1989年3月にほぼ同時に発表された,M. Fleischmann(サザンプトン大学),S. Pons(ユタ大学)のパラジウム陰極と白金陽極による重水素化水酸化リチウムLiOD 0.1~0.2 mol L-1 重水溶液の電気分解,およびS.E. Jones(ブリガムヤング大学)らの無機塩類重水溶液の電気分解で核融合反応が起こるとした,いわゆる「常温核融合反応」はマスコミを賑わせた.世界中で追試が行われ,電解法以外の乾式法も,チタン中の吸蔵重水素の反応や,重水クラスターによる重水素吸蔵チタン・ターゲット衝撃法などいくつか報告された.アメリカのエネルギー省(USDOE)は,1989年後半に23名の科学者からなるパネルを組織し,詳細な検討を行ったが,「反応を支持する根拠は得られなかった」と結論した.その後,検出装置の進歩や,電極の前処理,電解電流を段階的に増加するなど特殊条件下で再現性が見られたとする研究の進展を受けて,再検討が2003年夏に提案され,2004年12月に18名のメンバーによる検討結果がUSDOEにより公表された.検討対象には重水電解反応だけでなく,Pd,Ti/D系のイオンビーム照射またはグロー放電法も含まれた.結論は,発熱についてはメンバーの約2/3が懐疑的で,前回同様,「低エネルギー核融合反応としては十分な根拠が得られていない」となったが,今後もこの課題の研究を個々の研究者レベルで続けることに関しては,ほぼ全員が一致して賛成した.さかのぼれば1920年代後半に,同様な電解法の研究がドイツ,スウェーデンで行われているが,検出された 4He は大気成分の誤認であったとして,論文および特許申請(Heの製法)は取り下げられている.ミューオン触媒核融合も高温を必要としないところから常温核融合の一種であるが,この可能性は1947年に指摘され,1957年にL. Alvarez(カリフォルニア大学バークレー校)らによって確認されたが,エネルギー収支上ではミューオンの低コスト大量発生法が実現されないかぎり無意味である.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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