日本大百科全書(ニッポニカ) 「ミューオン」の意味・わかりやすい解説
ミューオン
みゅーおん
muon
素粒子の一つで、μ中間子(ミューちゅうかんし)、μ粒子ともいう。μ中間子の名前は、素粒子に対する知識が不十分で、質量の大小で素粒子を分類していた時代の遺物である。スピンは1/2で、フェルミ‐ディラック統計に従う。質量は電子の207.16倍で、電荷は電子のそれに等しい。
湯川秀樹(ひでき)が核力を分析してπ(パイ)中間子の存在を予言したが(1935)、その直後に宇宙線中によく似た質量の粒子が発見された。これはπ中間子とは違うもので(谷川、坂田‐井上の二中間子論)、今日のμ中間子である。
素粒子は、強い相互作用をするハドロンとそれをしないレプトン(軽粒子)、そして相互作用を媒介する媒介子に分類される。電子とともにμ粒子はレプトンに分類される。質量の差異を除き、その性質はほぼ電子に等しい。ワインバーグ‐サラムの理論によれば、電荷負で大きさは陽子のそれに等しい荷電レプトンと中性レプトン(ニュートリノ)が二重項をつくっている。この対として、電子(e)と電子ニュートリノ(νe)、μ粒子とμニュートリノ(νμ)、τ(タウ)粒子とτニュートリノ(ντ)の三つが現在知られている。μ粒子はνμとe(νeの反粒子)を放出して寿命約2.1971×10-6秒で電子に変わる。
[益川敏英]