中もっとも大きい。質量数185から198にわたり多くの放射性同位体が存在する。典型的な貴金属で、塊状のものはすべての酸に不溶で、王水にさえおかされない。粉状にして初めて王水に溶ける。空気中で800℃から酸化し始めるが、高温では酸化物が分解するので、1140℃以上では酸化されない。水酸化アルカリとは融解状態でも反応しないが、融解した二硫酸カリウムや硝酸カリウムには溶ける。赤熱状態でフッ素、塩素と容易に反応する。化合物中では1、3、4その他多くの酸化状態をとる。
[鳥居泰男]
用途
純イリジウムは分析用、高温反応用るつぼ、高溶融点ガラスの押し出し用ダイスなど特別の用途がある。主要な需要は白金との合金で、装身具、外科手術用の針、旋回軸、電気接点などに用いられる。メートル原器も10%イリジウム合金である。オスミウムとの合金は万年筆のペン先として普及している。
[鳥居泰男]