日本大百科全書(ニッポニカ) 「市民自由センター」の意味・わかりやすい解説
市民自由センター(人権団体)
しみんじゆうせんたー
Center for Civil Liberties
ウクライナの人権団体。英語の頭文字をとってCCLと略称される。2022年のロシアによるウクライナ侵攻後、うやむやにされがちな戦争犯罪の実態を自発的に収集・記録・発信している。
CCLはウクライナの人権擁護と民主主義の促進のため、2007年、ウクライナ首都のキーウに設立された。当初は、民主主義と法の支配を徹底するよう政権に迫り、ウクライナ政府にオランダ・ハーグの国際刑事裁判所(ICC)に加盟するよう求めた。2014年、ロシアによるクリミア半島の強制編入後には、同半島やウクライナ東部などに調査団を派遣し、不法投獄や民間人虐殺の実態の記録を開始。2022年のロシアのウクライナ侵攻後は、キーウ近郊のブチャやイルピンなどで、市街、シェルター、学校、幼稚園などでのウクライナ市民殺害に関する証言を収集。処刑、拷問、暴力、性的暴力、強制移送などの残虐行為や人権侵害の実態を文書やビデオで特定して記録し、国際刑事裁判所やウクライナ検察当局による訴追・立証を支援している。クリミア編入と親ロ派武装勢力との紛争が始まった2014年以来、データベース化した記録は1万8000件を超える。代表はウクライナの人権活動家のオレクサンドラ・マトイチュクOleksandra V. Matviichuk(1983― )。
CCLは2022年のノーベル平和賞を受賞した。授賞理由は「長年にわたり権力を批判するとともに、基本的人権を守る活動に取り組み、戦争犯罪、人権侵害、権力の濫用を記録するために並はずれた努力を重ねてきた」ことであり、なかでも、「戦争犯罪者に責任を負わせるため先駆的役割を果たしている」と高く評価された。ロシアの人権団体メモリアル、ベラルーシの人権活動家ビャリャツキとの共同受賞である。ウクライナの人権団体へのノーベル平和賞授与には、ロシアのウクライナ侵攻に対する平和賞選考委員会の強い非難の意が込められている。
[矢野 武 2023年2月16日]