狭義では訴訟において当事者(代理人,弁護人を含む)が行う陳述,広義ではそれの行われる手続をいう。近代訴訟法は,弁論が公開法廷で口頭でなされることを原則とするので,口頭弁論と称せられることも少なくない(民事訴訟法87条,刑事訴訟法43条)。なお,刑事訴訟での慣用語として,証拠調べが終わった後の意見陳述のうち,弁護人がするもの(刑事訴訟法293条2項)をとくに弁論と呼ぶこともある。
狭義の弁論を現実になしうる資格を弁論能力,または演述能力という。訴訟を円滑迅速に行うための規律であり,刑事訴訟の控訴審・上告審では弁護士だけが弁論能力を持ち,被告人本人には弁論能力がない(刑事訴訟法388条,414条)。民事訴訟では一般的に本人訴訟が許されており,弁論能力についてこのような一律の制限はないが,具体的な事件によっては弁論能力を欠くと認められる者に陳述を禁じ,さらに必要があるときは弁護士の付添いを命ずることがありうる(民事訴訟法155条)。
民事訴訟において弁論は,どの期日でなされたものも等価値とされる。すなわち,審理が複数の期日にわたる場合に,適切な時期になされていれば陳述は原則としてどの期日でしても判決において平等に斟酌される(口頭弁論一体の原則,ないし適時提出主義)。もっとも,あまりにおそいものは却下されることがありうるし(時機に後れた攻撃防御方法の却下,民事訴訟法157条),中間判決(245条)によって弁論提出に区切りがつけられることもありうる。
広義の弁論は裁判長(合議体でなければ当該単独裁判官)の指揮に従う(民事訴訟法148条,刑事訴訟法294条)。必要があれば,弁論は分離し,または併合することができ(民事訴訟法152条,刑事訴訟法313条),かつ被告人の権利保護のため必要なときは必ず分離しなければならない(刑事訴訟法313条2項,刑事訴訟規則210条)。弁論を特定事項に制限することもでき(民事訴訟法152条,刑事訴訟法295条),弁論時間の制限もありうる(刑事訴訟規則212条)。いったん終結した弁論を再開することもできる(民事訴訟法153条,刑事訴訟法313条)。弁論は調書に記載される(民事訴訟法160条1項,刑事訴訟法48条)。事件が複雑な場合には,弁論の準備のための手続を行うこともできる(民事訴訟法168条以下,刑事訴訟規則194条。準備手続)。
なお,民事訴訟においては,口頭弁論にあらわれたいっさいの資料,模様,状態は〈弁論の全趣旨〉と呼ばれ,事実の認定(民事訴訟法247条,自由心証主義),擬制自白成立の判定(159条1項但書)に用いられる。刑事訴訟では,これは認められていない(刑事訴訟法317条参照)。
執筆者:高橋 宏志
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…なお,審理が円滑に進められるためには法廷の秩序を維持することが必要であり,その見地から裁判所に法廷警察権が与えられ,退廷,さらには監置・過料の制裁を科することが認められる(法廷秩序)。 公判期日には,冒頭手続,証拠調べ,弁論を経て,最後に判決が言い渡される。(1)冒頭手続では,出頭した者が被告人本人であることの確認(人定質問)の後,検察官が起訴状を朗読する。…
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