上訴(読み)ジョウソ

デジタル大辞泉 「上訴」の意味・読み・例文・類語

じょう‐そ〔ジヤウ‐〕【上訴】

[名](スル)
上の者に訴えること。
未確定の裁判について上級裁判所にその再審理を求める不服申し立て方法。控訴上告抗告の3種類がある。これによって裁判の確定が妨げられ、事件は上級審に係属する。
[類語]訴訟起訴控訴抗告上告提訴反訴訴える

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「上訴」の意味・読み・例文・類語

じょう‐そジャウ‥【上訴】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 上にうったえること。皇帝などに苦痛不満を申しのべること。〔班固‐東都賦〕
  3. 令制で、訴人(原告)が敗訴して判決に承服しないとき、判決文の他に不理状を請求してその裁決を上級の官司に求めることをいう。
    1. [初出の実例]「断訖訴人不服。欲上訴者。請不理状」(出典:令義解(718)公式)
  4. 民事または刑事の判決、または決定に対する不服を、一定の期間内に上級裁判所に申し立てて、その取消しを求める訴訟。控訴・上告・抗告の三種類がある。〔仏和法律字彙(1886)〕

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「上訴」の意味・わかりやすい解説

上訴 (じょうそ)

裁判に不服のある者が,その裁判が確定する前に,より上級の裁判所にその取消しまたは変更を求めるために行う申立てをいう。再審や,刑事訴訟における非常上告のように,裁判確定後に申し立てるものは,裁判修正の手段ではあっても,上訴と区別して考えられている。

上訴制度は,歴史的に,二つの大きな役割を担ってきた。その一つは,裁判の誤りを是正する役割である。観念的にいえば,第一審の裁判所の構成や訴訟手続を誤りの生じる余地のない理想的なものにすれば,上訴制度は無用のはずである。現に,陪審のした事実認定に対する上訴を許さない伝統的な制度は,このような理由によって説明されることがある。しかし,現実には,裁判所の構成や訴訟手続をどのようにしようとも,裁判の誤りを絶無にすることは困難である。そこで,不当な判決を受けた者に,上訴による救済の道を用意する必要がある。とくに刑事裁判においては,無実の者が誤って処罰されることを防ぐために,被告人に上訴権を保障する必要性は強い。

 上訴制度のもう一つの役割は,裁判の中央集権的な統制のための経路となることである。例えば,中世のフランスにおいて,控訴制度が発達したのは,これを通じて,国王が領主の裁判権に優越する裁判権を確保しようとしたためであるとされている。近代の司法制度においては,一般に,個々の裁判官の独立性が重んじられ,行政権の内部におけるような上意下達の体制は明瞭ではない。しかし,各地の裁判所ごとに異なった判断がまったく自由に下されるとすれば,中央の権力にとって裁判内容のコントロールがまったく不可能となるばかりでなく,裁判を受ける者にとっても,判決結果の予測が難しいという問題を生じる。そこで,上訴という機会を通じて,上級の(最終的には国内唯一の)裁判所が下級裁判所の判断を審査し,統一する制度が生み出される。

 以上のような上訴制度の役割は,今日においても存在するが,大まかに見れば,第1の誤判救済の役割は,事実審への上訴である控訴により強く表れ,第2の裁判の統制の役割は,法律審(しかも,しばしば最高の裁判所)への上訴である上告により強く表れているといえよう。

ローマ法にもすでに上訴制度があったように,統治機構がある程度発達し,階層的な裁判所制度が成立しうるところでは,上訴の制度は古くから広く存在し,現代に至っている。しかし,どんな事件につきどんな上訴を認めるかは,国により,時代によりさまざまであり,イスラム法のように伝統的に上訴制度を持たない法制もある。現在,刑事事件の被告人になんらかの上訴手段を与えるべきことは,国際的な通念となっており,国際人権規約も,被告人が法律に従って上訴する権利を保障している(〈市民的及び政治的権利に関する国際規約〉14条5項)。日本の近世には,上訴制度はなかったが,明治初期の司法制度の整備に際して,いちはやく上訴制度が設けられた。これは裁判制度を急速に整えるために,中央集権的に裁判を指導,統制する必要があったからであるといわれている。刑事手続における控訴の制度は採用が遅れたものの,1890年の諸立法によって,民事・刑事を通じて,原則としてすべての事件で控訴と上告を許す三審制の審級制度が確立され,その後の法改正にもかかわらず,今日まで基本的にはこの制度が維持されている。このように,上訴の可能性を広く認め制限を加えないのは,日本の司法制度の特徴の一つである。

上訴制度には,利点ばかりでなく,問題点もある。第1に,誤判の是正という役割を,どのようにしたら,また,どの程度に果たしうるかという問題がある。とくに事実の認定について,上訴審で審理を繰り返しても,より正しい判断が得られる保障はないという主張もある。第2に,裁判の統制という役割も,法の解釈適用の統一性を確保するという利益の反面,間接的にせよ,裁判内容に政府の意向を反映させ,裁判の独立性を弱めるおそれを含んでいる。第3に,経済的な観点から見れば,上訴制度が裁判のための費用と時間を増大させることは否めない。このことは,裁判制度を維持する国にとっても,また裁判を受ける当事者にとっても,問題となりうる。民事訴訟では,上訴のために,裁判による権利の実現が遅れることもある。上訴制度の存在が訴訟当事者の負担を増すという問題が最も明瞭に表れるのは,刑事事件の無罪判決に対する検察官上訴の場合である。いったん無罪となった被告人に再度の応訴を強いるこの種の上訴は,英米法では,〈二重の危険〉として禁じられている。上訴制度の立法にあたっては,上訴の役割とともに,これらの問題点も考慮されなければならない。

歴史的・比較法的に見れば,多種多様な上訴が存在する。しかし,それらを,上訴によってどのような点の審査を求めるかという観点から,法律審への上訴と事実審への上訴とに大別することができる。前者は,上訴審で原審の審理手続や判決に法律上の誤りがないかどうかだけを審査するもので,基本的には上告がこれにあたる。後者は,原審の事実認定(刑事訴訟では刑の量定も含む)の当否についても判断するもので,控訴がこれにあたる。また,上訴申立ての条件という観点からは,当事者が当然に申し立てられる権利としての上訴と,裁判所の許可を条件とする裁量的な上訴とに分類することができる。日本の現行法上の上訴は,特殊なもの(刑事訴訟規則257条の上告受理申立て)を除いて,ほとんどが権利としての上訴である。現行法では,控訴と上告が判決に対する上訴であるのに対し,決定または命令に対する上訴として抗告がある。

上訴を申し立てるには,一定の期間内に,申立書を提出するのが普通である。上訴権は当事者の権利であるから,これを放棄したり,いったん申し立てた上訴を取り下げることもできる。裁判の一部分に対してだけ上訴を申し立てること(一部上訴)もできる。上訴の申立てがあると,事件は上級裁判所へ移り(移審の効力),元の判決(原判決)の確定と執行力は停止される(停止の効力)。ただし,遅延から生じる困難を避けるために,かりに執行されることもある(仮執行宣言)。上訴審の手続のあり方には,原審と同様の審判手続を繰り返す覆審,原審の弁論を引き継いで事件につき審判する続審,そして事件そのものについて判断するのではなく原裁判に誤りがあるかどうかだけを審査する事後審の3種があり,現行法では,上告審と刑事の控訴審は事後審であり,民事の控訴審は続審であると説明されることが多い。もっとも,このような類型によって上訴審の手続のすべてが決まるわけではない。

 一方の当事者のみが上訴を申し立てたとき,上訴審では原判決よりも申立人の不利になる裁判をすることはできない(〈不利益変更の禁止〉)。ただし,刑事訴訟では,この原則は,被告人側の上訴にだけ適用されるので,検察官が上訴を申し立てたときには,被告人上訴の有無にかかわらず,どちらの方向にも裁判内容を変更することができる。また,民事訴訟では,上訴の相手方は,上訴審の口頭弁論の終結までに付帯上訴をすることによって,不利益変更の禁止を解除し,自己に有利な変更を求めることができる。上訴裁判所から事件が差し戻されたとき,下級裁判所は,その事件の審判について,上級裁判所の判断に従わなければならない(裁判所法4条)。
審級
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「上訴」の意味・わかりやすい解説

上訴
じょうそ

裁判の確定前に、その裁判に不服が生じた場合、上級裁判所に対して行う裁判の取消しまたは変更を求める申立てのこと。

[内田一郎]

刑事訴訟における上訴

未確定の裁判に関する上級裁判所の救済的裁判の請求をいい、具体的には控訴、上告、抗告をいう。上訴権者、上訴期間は法定されている。上訴をするには上訴の利益がなければならない。さらに、現行法は、上訴は、法定の理由のある場合に限ってこれを認めている。控訴申立て理由としては、絶対的控訴理由としての訴訟手続の法令違反、相対的控訴理由としての訴訟手続の法令違反のほか、法令の適用の誤り、量刑不当、事実の誤認、判決後の事情の変更などがあり、上告申立ての理由としては、憲法違反または憲法解釈の誤り、最高裁判所の判例と相反する判断をしたことなどがある。抗告は、とくに即時抗告をすることができる旨の規定がある場合のほか、裁判所のした決定に対してこれをすることができる。ただし、刑事訴訟法に特別の定めのある場合(420条1項、427条、428条1項)はこの限りでない。適法の上訴があれば、同一訴訟は引き続き上級裁判所に係属し(移審の効力)、控訴、上告および即時抗告は、裁判の確定力を停止すると同時にその執行力をも停止させる。即時抗告以外の抗告は、決定をもって執行を停止しない限り、執行停止の効力を生じない。上訴の放棄・取下権者も法定されている。死刑または無期の懲役もしくは禁錮に処する判決に対する上訴は、これを放棄することができない。上訴の放棄または取下げをした者は再上訴することができない。

[内田一郎]

民事訴訟における上訴

民事訴訟の上訴とは、自己に不利益な未確定の裁判について、有利に取消しまたは変更を求めるため、原則として当該訴訟の当事者から上級裁判所に提起する不服申立ての方法をいう。上訴の提起があると、その事件を上級審に係属させる「移審の効力」と、不服を申し立てた裁判の確定を遮断し、かつ執行力の発生を止める「停止の効力」とを生ずる。そして原審の訴訟手続の続行として、裁判の当否を判断するために上級裁判所において審理裁判が行われる。

 上訴は、以上のような性格から次のような諸手続とは区別される。すなわち、再審の訴え(民事訴訟法338条)は判決の取消しまたは変更を求めるための不服申立てである点で上訴と共通点を有するが、その対象が確定判決であるので上訴ではない。同様に、決定・命令に対する再審の申立て(同法349条)も上訴ではない。除権決定に対するその取消しの申立て(非訟事件手続法108条)や仲裁判断取消しの申立て(仲裁法44条)は、申立て事件とは別個に、裁判だけの取消しを求める不服申立てであるから、上級裁判所が原裁判の当否について判断する上訴とは異なる。また、裁判に対する不服申立てが、その裁判をした原裁判所でなされる場合には、その不服申立て(異議)は上訴ではない(たとえば民事訴訟法357条、367条2項、386条2項、390条、393条など)。

 上訴には、控訴、上告、抗告の3種がある。裁判機関に上級審、下級審の区別を設けて、下級裁判所の裁判に対して上訴を許すのは、反覆して審理を行うことによって、当事者の権利保護が適正に行われることを保証し、また当事者に審理の充足による満足感を与えるためである。ことに上告制度(民事訴訟法311条以下)、再抗告制度(同法330条)においては、法規の解釈適用を統一することにも目的がある。

[内田武吉・加藤哲夫 2016年5月19日]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

百科事典マイペディア 「上訴」の意味・わかりやすい解説

上訴【じょうそ】

裁判の確定前に上級裁判所へその取消し・変更を求める不服申立方法。誤判を防止し,同種事項に関する法令解釈の統一を図るのが目的。控訴上告抗告の3種がある。民事・刑事の判決については第一審の上に原則として控訴・上告の二つの上訴を重ねる三審制度がとられている(ただし民事事件に関しては,1996年制定の新民事訴訟法により上告に制限が加えられた)。判決以外の裁判(決定命令)に対しては抗告が許される。
→関連項目仮執行宣言却下終局判決少額訴訟手続

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

普及版 字通 「上訴」の読み・字形・画数・意味

【上訴】じよう(じやう)そ

上に訴える。漢・班固〔東都の賦〕王を作(な)す。~下民號(な)きて上訴し、上懷(おも)ひて監し、乃ち命を皇(光武帝)に致せり。

字通「上」の項目を見る

出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「上訴」の意味・わかりやすい解説

上訴
じょうそ
appeal; Rechtsmittel

裁判の確定前にその適法性または妥当性について上級裁判所に対し再審査を求める不服申立て方法。裁判官の判断は常に正しいとは考えられないから,裁判により不利益を受けた当事者に対して別の裁判官の裁判を受ける機会を与える必要がある。この目的のために下級裁判所の裁判を受けた当事者に上級裁判所の裁判を受けることを認めるのが上訴制度である。上訴の提起によって裁判の確定が遮断され事件が上級審に移審する。上訴によって裁判に不服のある当事者の救済をはかるとともに,当事者の不服申立てを契機として最上級の裁判所は,各下級裁判所においてまちまちである法令解釈の統一をはかることができる。上訴には控訴上告抗告の3種がある。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

知恵蔵 「上訴」の解説

上訴

裁判が確定する前に、上級裁判所にその取り消しまたは変更を求める不服申し立て方法。上訴によって原判決の確定は停止され、事件は上級裁判所に移る。確定後の裁判に対する不服申し立て方法である再審とは異なる。上訴制度の役割は誤判救済と法令解釈の統一で、原則として3審制がとられており、第1審判決に対する事実審への控訴と、控訴審判決に対する法律審への上告が認められている。上告審は刑事裁判では最高裁判所、民事裁判では最高裁と高等裁判所であり、民事裁判の場合、上告理由は憲法違反等に限られ、法令・判例違反のときには上告受理の申し立てができる。下級裁判所の決定・命令に対する独立の上訴方法として抗告があり、裁判官の忌避の申し立て却下に対する即時抗告などがよく用いられる。

(土井真一 京都大学大学院教授 / 2007年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

とっさの日本語便利帳 「上訴」の解説

上訴

未確定の裁判について、上級裁判所へその再審理を求める不服申立方法。控訴・上告・抗告の三種類がある。これにより裁判の確定が妨げられ、事件は上級審に係属する。

出典 (株)朝日新聞出版発行「とっさの日本語便利帳」とっさの日本語便利帳について 情報

今日のキーワード

カイロス

宇宙事業会社スペースワンが開発した小型ロケット。固体燃料の3段式で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発を進めるイプシロンSよりもさらに小さい。スペースワンは契約から打ち上げまでの期間で世界最短を...

カイロスの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android