改訂新版 世界大百科事典 「履行補助者」の意味・わかりやすい解説
履行補助者 (りこうほじょしゃ)
債務者の債務の履行を補助する者をいう。債務者の現実の履行行為の手助けをする者だけでなく,債務者に代わって現実の履行行為をする者をも含む。たとえば,運送会社が運送を引き受けた物品を,現実にトラックで目的地まで運搬する運転手や助手が,その例である。ただ,補助者といいうるためには,債務者の指図ないし命令に従う関係にあることを要するが,必ずしも,債務者の使用人である必要はない。建物の賃借人の家族などは利用補助者と呼ばれることもあるが,履行補助者と考えて差し支えない。債務の性質上,または特約により,債務者自身が履行行為をしなければならない場合(この場合に履行補助者を使えば,それだけで債務不履行となろう)を除いて,原則として,債務者は履行補助者を使用しうる。その際,補助者の故意または過失によって債務不履行を生じた場合には,債務者自身になんら過失がなくても,債務者は不履行による損害賠償責任を負う。補助者を使用することによって債務者は,その活動範囲を拡大しうるのであるから,補助者の故意・過失は,信義誠実の原則上,債務者自身の故意・過失と同一視すべきだからである。債務者が,補助者の選任および監督について十分注意したのに,補助者の故意・過失によって不履行を生じた場合には,債務者の免責を認めるべきではないか,との主張もみられるが,原則的には,免責を認めるべきではない。
執筆者:石田 喜久夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報