山地農業(読み)さんちのうぎょう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「山地農業」の意味・わかりやすい解説

山地農業
さんちのうぎょう

山地・山岳地帯において行われる農業をいう。地形的に傾斜地が多いこと、標高が高く気温が低いこと、地域によっては多雪であることなど、一般的に地理的条件が悪く、経営規模の零細性、低生産性、市場からの遠隔性などの経済的特徴から平地農業に比べて生産条件が不利な地域である。それゆえ農業だけで生計をたてることがむずかしく、兼業に依存する度合いも高い。とはいえ、スイスをはじめヨーロッパ諸国では専業による家畜飼養農家が多くみられる。

 日本の場合、このような山地農業の諸特徴は現在でも多くの点で継続されてはいるが、高度経済成長期以降、そのあり方に大きな変化がもたらされた。その主要な特徴としては、農産物の輸入圧力による農業不振や地域経済の低迷などを背景に、離農や若年労働力の流出が続き過疎化と高齢化が進行していることである。このため、山地が多い日本においては、農地の荒廃化による食料供給機能の低下にとどまらず、国土保全水源涵養(かんよう)、自然環境の保全、景観の形成など公益的機能の発揮にも支障をきたすことが懸念されている。

 全国的にみると、特産物づくり(果樹作物、工芸作物、特用林産物農産加工など)を通じて活力のある地域も生まれているとはいえ、総じて地域社会の維持さえ困難なところが少なくない。2000年代に入って、農業生産条件が不利な地域に対する支援(中山間地域等直接支払制度)が講じられる一方で、農産物直売所、農家レストラン、農業体験・観光農園、農家民宿・民泊援農など都市との交流・協働による地域活性化への取り組みが進んでいる。

[大西敏夫]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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