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恋愛小説 れんあいしょうせつ

大辞林 第三版の解説

れんあいしょうせつ【恋愛小説】

恋愛を主題とする小説。

出典|三省堂大辞林 第三版について | 情報

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

恋愛小説
れんあいしょうせつ

小説のなかには、男女間の愛情の問題がいっさい介入しない作品もあるが、大部分は、洋の東西を問わず、広い意味での恋愛を重要なテーマとしている。しかし、「恋愛小説」という名称が、普通、連想させるのは、歴史上のある時代と一定の社会形態を背景とし、ある特定の恋愛観に基づいて書かれた小説作品であろう。それを大別すると、恋愛心理の分析に主眼を置くものと、情熱恋愛の謳歌(おうか)を目的とするものとある。前者はラ・ファイエット夫人の『クレーブの奥方』(1678)に端を発し、マリボーの『マリアンヌの生涯』(1731~41)、ラクロの『危険な関係』(1782)を経て、コンスタンの『アドルフ』(1816)、スタンダールの『赤と黒』(1830)、バルザックの『谷間の百合(ゆり)』(1836)、ラディゲの『ドルジェル伯の舞踏会』(1924)というふうに、一貫してフランスで発達してきた。大岡昇平の『武蔵野(むさしの)夫人』(1950)、三島由紀夫(ゆきお)の初期の諸作も、この系譜の影響下にある。それに対して、情熱謳歌の恋愛小説は、ルソーの『新エロイーズ』(1761)に端を発し、ゲーテの『若きウェルテルの悩み』(1774)を経て、19世紀のヨーロッパで圧倒的な流行をみた。シャトーブリアンの『アタラ』(1801)、『ルネ』(1803)、メリメの『カルメン』(1845)、デュマ(子)の『椿姫(つばきひめ)』(1848)、エミリー・ブロンテの『嵐(あらし)が丘』(1847)などが、その代表的なものであるが、そのほか無数の凡作が書かれ、読まれ、忘れられた。
 実際には多くの恋愛小説は、以上の両方の性質を備えているが、とくにフランスで心理分析小説が発達したについては、中世の騎士道、ルイ王朝の宮廷生活、さらにその延長として発展し、今日に至るまでフランス国民の生活の重要な一部となっているサロン的社交が、この国民特有の分析的合理主義の思考形態と相まって、独特の小説ジャンルを形成したとみて差し支えない。これは同じく女性が社交生活において重要な地位を占めた、日本の平安朝の宮廷周辺で、『源氏物語』などの恋愛小説が生まれたこととも照応している。他方の情熱謳歌の小説は、キリスト教と表裏一体となった封建道徳が、秩序と分別と良俗によって人間性を抑圧してきた反動として、ブルジョア市民階級の勃興(ぼっこう)と呼応した、ロマン主義的自我解放の叫びにほかならず、その反響は、D・H・ローレンスの『チャタレイ夫人の恋人』(1928)における性本能解放の主張や、ブルトンの『ナジャ』(1928)におけるような潜在意識解放の試みにまで及んでいる。このほか、無視することのできないもう一つの大きな潮流は、ギリシアの『ダフニスとクロエ』を代表とする、いわゆる牧歌的恋愛小説で、ベルナルダン・ド・サン・ピエールの『ポールとビルジニー』(1787)や三島由紀夫の『潮騒(しおさい)』(1954)のように、地上の楽園を思わせる牧歌的背景のなかで、汚れのない男女の清純な恋を描いている。ツルゲーネフ以下多くの作家の「初恋」と題する小説や、ドイツのメルヘン小説、また、ネルバルの『シルビー』(1854)などもこの系譜に入れていいかもしれない。普通、1人の作家が一度しか書けない小説であるといっていい。[平岡篤頼]

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