甲状腺癌(読み)コウジョウセンガン(その他表記)Thyroid Cancer

デジタル大辞泉 「甲状腺癌」の意味・読み・例文・類語

こうじょうせん‐がん〔カフジヤウセン‐〕【甲状腺×癌】

甲状腺癌腫が形成される病気。分化癌(乳頭癌・濾胞癌)・髄様癌未分化癌悪性リンパ腫などの種類があり、病態や悪性度が異なる。約80パーセントを占める乳頭癌や10~15パーセントを占める濾胞癌の場合、適切な治療を受ければ予後は良好であることが多い。
[補説]原子力事故などで、核分裂に伴って放出される放射性ヨウ素を体内に大量に取り込むと、甲状腺に集積し、甲状腺癌を発症する可能性が高くなる。この場合、悪性度の低い甲状腺乳頭癌であることが多い。

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精選版 日本国語大辞典 「甲状腺癌」の意味・読み・例文・類語

こうじょうせん‐がんカフジャウ‥【甲状腺癌】

  1. 〘 名詞 〙 甲状腺に発生する癌腫。腺癌、未分化癌、髄様癌、悪性リンパ腫などがあるが、腺癌は女性に多く発生する。

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家庭医学館 「甲状腺癌」の解説

こうじょうせんがん【甲状腺がん Thyroid Cancer】

たいていは発育の遅い腺(せん)がん
[どんな病気か]
 甲状腺(こうじょうせん)には腺(せん)がん(乳頭腺(にゅうとうせん)がんと濾胞腺(ろほうせん)がん)、未分化(みぶんか)がん、髄様(ずいよう)がん、悪性(あくせい)リンパ腫(しゅ)(「悪性リンパ腫」)といったがんが発生します。このなかでは、発育の遅い腺がん、なかでも乳頭腺がんが圧倒的に多く、濾胞腺がんを含めると、甲状腺のがんの90%は腺がんです。
 甲状腺のがんは、ほかの部位のがんと比べて、若い人に多くみられるのが特徴です。
 腺がんは40歳代にもっとも多くみられ、ついで30歳代、20歳代の順になっています。10歳代に発生することもあります。
 男女比は、1対5~7で、圧倒的に女性に多い病気です。ただし、悪性度の高い未分化がんだけは、50歳以上の人に多くみられ、男女ほぼ同数です。
[症状]
 まったく症状の現われないこともありますが、くびの圧迫感があったり、声がかれるなどの症状が、かなりの患者さんにみられます。
 未分化がんの場合は、呼吸困難、ものを飲み込みにくい、体重が減る、疲れやすいなどの症状もおこってきます。
[検査と診断]
 通常、甲状腺のはたらきは正常で、血液中の甲状腺ホルモンの量を調べても異常はみられません。
 そのほかの血液検査でも、異常を示すことはほとんどありません。しかし、未分化がんの場合には、白血球(はっけっきゅう)数の増加と血液沈降速度(けつえきちんこうそくど)(赤血球(せっけっきゅう)沈降速度)の増加がみられます。
●画像診断
 比較的やわらかい組織も写す頸部(けいぶ)の軟(なん)X線撮影(せんさつえい)、超音波検査、放射性同位元素を使った甲状腺のシンチスキャン、CTスキャン、水分などのかすかな磁力を利用して画像をえるMRI検査などの方法があります。
 これらの検査では、腫瘤(しゅりゅう)があることはわかっても、良性か悪性かの診断はできません。
 ただし、乳頭腺がんの場合は、頸部軟X線撮影によって、砂粒腫小体(さりゅうしゅしょうたい)と呼ばれる、石灰が甲状腺組織に沈着した特有の陰影がみられ、診断がつきます。
●血中腫瘍(けっちゅうしゅよう)マーカー(「腫瘍マーカー」)
 体内に腫瘍ができると、血液中にある種の物質が増えることがあり、このような物質を腫瘍(しゅよう)マーカーと呼び、腫瘍をみわける手がかりにしています。
 たとえば、甲状腺髄様(ずいよう)がんでは、血液中にカルシトニンや、CEAという物質が増加します。
 また、甲状腺腺がん、とくに濾胞腺がんができると、血中にサイログロブリンが増えます。しかし、サイログロブリンは、良性腫瘍(りょうせいしゅよう)である甲状腺腺腫やバセドウ病などでも増加します。
 このように、腫瘍マーカーだけからでは、がんと診断を確定することができません。
 しかし、治療後の経過をみたり、がんの再発や転移の有無を確認するには役立ちます。
●甲状腺針生検(こうじょうせんはりせいけん)
 甲状腺のがんの診断を確定するために、針を刺して腫瘍の組織や細胞をとり、顕微鏡で調べるという、穿刺吸引細胞診(せんしきゅういんさいぼうしん)がよく行なわれます。
◎手術で治ることが多い
[治療]
 悪性腫瘍(あくせいしゅよう)では、一刻も早く診断を確定し、手術など、適切な治療を開始することがたいせつです。
●手術療法
 腺(せん)がん、髄様(ずいよう)がん、悪性(あくせい)リンパ腫(しゅ)などでは、手術をして、腫瘍ができている甲状腺を全部摘出します。
 手術は、全身麻酔のもとに行なわれ、3~4週間の入院が必要です。
●そのほかの治療法
 腺がんでは、放射性ヨード131I)療法が行なわれます。ヨードは甲状腺がんの部分に取り込まれ、放射線を出して細胞を破壊するため、効果が期待できるのです。
 そのため、とくに腺がんで転移のみられる場合、甲状腺をすべて摘出した後に、放射性ヨードの内服を行ない、甲状腺由来のがん細胞が破壊されることを期待します。その後、甲状腺ホルモン(T4)剤の内服を続けます。
 未分化がんでは、放射線療法や、抗がん剤による薬物(化学)療法が中心になります。
 悪性リンパ腫では、手術療法のほかに、放射線療法が行なわれることもあります。
●治療を受けるときの注意
 がんでは、早期診断、早期治療が必須です。少しでも甲状腺がんが疑われるときには、内分泌(ないぶんぴつ)、とくに甲状腺の専門医を受診してください。
 放射性ヨード療法を受ける場合は、治療の2週間前から、ヨードを含む食品の摂取を厳重に制限する必要があります。海藻など、ヨードを含む食物や薬剤は、絶対にとらないようにしてください。
 また、放射性ヨード療法では、放射線が胎児(たいじ)に影響をあたえる可能性があるので、妊娠は絶対に避けてください。
 甲状腺をすべて摘出すると、甲状腺機能低下症(こうじょうせんきのうていかしょう)(「甲状腺機能低下症とは」)になります。このため、甲状腺ホルモン剤を、毎日欠かさず生涯にわたって、服用し続けなければなりません。
 その後の経過が良好でも、年に2~3回は、定期的に診察を受けましょう。
[予防]
 甲状腺のがんの約90%を占める腺がんは、発育がきわめて遅いものです。そのため、一刻も早く手術して摘出すれば、ほぼ完全に治ります。
 このように、甲状腺がんは、がんといっても、後の経過がよい病気です。
 ただ、未分化がんだけは、治療をしても大半は6か月以内に死亡するという、非常に悪性の病気です。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「甲状腺癌」の意味・わかりやすい解説

甲状腺癌
こうじょうせんがん

甲状腺に発生する悪性腫瘍(しゅよう)。おもなものに乳頭癌、濾胞(ろほう)癌、髄様癌、悪性リンパ腫がある。全甲状腺癌のなかでは、乳頭癌(80~90%)や濾胞癌(10~15%)がほとんどを占める。これらは分化型の癌であるため緩徐に進行することがほとんどで、転移が多いとされるが予後は良好であることが多い。これら以外のものは発生頻度は少ないが、甲状腺の傍濾胞細胞(C細胞)から発生し家族性の発症も疑われる髄様癌や、リンパ球から発生する悪性リンパ腫、乳頭癌や濾胞癌と同様に濾胞細胞から発生する未分化癌などは、悪性度が高くまた進行も速い。とくに未分化癌はきわめて増殖傾向が強く、予後も著しく不良であることが多い。全体に自覚症状に乏しいことも多いが、頸部(けいぶ)の結節(しこり)やリンパ節腫大が認められたり、未分化癌や悪性リンパ腫では、嗄声(させい)(かすれ声)や嚥下(えんげ)困難、結節部位の圧痛が出現したりする。

 1986年のチェルノブイリ原子力発電所事故のあとで、周辺住民のとくに小児に甲状腺癌の発生が多く認められた。ほかにビキニ環礁で行われた水爆実験では、残留放射性物質による内部被曝(ひばく)のために島民に高頻度に甲状腺癌が発生した。これらのことから、放射性物質による被曝と甲状腺癌の発生には深い因果関係があると考えられている。

[編集部 2016年6月20日]

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改訂新版 世界大百科事典 「甲状腺癌」の意味・わかりやすい解説

甲状腺癌 (こうじょうせんがん)
thyroid cancer

甲状腺癌には,甲状腺ホルモンを産生している濾胞上皮から発生する乳頭腺癌,濾胞腺癌および未分化癌と,カルシトニンを産生する傍濾胞細胞から生じる髄様癌とがある。甲状腺癌の約90%を占める乳頭腺癌と濾胞腺癌は他臓器の癌と比べて生物学的性質がおとなしく,リンパ節や肺,骨,脳への転移は起こすが,10年たっても患者は元気でいることが多い。一方,未分化癌は高齢者に多く頻度は5%と少ないが,周囲組織への増殖浸潤が激しく,きわめて悪性である。髄様癌では血中カルシトニン濃度が上昇し,また副腎,脳下垂体,副甲状腺,膵臓の腫瘍と合併して発生することがある。一般に甲状腺癌は,ある大きさになると,表面凹凸不整で周囲と癒着した硬い腫瘤として触れ,進行すると嗄声(させい)や呼吸困難,嚥下障害をきたす。診断には軟X線撮影,超音波検査に加え細胞診が有用である。治療は一般には手術によるが,未分化癌の場合は放射線照射が最も効果がある。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「甲状腺癌」の意味・わかりやすい解説

甲状腺癌
こうじょうせんがん
thyroid cancer

頭頸部癌のほとんどが男性に多発するのに対し,甲状腺癌は反対に女性に多い。症状は前頸部または側頸部の腫瘍がおもなもので,喉頭圧迫感,声がれ,咳 (せき) などがみられることもある。洋服のネックが合わなくなり,気づくこともある。診断は頸部の触診,CT,放射線を用いたシンチグラムなどで行なわれるが,最近では針生検といって太めの注射針を腫瘍 (しゅよう) の部分に刺し,細胞を採取して顕微鏡で検査し診断する方法が盛んに行なわれている。治療は手術で切除することが第一選択となるが,ときに放射線療法の併用も行なわれる。治療成績は未分化癌と呼ばれる組織型をもつ癌以外は良好で,術後 10年生存率も約 80%以上を保っている。

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