信義誠実の原則(読み)シンギセイジツノゲンソク(英語表記)Treu und Glauben[ドイツ]
bonne foi[フランス]

デジタル大辞泉 「信義誠実の原則」の意味・読み・例文・類語

しんぎせいじつ‐の‐げんそく【信義誠実の原則】

信義則

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改訂新版 世界大百科事典 「信義誠実の原則」の意味・わかりやすい解説

信義誠実の原則 (しんぎせいじつのげんそく)
Treu und Glauben[ドイツ]
bonne foi[フランス]

社会生活を営むうえで,他人の信頼や期待にこたえて,信義に従い誠実に行動しなければならないという原則。一般社会生活においては,このいわば道徳規範に違反しても,個人的ないし社会的な次元で非難されるにとどまる。これに対し,この信義に従い誠実に行動すべしとする規範は,人と人との間の法律生活においても,権利の行使および義務履行にあたって,同じく行動の指導理念とされ,これに違反するときは法的にも不利益ないし制裁を課されるべきことが要請される。これが,法的規範としての信義誠実の原則,略して信義則である。この原則は,古くから裁判所や学説によって承認されてきたが,第2次大戦後,民法明文化されるに至った(1条2項。〈権利ノ行使及ヒ義務ノ履行ハ信義ニ従ヒ誠実ニ之ヲ為スコトヲ要ス〉)。

 信義誠実の原則は,とりわけ民法の解釈・適用においては,ほぼ次のような機能を営んでいる。

 第1に,抽象的一般的な文言で表現されている制定法規を,その予定する枠内で適正に具体化するための指導理念とされる。例えば,売買契約をした者は,その契約を実現すべく誠実に努力すべきであり,簡単な問合せをすればわかることなのに,目的物の引渡しの場所が契約に明示されていないことを幸いとばかりに契約を履行しない者は,債務不履行の責任を負わされる。

 第2に,制定法規の枠外から,人間としての普遍的な倫理的命題を持ち込んで,正義・公平を実現する機能を営んでいる。例えば,〈自分のした行為と矛盾する主張をすること〉は許されず,消滅時効時効)が完成した後にいったん債務の存在を承認しておきながら,その後に時効を援用して債務の弁済を拒むことは許されない。

 第3に,固定した制定法規を進展する社会に適合させるために,法規に反してそれを修正する機能をも営んでいる。例えば,民法上,賃借人が賃貸人に無断で譲渡転貸をした場合は賃貸借契約の解除原因となるとされているが(民法612条),判例は,賃借人や転借人等を保護するために,当初,信義則を持ち込んで,事情によっては解除権の行使は認められないとした。そして,ついには,信義則による解除権の制限があたかも民法612条の内在的制約であるかのように,賃借権の無断譲渡・転貸に,賃貸人に対する著しい背信行為と認められない特段の事情があるときは,解除権は発生しないと定式化した。

 第4に,新たな法制度を解釈論で創造するために機能させられることもある。契約締結時に両当事者がその契約の基礎とした社会事情に予見しえなかった著しい変更が生じ,契約の履行を強制することが一方当事者に著しく過酷だと評価される場合には,その当事者に一方的に契約内容の改訂を請求したり,契約を廃棄する権限を認める〈事情変更の原則〉はその例である。

 なお,信義誠実の原則は,民法や商法など私法上の法適用にかぎらず,行政法や民事訴訟法などでも,その適用が肯定されている。
執筆者:

行政上の法律関係においても信義誠実の原則が適用されることについては,一般に,判例・学説ともに認めている。この原則が法全般に通じる一般原則であると考えられるからである。禁反言エストッペル)の法理の適用としていわれることが多い。このことは,膨大で複雑な行政法令が存在し,国民は行政機関がそれらの法令について示す解釈を信頼し,それに大きく依存して生活・行動せざるをえない現実からすると,とくに重要な意義をもつ。この原則の適用により,行政機関は法令解釈について以前に示したものと矛盾した言動をしてはならないことになり,行政機関の解釈を信頼した国民に不利益が及ぶことを防ぐことになる。この原則の行政上の法律関係における適用は,違法な行政作用の有効性を承認する結果になる場合もあるなど,法律による行政の原理との関連で若干の問題はあるものの,行政の各領域でさかんに行われている行政指導に対する法的統制にとって,とりわけ有効である。
執筆者:

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百科事典マイペディア 「信義誠実の原則」の意味・わかりやすい解説

信義誠実の原則【しんぎせいじつのげんそく】

信義則とも。すべての人は,共同生活を営む社会の一員として,互いに相手の信頼を裏切らないように誠意をもって行動すべきであるという私法上の原則(民法1条2項)。公序良俗の観念とともに,法と道徳とを調和させるための基本原理である。
→関連項目条理不完全履行

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「信義誠実の原則」の意味・わかりやすい解説

信義誠実の原則
しんぎせいじつのげんそく

権利の行使および義務の履行は信義に従い誠実にこれをなすことを要する、とする原則(民法1条2項)。信義則ともいう。信義誠実とは、社会共同生活の一員として互いに相手の信頼を裏切らないように誠意をもって行動することであり、債権法を支配する大原則である。たとえば、債務の履行が信義誠実に反する場合には、債務を履行したことにならず、債務不履行の責任を負わなければならない。信義誠実の原則は、このように当事者間の行動の原則として作用するだけでなく、法律および契約解釈の原理として、さらには立法的原理としても作用するのである。

[淡路剛久]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「信義誠実の原則」の意味・わかりやすい解説

信義誠実の原則
しんぎせいじつのげんそく
Treu und Glauben; bonne foi

法原則の一つ。公法,私法を問わず,当事者が相手の信頼にそむかず誠意をもって行動しなければならないという原則。信義則ともいう。もともと倫理上の規範であったが,具体的事件において正義,衡平を貫徹するために,適用されるべき基本的法原則とされている。日本では権利の行使と義務の履行に関して民法第1条第2項にこの基本原則をうたっている。

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