工事契約会計(読み)こうじけいやくかいけい(その他表記)Accounting for Construction Contracts

日本大百科全書(ニッポニカ) 「工事契約会計」の意味・わかりやすい解説

工事契約会計
こうじけいやくかいけい
Accounting for Construction Contracts

一般建設、プラント建設、造船、重機械製造などの基本的な仕様や作業内容を、顧客指図に基づいて実施し、その業務の対価を受領する、請負の工事契約に関する会計をいう。

 日本では、建設や造船は伝統的に、個々の業法に規定する会計規定によって経常的な会計処理を行ってきたが、2007年(平成19)12月27日に、企業会計基準委員会(ASBJ)から、企業会計基準第15号「工事契約に関する会計基準」が制定・公表された。これにより、受注ソフトウェア制作の事業をも含む意味での工事契約として統合された会計を実施することとなった。

 以上のような工事契約については、伝統的に、収益認識基準における基本である実現の時点を重視する「工事完成基準」が主流であり、特別に長期請負工事については「工事完成基準」と「工事進行基準」を企業の選択によって適用できることとされてきた。しかしながら、国際会計基準が従来から工事進行基準を原則としてきたことから、会計のコンバージェンス融合)の一環として、工事契約に関する会計基準が制定されたのである。

 この工事契約会計基準においては、工事契約に関して、工事の進行途上においてもその進捗(しんちょく)部分について成果の確実性が認められる場合には工事進行基準を適用し、この要件を満たさない場合には工事完成基準を適用する。成果の確実性が認められるためには、(1)工事収益総額、(2)工事原価総額、(3)決算日における工事進捗度、以上の三つの要素について、信頼性をもって見積もることができなければならないものとされた。これは、工事契約に関する収益の認識は、原則的には、工事進行基準であるべきことを示しており、信頼性をもって見積もることができない状況は、企業経営の内部管理体制(内部統制組織の構築等)において未成熟の状態であるか、当該工事契約に特殊な環境が存在するといった、ある種の特別な事態であることを想定しているものと理解することが適切である。

 三つの要素のうち工事収益総額とは工事契約金額であり、工事原価総額とは当該請負工事の実行予算による見積原価である。また、工事進捗度とは工事の進みぐあいを意味するものであるが、通常は、工事収益総額を分母とし工事実際発生原価を分子とする原価比例法が使用されるものと理解されている。

 工事契約会計基準は、2009年4月1日から関係する事業に対して全面的に適用されている。

 このような会計基準の動向にあわせた日本の法人税法は、1998年に導入した工事進行基準の強制適用の範囲を、2008年度に大幅に拡大し、現在では、1年以上の工期をもち10億円以上の工事については、工事進行基準を強制適用する改正を実施した。対象となる契約も、建設工事ばかりでなく受注の重機械製造やソフトウェア制作をも含み、会計基準との調和が急速に進展したという特徴をもっている。また、懸案であった赤字工事(損失が見込まれる工事)も工事進行基準の対象となったことは、税制を含む会計処理の一貫性からして大きな進展である。

[東海幹夫]

『建設業振興基金建設業経理研究会編著『工事契約会計』(2008・建設産業経理研究所、清文社発売)』『東海幹夫・若松昭司著『実践 工事進行基準の戦略的活用方法――新会計基準に対応する経営革新をどう進める!』(2009・建設産業経理研究所、清文社発売)』

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