巡回裁判(読み)じゅんかいさいばん

改訂新版 世界大百科事典 「巡回裁判」の意味・わかりやすい解説

巡回裁判 (じゅんかいさいばん)

裁判が地方に固定的に常設された法廷で行われず,定期ないしは不定期に巡回して来る裁判官により果たされる制度。官僚機構や貨幣による報酬,交通手段などの不備な時代には,地方在住の地方役人に大きな権限を与えると土着貴族化し,地方分権化の危険が多かったため,中央の宮廷から臨時的に派遣される裁判官による裁判および地方役人の監督方法であった巡回裁判制は,中央政権が地方を統一的に統治する一つの有効な手段であった。フランク王国9世紀のカール大帝による巡察使早期の例として有名であるが,イギリスではとりわけ12世紀後半から組織的にこれが使われだし,地方法の駆逐,王国共通法であるコモン・ロー形成に一役買っており,現在でも英米法系の司法制度の一特色として残っている。

 イギリスでは,長い間高等法院の裁判官を中心に七つの巡回区を定期的に巡回していたアサイズ裁判assizesという巡回裁判があったが,1971年の大改革によって廃止され,現在は上位裁判所イングランドウェールズを通じてロンドンにしかない点では変わらないが,地方での裁判組織は,民事全国を約400の管区分け,そのそれぞれにカウンティ裁判所があり,それらのいくつかがさらに一つの巡回区にまとめられている。カウンティ裁判所では少なくとも月1回は巡回区裁判官により裁判される。また刑事は,組織上は一個の裁判所であるが,100近い各地で法廷が開かれる形をとる刑事法院で高等法院裁判官または巡回区裁判官が裁判を行っている。アメリカの場合も巡回制は広く採用されており,11の巡回区に分かれる連邦控訴裁判所,91の管区に分かれる連邦地方裁判所について,管轄区域内の2ヵ所以上の場所で法廷を開くとされているものがかなりある。また,州の中にも類似の制度を採用している所が少なくない。

 現在での巡回裁判制の効用としては,比較的少数の正規の裁判官を少数の裁判所に集中し,広い領域に司法制度の恩恵を平等に賦与し,しかも過度の分散化を防げること,さらには裁判官の仕事量の均一化,資料・事務補佐員の確保,裁判官相互の接触の増大等が考えられる。
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百科事典マイペディア 「巡回裁判」の意味・わかりやすい解説

巡回裁判【じゅんかいさいばん】

英国でイングランドおよびウェールズを八つの巡回裁判区に分け,各区に高等法院判事が年3回出張して刑事・民事の裁判を行う制度。陪審員の便宜のために13世紀に始まり,全国を法的に統一するのに役立った。1971年廃止。類似の制度はドイツ,フランスにもあった。米国には巡回控訴裁判所が現存する。

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