翻訳|heavy water
普通の水(軽水)よりも比重が大きい水。一般的には水素の同位体である重水素が含まれる。重水を減速材に用いる重水炉は、天然ウランを濃縮せずに燃料として使用でき、核兵器に転用可能なプルトニウムの抽出に適している。重水素と三重水素の核融合反応は
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ふつうの水H2Oの水素原子Hを重水素原子D(ジュウテリウム)で置きかえた化合物。D2O(酸化ジュウテリウム)と書かれ,ふつうの水より比重が大なのでこの名がある。1931年アメリカのH.C.ユーリーらによって重水素の研究と関連して見いだされたもので,第2次大戦までは物理・化学的研究の対象にすぎなかったが,原子力の研究の発展とともに,原子炉の中性子減速剤としてt単位の大量の需要が生じ,現在は工業的に生産され,市販もされている。水素にはHとDの安定同位体があり,一方,酸素には16O,17O,18Oの3同位体があって,それらの存在比はH:D=99.985:0.015,16O:17O:18O=99.759:0.037:0.204である。したがって天然の水の中にはこれらのすべての組合せ,すなわちH216O,HD16O,D216O,H217O,……が含まれている。厳密にいえば,これらのうちH216O(酸化プロチウムまたは軽水と呼ばれる。天然の水の大部分はこれなので,天然水を軽水と呼ぶこともある)を除く他のものはみな重水のはずであるが,17Oや18Oを含むもの(重酸素重水)を16Oを含むものから完全に分離することは技術的に困難で,主として蒸留による濃縮法が利用されるが,純粋なものは得がたい。これに対して,Dを含む重水素重水は,水を電気分解するときにH2のほうがD2よりも発生しやすいために,大量の水を繰り返し電気分解していくと残液中にしだいに濃縮され,100%の純度のものも得ることができる。密度は25℃でふつうの水の1.1079倍,11.9℃に最大密度を示し,融点3.82℃,沸点101.42℃,誘電率80.5(20℃),イオン積0.16×10⁻14(22℃)と,すべて軽水と異なる値となる。塩類の溶解度(表),電解質の電気伝導度,電離度などの値も一般に低くなり,またその中での反応速度も遅くなる。このような化学的性質の変化に対応して重水は生物体に有害となり,重水濃度が増すと植物は発芽しなくなり,魚類は死んでしまう。HとDの存在比から考えると,ふつうの水はH2O 99.985%,D2O 0.015%(%はモル百分率)の混合物ともみられるが,実際はH2O+D2O⇄2HDOの化学平衡があり,H2Oのほうが圧倒的に多い。そのためこの平衡はほとんど右辺にかたよるので,H2O 99.97%,HDO 0.03%の混合物に近い組成になっている。この平衡の平衡定数[HDO]2/[H2O][D2O]の値はほとんど4で,O原子が2本の結合をつくるとき,H原子とD原子は同じ確率で結合されることがわかる。しかし電気分解で水素を発生させるとき,発生した水素中のDとHの比を(D/H)g,残った水の中の比を(D/H)lとすると,両者の比(D/H)l/(D/H)gは電気分解の条件によって3~7となり,発生する水素中ではDの濃度が残った液中よりも1/3~1/7に減り,その分だけDが液中に増加するので,上に述べたような濃縮が可能になる。水素原子を含む種々の化合物を重水に溶かすと,化合物の種類によってその中のH原子はD原子に交換されることもあり,されないこともある。また交換の速度もまちまちである。たとえばアンモニアNH3の三つの水素原子はたやすく交換されて重アンモニアND3になるが,メチルアルコールCH3OHではOH基のHだけがたやすく交換されて重メチルアルコールCH3ODになり,CH3基のHは容易に交換されない。この種の反応を利用して,重水は化学反応の途中で水素原子が分子やイオンの間を移動する過程を追跡するための手段,いわゆるトレーサーとして広く利用され,また上に述べたように原子炉材料として大量に使用される。なお放射性の三重水素T(トリチウム)を含む酸化トリチウムT2Oも,重水の一種とみることができる。
執筆者:曽根 興三
原子炉での用途は冷却材と減速材である。減速材としては原子核の重さが中性子に近い軽いものが良く,水や黒鉛が使用されているが,重水はそのうえとくに中性子の吸収が少ないので優れた減速材である。そのため重水を利用すると濃縮していない天然ウラン燃料を使用することができる。重水を冷却材としても使用する場合もあるが,重水は減速材,軽水は冷却材と役割を分担させる場合もある。
執筆者:大久保 忠恒
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
水は水素Hと酸素Oの化合物であるが、水素には1H(プロチウムH)、2H(ジュウテリウムD)、3H(トリチウムT)の三つの安定同位体があり、酸素には16O、17O、18Oの三つの安定同位体がある。このうち1Hと16Oからできている水を軽水といい、それ以外のHとOとの組合せからできている水を重水という。普通の水は軽水(分子量18)を99.76%含み、それ以外の重水として
のようなものが含まれている。このような含有量は、水の起源、場所などにかかわらずほぼ一定であるが、西アジアの死海や、あるいは深海の水、ある種の生体などでは重水がやや濃縮されている。また、これらの重水のうち、比較的容易に手に入るのは酸化ジュウテリウムD216Oなので、これを重水D2Oということが多い。D2Oの電解速度はH2Oの数分の1程度であるため、水酸化アルカリを含む水溶液を電気分解すると、残液が徐々に重水に富むようになり、また発生する水素中のD2濃度が高くなり、これを酸化して前段階の電解液に加えて濃縮を進める。これにより10万トンの水から約10トンの重水が得られる(そのほか同位体交換法によっても得ることができる)。重水は、通常の水と同じく無色・無臭の液体で、定性的な性質もほとんど変わらない(
)。しかし定量的にはかなりの違いがあり、一般に反応性が乏しく、塩類の溶解度なども小さい。生物に対しては、重水の濃度が小さいときは、生体に対する阻害作用はみられないが、濃くなると現れ、たとえば高等動植物は重水中で正常の呼吸作用や、炭酸同化作用を行うことができなくなり死に至る。D2Oは中性子を吸収することがきわめて少ないので、原子炉の中性子減速材や冷却材として用いられ、その原子炉を重水型原子炉という。[中原勝儼]
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
…このように水の研究は近代化学の発展の最も重要ないとぐちの一つとなったものである。
[軽水と重水]
水は天然に得やすく,精製しやすい物質であるから,19世紀以来,多くの物理量の基準として利用されてきた。たとえば,純水1lの質量を1kgとし,純水の融点を0℃,沸点を100℃とし,また1gの水の温度を1℃上昇させるのに必要な熱量を1calとするなどである。…
※「重水」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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