国際刑事裁判所(読み)コクサイケイジサイバンショ(英語表記)International Criminal Court

デジタル大辞泉 「国際刑事裁判所」の意味・読み・例文・類語

こくさい‐けいじさいばんしょ【国際刑事裁判所】

ジェノサイド集団殺害犯罪)、人道に対する犯罪、戦争犯罪、侵略犯罪を犯した個人を訴追・処罰するための常設の国際裁判所。1998年に採択、2002年に発効した「国際刑事裁判所に関するローマ規程」に基づき、2003年オランダハーグに設立された。ICC(International Criminal Court)。
[補説]日本は平成19年(2007)に加盟。米国や中国は未加盟。ハーグに本部を置く国際司法機関としては「国際司法裁判所ICJ)」もあるが、こちらは国際連合の主要機関の一つで、国際紛争を取り扱う。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「国際刑事裁判所」の意味・わかりやすい解説

国際刑事裁判所
こくさいけいじさいばんしょ
International Criminal Court

国際刑事裁判所(略称ICC)は、国際犯罪を犯した個人を裁くための常設の国際的な司法機関で、オランダのハーグにある。ICCは、1998年ローマでの全権外交会議で採択された条約(「国際刑事裁判所に関するローマ規程」、略称ICC規程またはローマ規程)によって設置された。ICC規程は2002年に発効し、ICCは2003年から活動を開始した。ICC規程には、日本を含む124か国・地域が締約国となっているが、アメリカ、中国、ロシアなど一部の主要国家が参加していない(2023年10月時点)。

 国際犯罪の容疑者を国際的な司法機関で裁くことは、第二次世界大戦後の国際軍事裁判ニュルンベルク裁判)や極東国際軍事裁判(東京裁判)で初めて行われた。冷戦終了後にも国連安全保障理事会(安保理)が、旧ユーゴスラビアやルワンダ紛争に対して国際刑事法廷(ICTYとICTR)を設置してきた。それらの司法機関は、事件がすでに発生した後に設置されたのに対し、ICCは、将来の犯罪のために設置された点に特徴がある。ICCは、国際犯罪に責任ある者が処罰を免れるという不処罰の文化を終わらせ、そのことによって将来の犯罪を防止することを目的としている。

 ICCの裁判は、第一審裁判部と上訴裁判部の二審制によって行われる。加えて検察官起訴までの活動を監督する予審裁判部がある。ICCはこれらの裁判部に加えて、検察局、裁判所長会議、書記局によって構成されている。

 ICCが管轄権を行使できる国際犯罪は、集団殺害(ジェノサイド)犯罪、人道に対する犯罪、戦争犯罪、侵略犯罪の4種類である。ただしICC規程が発効する前の、過去の犯罪は対象とされない。ICCによる捜査は、犯罪が発生したと考えられる事態を、(1)締約国がICCに付託した場合、(2)安保理がICCに付託した場合、また、(3)検察官がその職権で着手し予審裁判部の許可を受けた場合に開始できる。(1)と(3)の場合には、容疑者が締約国の国民であるか、犯罪が締約国の領域内で発生した場合にのみ、ICCは管轄権を行使できる。また、侵略犯罪の場合には、さらに管轄権の範囲が制限されている。

 ICCは、国際犯罪であっても、容疑者を裁く第一次的権限はそれぞれの国家に委ねている。そして、事件が重大なものであって、国家に捜査や訴追を真に行う意思や能力をもたない場合にのみ、事件を受理することとしている(補完性の原則)。ICCは、犯罪被害者に、手続への参加や賠償を求める権利を認めている点にも特徴がある。そして被害者への賠償を支援するために、外部組織として、被害者信託基金(TFV)が設置されている。

 ICCは、2023年10月までにアフリカ諸国9か国、31件の事件を扱い、そのほかにも数多くの予備捜査を行っている。2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵略では、2023年3月にロシアの大統領プーチンほか1名に対して、占領地から子どもを不法に移送した戦争犯罪の容疑で、逮捕状を発付している。他方で自ら警察組織をもたないICCには、他の国家の協力なしには捜査や訴追を十分に行うことができないという限界もある。

[東澤 靖 2023年12月14日]

『村瀬信也・洪恵子編『国際刑事裁判所――最も重大な国際犯罪を裁く』第2版(2014・東信堂)』『東澤靖著『国際人道法講義』(2021・東信堂)』『尾﨑久仁子著『国際刑事裁判所(国際法・外交ブックレット)』(2022・東信堂)』

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百科事典マイペディア 「国際刑事裁判所」の意味・わかりやすい解説

国際刑事裁判所【こくさいけいじさいばんしょ】

国際犯罪を扱う国際的な裁判所。略称ICC(International Criminal Court)。国家間の紛争解決のための国際司法裁判所に対して,個人を対象とする。ドイツや日本の戦争指導者等を戦争犯罪として裁いた第2次大戦後の国際軍事裁判所(国際軍事裁判)や極東国際軍事裁判所,国連の安全保障理事会が1993年に設置を決定した〈旧ユーゴスラビア国際刑事裁判所〉(所在地ハーグ),同じく1994年の〈ルワンダ国際刑事裁判所〉(所在地タンザニアのアルーシャ)などが挙げられる。ジェノサイド条約(1948年)などで常設機関の設置が唱えられ,国連国際法委員会によって検討され,1998年にローマで国際刑事裁判所設立条約が採択された(ローマ条約)。批准国が60ヵ国に達した時点で発効するとされたが,アメリカ,中国,イスラエルは条約採択に反対した。アメリカは2000年12月に条約に署名したが,外国駐留アメリカ兵が訴追されることを恐れ,のちに署名を取り消した。日本は未締約国。2003年3月ローマ条約にもとづく常設の国際刑事裁判所がハーグに開設された。
→関連項目国際警察国際刑事法戦争犯罪

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改訂新版 世界大百科事典 「国際刑事裁判所」の意味・わかりやすい解説

国際刑事裁判所 (こくさいけいじさいばんしょ)
International Criminal Court

国際犯罪を犯した者を審理・処罰する国際裁判所。このような国際裁判所設置の構想は第2次大戦前からあったが,その設置が具体化したのは第2次大戦後のことである。国際連合は,1948年にジェノサイド条約(ジェノサイド)を採択し,それを契機に国際刑事裁判所設置に関する予備的検討や同裁判所規程案の作成を進めてきた。しかし実際には,この裁判所は設置されるに至らなかった。その根本的理由は,主に,第2次大戦後枢軸国の戦争犯罪人を処罰した大国が,将来自国の指導者や国民が被告の席につかされるかもしれないそうした裁判所の設置に抵抗し,消極的であったことによる。

 その後,国際連合では,1973年に採択されたアパルトヘイト禁止条約において,アパルトヘイト犯罪について国際刑事裁判所による裁判を予定し,国際法委員会も〈人類の平和と安全に対する罪に関する法典案〉の審議のなかで,当核事件を扱う国際刑事裁判所の設置を検討し,94年7月に同裁判所規程案が,98年7月には設立条約が採択され,2003年オランダのハーグに常設法廷が設立された。
国際刑法
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知恵蔵 「国際刑事裁判所」の解説

国際刑事裁判所

非人道的な戦争犯罪など、国際社会にとって深刻な犯罪を裁くための常設の国際裁判所。1998年7月、ローマでその設立のための条約(ローマ規定)が採択された。2002年7月1日に発効、史上初めて常設の国際刑事裁判所がオランダ・ハーグに誕生した。随時のものとしてはこれまで、第2次世界大戦後のニュルンベルク国際軍事裁判所と極東国際軍事裁判所、近年の旧ユーゴ国際戦争犯罪法廷とルワンダ国際戦争犯罪法廷の4つがあった。新裁判所が取り扱うことのできる犯罪は、(1)集団殺害(ジェノサイド)、(2)人道に対する罪(拷問や奴隷化など)、(3)戦争犯罪、(4)侵略(ただしその定義は今後決める)の4種類。06年8月現在、すでに4件の申し立てがなされ、うち2件は訴訟が始まっている(いずれもアフリカ諸国関連)。発効直前に署名を撤回した米国は、一方で米国兵士をICCに引き渡さないとする二国間協定を同盟各国と結び、他方で国連平和維持活動に参加した米国兵士をICCの訴追対象からはずす安保理決議を採択させてきた。しかし国際社会の反発と批判は強く、04年6月に米国はこの米兵免責延長を求める安保理決議案の提出を断念した。日本は署名も批准もしていない。

(最上敏樹 国際基督教大学教授 / 2007年)

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「国際刑事裁判所」の意味・わかりやすい解説

国際刑事裁判所
こくさいけいじさいばんしょ
International Criminal Court

個人が犯した集団殺害や戦争犯罪を審理・処罰する国際機関。臨時のものとしては,第2次世界大戦後に設立された国際軍事裁判所 (→国際軍事裁判 ) および極東国際軍事裁判所 (→極東国際軍事裁判 ) がある。常設のものとしては「集団殺害罪の防止及び処罰に関する条約」 (ジェノサイド条約 ) ,「アパルトヘイト犯罪の防止及び処罰に関する国際条約」 (アパルトヘイト犯罪条約 ) 「人類の平和と安全に対する犯罪についての法典草案」の規定に基づき,1998年国際刑事裁判所設立条約が採択され,2002年に発効した。

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